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第35話 状況と分析 (1巻エピローグ)

 この【世界】と――とりあえず形容しておくが、5クラスが同時にダンジョンの攻略を命じられている。

 その中で、1年1組は【比較的順調】にダンジョンを攻略していた。

 当然、比較の対象は1組以外の4つのクラスだ。

 現時点で2階層を攻略しているクラスは1組のみ。

 さらにボスを連続で討伐した実績もあり、ここまでは担任の期待以上の活躍をしている。

 有力な生徒はオリジナルスキル保持者となった【宮真大翔】【此花彩花】。

 クラスのリーダーとして高い資質を発揮している【九重勇希】【大弥秀】。

 そして、2組から引き抜かれた【三枝勇希】の五人だろう。

 この他にも1組は特化したタイプが多く爆発力に期待できる。

 が……最大の欠点は精神的に問題を抱えている生徒が多いことだろう。

 大きな可能性を秘めているのは間違いないが、その真価が発揮される前に破滅する……と、担任たちからは分析されていた。

 内部から瓦解する可能性が最も高いのはこのクラスだろう。

 もしも賭けオッズが存在しているのなら、決して高いとは言えない。




               ※




 続いて1年5組。

 現時点での有力な生徒は【扇原子猫】【遠峯修吾】の2名だ。

 が、彼らを除いたとしてもポテンシャルの高い生徒が揃っている。

 個々人の資質的な話を抜きに考えても、扇原が持つ【オリジナルスキル】の効果を考えれば、総合能力は他クラスを圧倒しているだろう。

 何より扇原の求心力――人の心を掴む手腕は、持って生まれた人間性という才能と言えるだろう。

 彼女の存在があることで、5組は内部から瓦解する可能性が低い。

 担任たちは5クラスの中では、最も100階層に到達する確率が高いと推測される。

 敢えて問題点を上げるとすれば、1年1組の【宮真大翔】との間にトラブルも発生しており、それが今後どう影響してくるかが不明瞭な点だ。

 また他クラスと比較して善人――正しいことを行おうとする生徒が多い為、それが弱点となる恐れはあるだろう。




               ※




 そして1年3組。

 最下位は免れたものの、1階層では彼らはブービー。

 既に2階層の攻略を始めているものの、今のところは100階層攻略の期待は薄い。

 このクラスは5クラスの中で最も平均的な生徒が揃えられている。

 突出した生徒はいないが、安定した結果を残せると判断されていた。

 が……今のところは振るっていない。

 今後の成長に期待……と言ったところだが、今のところ最初に脱落する可能性が高いのは、このクラスだと推測される。




               ※




 そして次は1階層最下位の1年4組。

 1階層では最下位となり――ある罰則が与えられている。

 また、5クラスの中で彼らは唯一、2階層の攻略を始められていない。

 結果だけ見れば、最も外れのクラスと言えるのだが……4組の担任は大きな期待を持っていた。

 このクラスには有力な生徒がいる。

 その生徒はオリジナルスキルを所持しているのだが……今も獲得条件は満たせていない。

 しかし、これから化ける可能性は十分にある。

 死が迫ることにより人の本質が見える。

 いや――本質が変化する可能性もあるだろう。

 もしもそうなったとしたら、4組の100階層到達率は大きく上がるだろう。

 



               ※




 そして最後――三枝勇希が所属していた1年2組だ。

 2組に集められた生徒の特長は強者と弱者だ。

 5つのクラスで、最も顕著にヒエラルキーが形成されると言えるだろう。

 事実、弱者とみなされた三枝はたった一人でダンジョンの攻略を強いられた。

 いや――攻略ではなく……それは死刑宣告に近かったのかもしれない。

 が……結果的にそれは2組の1階層3位通過に繋がった。

 三枝と【ある生徒】を除いた38名は、未だに一度もダンジョンを探索していない。

 結果だけを見れば、運が味方しているようなクラスなのだが……現在、5組は変化が生まれようとしていた。

 その原因は、


「テメェらに報告があるんだぜっ! うちのクラスの三枝勇希が1組に引き抜かれたんだぜ」


 2組の担任――橘《 たちばな》 楽々《らら》によってクラスの生徒に放送が入った。

 それは少なからず2組に動揺を与えた。

 勿論、クラスメイトが引き抜かれたことを悲しんでいるのはない。

 ポイントの有用性、可能性に驚きを感じたのだ。

 そんな中でただ一人――三枝おもちゃを失ったことに失望している者もいた。


(……あのクソ女が……引き抜かれた!?)


 心を搔き乱している少女の名は――柊《 ひいらぎ》 友愛ゆあ

 彼女は中学時代から三枝勇希を知る生徒であり、イジメの首謀者でもあった。

 執着心が強く攻撃的。

 気に入らないものはありとあらゆる手段を講じて叩き潰す。

 だが決定的なダメージは与えず、少しずつ痛みを与え楽しむ――正真正銘のサディスト。

 その異常性はわざわざ三枝の志望する高校を探り、同じ高校に入学してくる時点で想像に容易いだろう。 


(……こんなことなら、もっとイタぶって教育しておくんだった。アタシに心から屈服してると思ってたのに……あ~クソクソクソクソクソクソクソ! もっとあいつで遊びたかったのによぉっ! アタシに無断でいなくなりやがって! 引き抜きやがったのは誰だ? クソ担任がなんて言ってたか思い出せ)


 柊の心が憎しみに満たされる。


(……そうだ。1組――1組だ。引き抜きをしてもらうまでの過程はわからないけど――いや、あんな能無しのクソ女にできることなんて、男に身体を売るくらいだ。ビッチが! クソビッチがっ! 中学時代に援交《 うり》しろって命令しても拒みやがったクセによぉっ! そんなにアタシから逃げたかったのかあいつは! クソがっ、見つけ出して必ず再教育してやる)


 異常者の憎しみは1組と三枝勇希に向けられ――これは戦果の火種となっていく。

 だが生まれた問題は一つではない。




               ※




 ほんの偶然が重なり1組に興味を持つ生徒がいた。


(……ポイントによる引き抜きとはな)


 その生徒の名は――羅刹らせつ しゅう

 彼も大翔と同様にポイントの可能性や有用法をいくつか想定していた。

 だが自分以外でそれを実行する生徒がいるのは、羅刹にとっては想定外だった。

 引き抜きは他クラスとの関係を悪化させる可能性が高い。

 人間は奪い合う者だと羅刹は考えている。

 が、相手の物を奪うのであれば――それなりのリスクは伴う。

 この引き抜きを指示したのは恐ろしいほどに好戦的な人間か――もしくは、この世界で生き抜く為に必要な手を機会のように打てるのか。

 何にせよ、引き抜きを指示した生徒に彼は興味を持った。


(……少しはオレを楽しませてくれるか?)


 羅刹は好戦的な人間だ。

 競争――いや戦いを好んでいる。

 それは人間の持つ本能だ。

 その闘争本能を満たせる相手は、これまで存在しなかった。

 彼は生まれながらにして奪う側の人間だったのだ。

 その特殊な環境の為か彼は常日頃から退屈していた。

 担任という異常な存在を前にしても、彼は恐怖すら感じることはなかった。

 それよりも興味を持ったのはこの状況だ。

 まるで隔離された巨大施設――さらにはモンスターの存在。

 楽しめそうだと羅刹は期待した。

 だが、元の世界も、この世界も――彼にとっては何も変わらなかった。

 単身でダンジョンに入り、モンスターと殺し合ってみた。

 だが――それは彼を満たすことはなかった。

 刺激的な体験であり、命を奪うことで一瞬だけ満たされた感覚もあるが……それだけだ。

 戦いが終われば心が渇く。

 奪い合いは永遠には続かない。

 だったら、より楽しめそうな相手を求めるしかないと羅刹は考えた。

 結果、


(……次は担任を潰そうと思ってたんだが)


 そう考えながらも、羅刹はまるで期待していなかった。

 教室で担任と対峙した際、せめて恐怖でも与えてくれたのなら、彼には一つの救いになったろう。

 しかし、そんな虚しい相手でもモンスターよりはマシのはず。

 そう思っていたところに――引き抜きの放送が流れた。

 それは羅刹が【他クラス】に興味を持つことに繋がり、選択肢を一つ増やすことになったのだ。


(……担任を狙うか、1組を狙うか)


 相手はどちらでも構わない。

 だから彼は、その決定をゲームで決めることにした。

 2階層を攻略するまでに殺したモンスターの数が【奇数なら担任】を、【偶数なら生徒】を対象にした殺し合いゲームを開始する。


「じゃあ――やるか」


 そう言って、狂気的に塗れた笑みを浮かべる羅刹。

 ゲームを始めた途端、彼にとって退屈な世界がほんの少しだけ明るくなった気がした。




               ※




「てな感じが~、今のところ分析と情報かな~!」


 春日美々はレポートの提出を済ませた。

 それはこの世界の【黒幕】に対してではない。

 担任と名乗る彼女たちのリーダー――【学年主任】に対してだ。


「……まだ2階層とはいえ、脱落者がいないのは素晴らしいですね」


 渡されたレポートを確認しながら、椅子に座っている【少女】が返事をする。


「ふふ~ん、ウチのクラスはもう3階層に到達しちゃったけどね~」

「……そうでしたね」


 小さく頷く。

 その表情に影が落ちる。


「……ねえ、美々ちゃん。

 今度こそ私たちは――勝つことができるでしょうか? 変えることができるでしょうか?」

「さ~ね~! でもでも~楽しいことが起こればいいなぁ。起こればいいなぁ!」

「……そう、ですね」


 美々の言葉を聞きながら、少女は悲しそうに笑った。




               ※




 【今回】の生徒は可能性という意味では面白く、もしかしたら100階層への到達者が現れるかもしれない。

 最後に勝利するのは誰なのか。

 いや、そもそも勝利者など存在するのか?

 様々な思惑が入り混じりながらも――この世界の絶望が加速していく。


「――また無駄なことをしてる。

 どうせまた、みんな死ぬのにな」


 声が聞こえた。

 それは誰のものだったかはわからない。

 でも、その悲しく冷たい口振りは――未来の結果を見通しているかのようだった。

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