第34話 いつかの笑顔
「助かる!」
柄にもなく、二人には本気の感謝をしてしまう。
ここからはとんとん拍子で。
「人命救助も兼ねてってことだもんね。
なら、ボクたちは全面的に正しいじゃん」
「おう! 流石は宮真くんだ! 引き抜きはすべきだろ!」
「1組にもメリットはあるし、人助けできるならいいんじゃね?」
「うちもそう思う! てかしない理由なくない?」
もう反対する生徒はいない。
満場一致で、三枝勇希の引き抜きが決定したのだった。
「え~と……じゃあ、最終確認。三枝さんの引き抜きには、クラス全員賛成でいいんだよね~?」
「はい。
僕たちは宮真くんの提案に賛成し、クラスポイントを300払います」
クラスを代表して、大弥が担任に答えた。
正確には俺の持つ個人ポイント1700と合わせて、合計2000ポイント。
これで俺は素寒貧だが、三枝を救えるのなら安い物だろう。
「よ~し! じゃあポイントを貰うよ~。
みんな、ポイントトレードのやりかたは知ってる?」
「……ポイントはトレードできるんですか?」
「できるよ~。
クラスや個人でポイントの受け渡しは可能。
やり方は簡単、アイテムトレードの画面を開いて渡すポイントを入力するだけ!」
担任が説明した。
俺はアイテムトレード画面を出す。
そして、担任を対象に選択して1700ポイントと入力した。
(……うん? 待てよ?)
俺が1700ポイント。
そしてクラスで300ポイントを払うのはいい。
だが、
「先生、300ポイントと入力しました。これを送ればいいのでしょうか?」
「くれる(・・・)なら、ちょうだ~い」
引っかかる物言いだ。
もし俺の推測が正しいのなら。
「――大弥、少し待ってほしい」
「どうしたんだい?」
不思議そうな顔をする大弥には答えず、俺は担任に目を向けた。
「あんたに質問がある」
「むっ、あんたじゃなくて先生! もしくは美々ちゃんでもOKだよ~! あ、先生の名前忘れてないよね? 春日美々ちゃんだぞ~?」
完全に忘れていたが、今はそんなことどうでもいい。
「こういった生徒の引き抜きに渡すポイントは、全額まとめて渡す必要があるのか?」
「……はぁ~気付いちゃったかぁ」
気付いた……この言葉の意味を理解しているのは、この場で俺だけだろう。
何せクラスメイトたちは、三枝の引き抜きは300ポイントで可能だと思っているのだから。
「聞かれたからには答えるね。分割や一部だけ渡すというのは不可」
「それはつまり、僕がポイント数を誤ったとすると渡し損になるということですか?」
「多く渡せば先生は返せないし~、少なかったとしたら全ポイント払い直しだよ!」
軽いノリでとんでもないことを言ってやがる。
「詐欺師かよ」
「むぅ……酷いなぁ~。こうして聞かれたからルールを教えてあげたでしょ? 先生はイジワルしてるんじゃないからね。これでもみんなの味方なんだから! でも、ルールには従わなくちゃいけないのだ!」
だったらそのルールを最初から教えろ。
言ったところで教えるつもりはないだろうけど。
いや……もしかしたら、教えられない理由があるのだろうか?
情報開示の許可……とか、こいつが言っていたことがあったもんな。
担任の上にいる存在――黒幕がいる可能性は高そうだ。
「大弥、俺に一度300ポイントを渡してもらってもいいか? 入力に間違いがないか確認してから、担任に渡すというのはどうだ?」
「わかった。万一のミスもあるかもしれないから、それがいいね」
まず、俺が大弥から300ポイントを受け取った。
すると個人ポイントとして加算され、手元にあるポインが2000となった。
どうやら個人にクラスポイントを譲渡すると、個人ポイントに変更されるようだ。
「先生、送るぞ」
「は~い。
ポイントに間違いはないよ。ちゃ~んと受けとりました~」
最後に面倒があったが、これで引き抜きの条件を達成した。
「後は先生に任せていいのか?」
「うん。今から三枝勇希さんを1組に転移させま~す!」
その発言の直後――
「え……?」
教壇に立つ担任の隣に三枝が現れた。
目をパチパチさせて室内を見回す。
「あ、あれ……? ここって……? 宮真くん……がいる」
「俺たち1組が2組からお前を引き抜いた」
「引き、抜き……?」
意味がわからない。
そんな顔をしていたけれど。
「これからお前は1組の生徒ってことだ。ここには2組の連中は一人もいない」
お前をイジメていた奴はここにはいない。
それを伝える為の言葉。
「……あたしが1組の……宮真くんと同じクラスに……」
まだ唖然としていた。
「あたし……ここにいていいの?」
「当たり前だろ」
脅えたように口にする三枝に対して、俺は即答した。
「大翔くんだけじゃなくて、私ともよろしくね!」
そんな勇希の言葉を皮切りに、
「あとで自己紹介してほしいな」
「よろしくね! 三枝さん!」
「なんだか凄いスキル持ってるんでしょ! 一緒にがんばろうね!」
三枝は1組の生徒たちに温かく迎え入れられた。
「……あ、えと……あたし、あれ……」
三枝の目から涙が零れる。
生徒たちはそんな三枝に戸惑っている。
俺にはこの涙の意味はわからない。
嬉しいのか、ほっとしたのか。
それともまた別の感情があるのか。
「ご、ごめんなさい! ちょっとだけびっくりしちゃった」
ごしごしと目を擦って、
「宮真くんや九重さんから聞いているかもしれないけど、あたしは三枝勇希です! 皆さん、これからよろしくお願いします!」
三枝は眩しい笑顔と共に真っ直ぐ俺を見つめる。
その笑顔は俺に『ありがとう』と語っているかのようだった。
俺は三枝に『逃げ道』という救いを用意した。
彼女の過去を知る者はここにはいない。
自分を変えたいと言っていた三枝が、本当になりたい自分になれるか。
後は本人の努力次第になるが……できることならその結果を見届けたい。
それまで俺が生き延びることが出来れば……だが。
「は~い、それじゃあ引き抜く完了だね~! 三枝さんの席は先生がサービスしておくねん!」
担任が指をパチンとならす。
すると、俺の後ろに一つ席が追加されていた。
「三枝さんの席は宮真くんの後ろね~。
さてさて……思ったよりも時間が取られちゃったから、質問がないようなら先生はドロンさせてもらうよ~」
誰も声を出す生徒はいない。
「それじゃあ、バイバ~イ! みんなが生きてたら、また会おうね~!」
不気味に笑いながら、担任――春日美々は音もなく消えた。
静寂の後……三枝は嬉しそうに俺に駆け寄って来た。
「宮真くん……!」
はしゃぐように俺の名前を呼ばないでほしい。
他の生徒から注目を浴びてしまう……が、ここで無視するのは不自然か。
「三枝、改めてになるが――同じクラスの【仲間】として、これからよろしくな」
俺は手を差し出す。普段はこんなことはしないのだけど……今だけは特別だ。
「――うん!」
力強く頷いて、彼女は俺の手を取った。
なぜだか再び、三枝は涙目になる。
その泣き笑いは不思議と俺の記憶に残るもので――。
(……あれ?)
違和感を覚えた。それは多分、気のせいだと思うけれど。
クラスメイトになった少女の泣き笑いを見つめながら、俺は昔――この笑顔をどこかで見たことがあるような……そんな気がしたんだ。




