第32話 勝算
※
探索を進めながら、俺は周囲の気配を探る。
(……敵の気配が一気に弱まったな)
これはレベルが上がったことが関係しているのだろう。
今の俺のレベルは18。
これは本来、2階層でなれるレベルの限界を超えているだろう。
通常のモンスターを倒しても、これ以上のレベルアップは望めなそうだ。
(……それなら、勇希や三枝にレベルを上げてもらった方が今後の為か)
元々の目的の一つ――ボスモンスターの討伐は済ませた。
後は2階層を攻略するまでサポート役に徹しよう。
※
階層が上がるごとに、モンスターの数が増加すると担任は言っていた。
明言された通り、確かにモンスターとの遭遇率は向上している。
三枝がパーティに加入してから、あのスライムとの戦闘を合わせて6度の戦闘があった。
俺がモンスターたちを引き付けている間に、他のメンバーが攻撃を加えて倒す。
それを繰り返しているうちに、パーティメンバーのレベルは全員4まで上がっていた。
既にかなりの時間探索をしていると思うが、まだマップは五分の一ほども埋まっていない。
今日中に3階層の扉を見つけるのは無理そうだ。
と、思いながら通路を進んだ先に大きなフロアがあった。
「みんな、見て! 扉があるよ!」
勇希の顔がぱっと明るくなった。
「す、すごい! あたしたち、もう扉を見つけちゃったんだ!」
びっくりしつつも、三枝は嬉しそうだ。
それは、1階層の苦労を知っているからこその反応だろう。
「じゃあ……ミャーたち、もう2階層を攻略しちゃったの?」
「……思っていたよりも順調だったな」
桜咲と瀬乃は、想定よりも楽な攻略ができたことで拍子抜けしていたようだ。
「それはヤマトたちのサポートがあったからだよ」
此花の言うように、情報を持った者がいることで探索を優位に進められたのは間違いないだろう。
「大翔くん、このまま2階層を攻略する?」
「しない理由があるの? ボクたち今なら1位通過だよね」
2階層を攻略したという放送はまだ入っていない。
つまり……他のクラスはまだここを見つけていない可能性が高いだろう。
これならもう少し俺たちも探索を続けて、アイテムを探したり、モンスターを討伐してレベルアップしておくのも手か?
だが、ここを離れれば他のクラスが先に階層攻略してしまう可能性もある。
誰かをこの場に残して探索を……いや、その提案をしても勇希は納得してくれないだろう。
彼女の性格を考えれば、全員で行動すべきだと言われそうだ。
そうなると……2階層を1位通過するほうがメリットは大きい。
ポイントを多く獲得しておけば、様々な点で優位に立てるのは間違いない。
今回は十分な結果を得られたのだから、これ以上は欲張るべきではないだろう。
「このまま2階層を攻略しよう」
「わかった」
勇希が扉に触れた。
『1組の生徒が3階層に繋がる扉を発見しました。よって1組は第2階層攻略完了となります』
直ぐにダンジョン全体に攻略の放送が流れ、俺たちは2階層を攻略した。
――ただ一人、2組の三枝をダンジョンに残したまま。
※
2階層を攻略した俺たちは、教室に転移していた。
「はぁ……無事に戻って来れたね」
「ああ。他のパーティは……」
俺と勇希は室内を見回す。
「あ、あれ……戻って来てる?」
「こっちは丁度、モンスターを倒したところだぜ」
「レベルアップと同時に通知があったよね」
思っていたよりも穏やかなムード。
見た感じ、クラスメイト四十人――誰も欠けてはいないようだ。
しかも、
「みんな~! おっめっでっと~~~~!」
担任が教室にいた。
着ぐるみにも関わらず、ニヤッと笑っている。
「まさか1位通過するとは思わなかったよ~。
先生、本当にびっくり! しかもしかも~、2階層に続きボス討伐のMVPを獲得しちゃうなんてね~」
ボス討伐――という言葉に、生徒たちからは驚きの声が漏れた。
一体、誰が? などと憶測が飛び交う中、
「1位通過の報酬はなんとびっくり1000ポイントだよ!」
1000ポイント――その数字に、さらに教室内はざわめいた。
2位の時は半分の500ポイント。
1位と2位でこれほどまでに差があるのか。
「ちなみに~、3位は250、4位は100、5位は50。
順位によるポイントの割り振りはこんな感じだよ。
連続で5位とか取っちゃうと、本当に悲惨だからね~!」
50ポイントじゃ、日々の食事にすら困るレベルだ。
もし連続で最下位なんてことになれば、クラス内で奪い合いが起こるかもしれない。
それを想定して、担任は悲惨と口にしたのかもしれない。
「……さて、次はボス討伐のMVPについてなんだけど……――これはそうだね。二人で話そうか――」
担任が俺を見た。
同時に室内のざわめきが消えていた。
(……なんだ?)
疑問に思ったのも束の間。
「キミ以外の時間を止めたんだよ~! その方が都合がいいんでしょ?」
担任は俺の考えを読んだのか、そんなことを言った。
「あ、言っておくけどキミを特別扱いしてるんじゃないからね。
これはボスを連続討伐した際の特典のおまけ。
みんなに聞かれたら、本当に叶えたい願いを口に出来ないでしょ?」
「……そういうことか」
「だからクラスのみんなに気兼ねする必要はないよ! 担任として、キミのお願いを1組の生徒に伝えることはないから」
そんな配慮するのなら、この世界に対する説明がほしいくらいだ。
「……願いを言う前に質問がある。それは許可してもらえるか?」
「いいよ~。
なにかな? なにかな~?」
「元の世界に帰してくれ。という願いはありなのか?」
「あ~やっぱりそれを聞くよね~。
でもでも~~~~ざんね~~~ん!! 無理で~す! 覚えているかはわからないけど、叶えられない願いはあるって言っておいたよね」
やはり無理か。
なら、
「……2組の生徒――三枝勇希を1組の生徒にしたい」
もう一つの願いを口にした。
「へぇ~……引き抜きってこと? キミ、面白いことを考えるね」
担任は怪しく微笑む。
「できるのか?」
「原則として引き抜きも難しいなぁ~。クラスの担任と相談しなくちゃならないからね」
「条件次第では可能なのか?」
「……う~ん……ちょっと待ってね」
そう言って、着ぐるみは黙り込んだ。
何かを考えているのだろうか?
……それから少しして。
「OK。
2階層で1位を取ったキミたちへのご褒美に情報開示が許可されたよ。
実はね~、生徒たちにはそれぞれ、活躍に応じて価格が決められているんだ」
「価格?」
「そう。
だからもし、誰かを引き抜きたいなら価格に応じたポイントを払ってもらう必要があるの。
移籍金みたいなものだね~! ちなみに、支払ったポイントの半分は移籍する生徒のクラスに振り込まれるよ」
それは引き抜きを想定していたような口振りだった。
が、ポイントで引き抜けるならそれに越したことはない。
「三枝を引き抜くのにはなんポイント必要だ?」
「ちなみに、どんな無能な生徒でも最低500ポイント必要になるよ」
階層を2位通過の報酬が丸々消える額だ……が、俺には個人ポイントが700ある。
さらに、
「今回のボス討伐の報酬は何ポイント入る?」
「今回も1階層と同じく1000ポイントだよ。
ちなみに三枝勇希ちゃんの価格は~……2000ポイントだね」
「……あんた、本当にいい性格してるな」
俺の手持ちは今、1700ポイント。
もしクラスの為にポイントを消費していなければ、引き抜きは可能だった。
「これでもMVP特典での割引価格なんだから~! ちなみに現時点で1番高いのはキミで15万ポイント」
「俺……?」
しかも15万!?
引き抜きはほぼ不可能なポイントだろう。
「そうだよ~。で、2番目は10万ポイントで扇原子猫さんだね」
どういう基準で価格は設定されるだろうか?
しかも現時点ということは、価格は常に変動するということだよな?
「三枝さんは、能力自体は5クラスで最低なんだけどマッピングスキル持ちでしょ? だから価格設定が高いの! 5クラス合わせても、マッピングスキル持ちは彼女しかいないんだから!」
「は?」
全クラスで三枝だけ?
「マッピングはオリジナルスキルなのか?」
「違うよ」
「おい! 言ってることおかしいだろ! 固有技能でないなら、他の生徒だって使えるはずだろ?」
「……ワタシは嘘は吐いてないよ~? でも、これ以上は情報開示許可が出てないから答えられませ~ん!」
こいつ、絶対に嫌がらせしてるだろ?
どこまで言ってることが信用できるのか……。
「とにかく2000払えば許可してくれるんだな」
「うん。キミにそれが出来ればね」
それは、クラスメイトを説得するなんてお前には出来ないだろ? と言われているようだった。
「……やってやるよ」
「へぇ~意外。
自信ありそうだね~。
ま、じゃあお手並み拝見とさせていただきましょう。
もしダメでも別のお願いなら叶えてあげられるから、その時はまた相談してくれていいよ~」
担任の言葉と同時に再び世界は動き出し、教室は一気に騒がしさを取り戻す。
クラスポイントから300出してもらわねばならない。
これは非常に骨が折れることかもしれないが……俺には十分な勝算があった。




