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第3話 目覚め

              ※




「……や……く……」


 ん?


「や……と……くん」


 なん、だ……?


「大翔くん!」

「!?」

「あ――やっと起きた!?」


 目を開くと、俺を心配そうに見つめる勇希がいた。

 あれ?

 なんで俺……こんなところで眠ってたんだ?

 少し前の出来事を思い出す。

 そう……確か、入学式が終わった後、教室にいて……。


「そうだ……担任――クマがいた、よな? あのクマはどうしたんだ?」

「……わからない。でも、気付いた時にはもういなくなってたの」

「いなく……?」


 周囲を見回す。

 ここは確かに教室の中だ。

 が、担任と名乗ったあのクマはいない。

 それに……。


「窓の外が……」

「私が起きた時にはもうこうなってた」


 快晴の青空が消え、暗闇に覆われていた。

 この状況は夜ではない。

 そんな中途半端な暗闇ではない。

 窓に近付く。

 が、窓の外は闇一色。

 何も見えない暗黒だった。

 一体、何が起こっているのだろうか……?

 ここは確かに教室。

 だが、明らかに異常な世界がここにはあった。


「あ……そうだ。他のみんなも起こさないと……」


 俺が状況を確認している間に、勇希は眠っている生徒に声を掛けていた。

 徐々に生徒たちが目を覚ましていく。

 だが、


「な、なんだか暗くない? よ、夜になってる……?」

「え? なんで? ここ教室だよね……?」

「ね、ねえ、外の景色おかしくない!?」


 目覚めた生徒たちは、この状況に戸惑いの声をあげていく。

 しかし、この状況を説明できるものは誰一人としていない。


「ねえ! あの不審者は? あいつはどうしたの!?」

「そうだ……クマみたいのがいたよな?」


 生徒たちが担任の姿を探すが、当然のようにどこにもいない。


「とりあえず、先生に報告した方がいいんじゃない?」

「そ、そうだね。じゃあ僕が行ってくるよ」


 見るからに爽やかで好青年といった見た目の生徒が席を立つ。

 自主的に動いてくれる奴がいるのはありがたい。

 何か情報が欲しいのは、この場にいる全員が同じ――


「はいはーい! 注目~! クラス内放送で~す!」


 教室に備え付けられたスピーカーから声が聞こえた。

 あのクマの声だ。


「みんな戸惑ってる~? 戸惑ってるよねぇ~?

 そう思ったから、今から特別に説明してあげる!

 なにせワタシは担任なのですから~! これも義務ってやつですよね~」


 教室内の騒ぎが広がる。 

 が、そんなことはお構いなく、スピーカーの声は止まらない。


「まずキミたちがしなければならないこと。このクラスの目標を話すね」


 戸惑う俺たちなどお構いなしに、話は勝手に進んでいく。


「キミたちには、ダンジョンを攻略してもらいます!」

「こ、攻略? なんだよそれ!?」


 皆の疑問を代弁するように一人の生徒が声を荒げた。


「そうだよ~!

 扉の先にはダンジョンが広がっています~!

 モンスターもいっぱいいるから要注意!

 油断してると、本当に死んじゃうからね~!」


 は……?

 ダンジョン? モンスター?

 しかも、死ぬ?

 意味が分からない。

 理解が追いつかない。


「ちなみにダンジョンの数は100層。

 各階層を【攻略したクラス】には、特別ポイントが支給されちゃいます~。

 攻略した順番によって得られるポイントは変わるからね!

 特別ポイントは色々なことができるんだけど、今はその説明は省くね」


 戸惑う生徒たちなどお構いなく、話はどんどん進んで行く。


「ここに来た時点で、キミたちには特別な力が芽生えていま~す。

 詳細はステータスを確認してみてね。

 ダンジョン内には装備とか、アイテムとかも落ちてるよ。

 この辺りもゲームと一緒! あ、でも気を付けて、死んだら生き返ることはできないから!」


 不気味なクマが口元を歪める。


「それと、他のクラスに負けないようにね!

 ビリのクラスにはペナルティがあるよ~!

 ちなみに教室の中は安全。

 モンスターは入れないの。

 だから休憩するなら教室でね!

 じゃあこれで説明終了! みんな――ダンジョン攻略いってら~」


 気楽な声が響いた直後、スピーカーはぷつりと途絶えだ。

 かと思いきや、


「あ、ごめんごめ~ん。

 一つ言い忘れてた。

 さっきワタシがスマホを壊しちゃった子がいたよね?

 キミにはサービスしておくから! それじゃあね~ん!」


 今度こそ、クマ女の放送が終わった。

 スマホを壊しちゃった子って……俺のことか?


「い、意味わかんねぇよ!?」

「だ、ダンジョン攻略って、死ぬって、どういうこと!?」


 疑問が尽きないのは、他の生徒も同様だ。

 クラス内は大騒ぎが起こっている。

 担任(クマ)からの説明が終わっても、これが事実だと受け止めることは難しいだろう。


「……おいおい。

 馬鹿じゃねえの? お前ら今の話マジで信じてんのかよ?

 ダンジョンなんてありえねえだろうが」


「で、でも……」


「ビビッてんじゃねえよ」


 髪を金髪に染めた柄の悪い男子が立ち上がり扉に向かう。


「おら! お前らよく見ろ」


 そして勢いよく扉を開いた。


「ほらな。

 ダンジョンなんて――ぇ……」


 さっきまでの威勢が嘘のような、情けない声が漏れた。


「う、嘘だろ……?」

「なんだよ、なんなんだよこれええええ!?」


 絶叫が響いた。

 扉の先には――物語に登場するような迷宮が広がっていたのだ。


(……どうして、こんなことになってる?)


 ただ俺は平穏に学校生活を送るはずだった

 それが、なんでこんな……。


「意味わかんないよ!

 ダンジョン攻略? 本当にモンスターと戦うの!?」

「た、戦うって……私たちが?」


 生徒たちの間で混乱が広がり騒ぎが大きくなっていく。

 俺も未だに状況を理解できないが……ここが本当にダンジョンなら、担任の発言は生きる為に必要な情報のはずだ。

 戸惑いを抑え頭の中を整理しながら、覚えている限りの話をまとめていく。

 それと同時に、


「……九重、スマホの電波って繋がってるか?」

「ぁ……直ぐに確認してみる!」


 自分のスマホを確認できれば済む話なのだが、俺のスマホはさっき担任に破壊されてしまった。


「ダメ……電波がない。

 アプリも……起動しないみたい」

「……そうか」


 救助を呼べればと思ったのだが、どうやら不可能のようだ。

 考えながらもノートにメモを取っていく。

 担任の発言で気になったのは、ステータスという言葉だ。


(……ゲームと同じだとかなんとか言ってたよな?)


 意識した途端――




               ※




○ステータス

 名前:宮真 大翔 年齢:15歳

 レベル:1

 体力:38/38 魔力:28/28

 攻撃:20   魔攻:20

 守備:10   魔防:5

 速さ:18

     

・魔法:炎の矢(ファイアアロー)

・オリジナルスキル:一匹狼《 ローンウルフ》




               ※




 頭の中に詳細が流れ込んできた。

 そして、ステータス画面のようなものが視界に映る。

 担任の言っていた不思議な力というのは、これのことか?


(……それに、ステータスに映った魔法やオリジナルスキルという項目……)


 本当に魔法が使えるようになっているとするなら、モンスターがいるというのも事実?


(……状況を確認する必要はあるが……一人で教室の外に行くのは自殺行為だ)


 クラスメイト数人で行動した方がいいかもしれない。

 だが……こんな状況で冷静に行動を起こせる生徒はいないだろう。

 生徒たちは今も阿鼻叫喚していて、騒ぎが治まる気配はない。


「――みんな! 気持ちはわかるけど、まずは落ち着いて!」


 そんな中、クラスメイトに呼びかけたのは、教師を呼びに行こうとしていた好青年だ。


「お、落ち着けって……」」

「慌てたって状況は変わらない。出来ることを冷静に一つ一つ試すんだ」


 冷静に生徒たちを纏めようとしているが……この状況で上手くいくだろうか?


「出来る、こと?」

「まずは、スマホで助けを呼べないか確認してみよう」

「あ……それはダメだったよ。電波は届いてないみたい」


 冷静な成年の言葉に、勇希が返事をした。


「救助は呼べない……か。もう少し色々と整理していこう。

 と、その前に……名前だけは伝えておかないと不便だよね。

 僕は大弥(おおや) (しゅう)


 そして――この大弥を中心に状況の整理が始まった。

 しかし、動揺していた生徒たちの中に、スピーカーから流れる声を冷静に聞いていた者は少ない。

 その為、俺が紙に書きだした情報すら集まらなかった。

 情報がなくては行動を起こす生徒はいない。


(……仕方ない)


 俺はクラスメイトに情報を提供することにした。


「……九重」


 俺は小声で話し掛けた。


「ん、何かな?」

「これをみんなに伝えてやってくれ」

「え……?」


 ノートのページを千切り、紙を手渡す。

 それを勇希が見た。


「これって……」


「この状況を俺がわかる範囲でまとめた。

 担任が言っていたことも記述してある」


「だったら大翔くんが……」

「俺は人前に立って何か言うのが苦手なんだ。頼む……」


「…………わかったよ。ありがとう、大翔くん!」


 小声での会話を終えて。


「みんな、ちょっといいかな!」


 そして勇希は、俺がまとめた情報をクラスメイトに伝えていく。




               ※




1:スマホの電波は通じない。

  このことから、俺たちは元いた場所とは別のどこかにいる可能性が高い。

  電波が通じないということは地下?


2:ダンジョンに関して

  ダンジョンというのは、何らかの実験的な施設か?

  それが全部で100層まである。

  各階層を攻略したクラスという発言から、ダンジョン攻略に参加しているのは、このクラスだけではない可能性が高い。


3:ダンジョンにはモンスターがいる。

  モンスターは人を襲う?

 【特別な力】を使うことで倒せるらしい。

  この世界では、何かしらの力が生徒たちに芽生えている。

  ステータスを確認すると、自身の能力詳細がわかる。


4:特別ポイント。

  各階層を攻略するとポイントが支給される。

  攻略順に応じてポイントの増減あり。

  用途はまだ不明。


5:ペナルティの存在。

  ダンジョン攻略が最下位となったクラスは、何らかのペナルティがある。


6:教室内は安全。

  モンスターが入って来られない。




               ※




「この短時間でこんなに……えっと……ごめん、君《 きみ》の名前は?」

「自己紹介が遅れちゃったね。

 私は九重勇希」


「ありがとう、九重さん。

 こんな状況だけど、君のお陰で少しだけ考えが整理できたよ」

「ぁ……その……」


 勇希がちらっと俺を見たのがわかった。

 事実を伝えるべきか、一瞬悩んだのだろう。


(……頼むから余計なことは言わないでくれよ)


 そんな俺の想いを察したのか。


「……うん。みんなの役に立ったなら良かったよ」


 勇希は人当たりのいい笑みを浮かべた。

 こんな状況だと言うのに、男子生徒たちが勇希に見惚れている。

 徐々にだが、大弥と勇希を中心にクラス内のヒエラルキーができつつあるのかもしれない。


「ごめんね……大翔くん」

「いや、助かった」


 小声で謝罪されたが、寧ろ感謝だ。

 こんな状況でも、俺はできる限り他人と関わりたくはないのだから。

 だが本当にダンジョンを攻略するなら、一人でできることは限られている。

 他者と協力しなければ生き抜くことすら難しいかもしれない。

 だが、人は裏切る生き物だ。

 こんな状況では自分が助かる為になんだってする奴だっているかもしれない。

 なら、どう行動するのが最善か。


「みんな……こんな状況でなんだけど、まずは自己紹介をしないか?

 僕らはまだ、互いの名前も知らないだろ?」


 クラスメイトが落ち着いてきたのを見計らって、大弥が口を開いた。


「なに呑気なこと言ってんだ! そんなことしてる場合かっての!」


 さっき扉を開いた金髪の男子生徒が声を荒げた。

 呆れと焦りが混じらせながら、目付きの悪い三白眼を大弥に向ける。


「こんな事態からこそ必要なんだ。

 僕らを攫った首謀者は、ここが安全ポイントだと言っていたよね?

 つまり、ここで僕らは話し合いも含めて、様々な準備をする時間を与えられていると思うんだ」


「話し合い? 準備? 笑わせんなよ。

 こいつらを信用しろってのかお前は?

 もしかしたら、オレらを攫った犯人が紛れ込んでるかもしれねぇだろ?」


 大弥と三白眼は互いの意見をぶつけあう。

 どちらの発言にも一理ある。

 だが、無謀な行動が命取りになるのは間違いない。

 ここにいる全員――教室の外に広がる異常な光景を目にしているのだ。


「……そうかよ。

 無駄な時間を過ごすくらいなら、オレは一人で行かせてもらうぜ。

 モンスターなんて出るかっての」


「待ってくれ。一人で行くのは危険だ」


「大弥くんの言う通りだよ。もし本当にモンスターがいたら……」


 勇希が三白眼のクラスメイトを引き留めようとしたが、


「うるせぇよ。オレは勝手に行かせてもらう」


 二人の静止を振り切るようにして、男は扉の外に出ていってしまった。


「……お、追いかけないと……!」

「ダメだ、九重さん。君にまで危険が及ぶかもしれない」


 先に動くメリットはある。

 紙には敢えて記入しなかったが、ダンジョン内には装備やアイテムがあると言っていた。

 もしそれが事実なら、道具の類は有限と考えられるだろう。

 それを先に手に入れれば、ダンジョンの攻略を有利に進めるようになるかもしれない。

 だが、リスクを考えればせめて数名で行動すべきだ。

 あの不良の行動はあまりにも軽率過ぎる。

 何があっても自業自得。

 たとえ後味の悪い結果になろうと、割り切って考えるべき――。


「……でも、見捨てられないよ!」


 俺が考えていると、偽善的な発言が聞こえた。

 それは勇希の声だ。

 対して、また生徒たちが騒ぎ始める。


「だからって、あいつを追いかけるのかよ?」

「わ、わたしはイヤだよ!」


 実際にあの生徒を助ける為に、行動を起こす者はない。

 リスクが高すぎることはこの場にいる全員がわかっている。

 だが、


「九重さん!」


 勇希が飛び出すように教室を出て行った。


(……あいつ!?)


 なんでこんな馬鹿なことを!?

 焦燥感が心を揺らす。

 だが……良く考えればこの行動は当然だ。、

 俺の知っている九重勇希が昔のままなら、見捨てられるわけがない。

 彼女の行動はあまりにもお人好し。

 あまりにも考えなし。

 危険を犯してまで他人を救おうとするなんて……ありえない。

 本当に、変わってない。


「――っ!」

「なっ!? 君、ちょっと待って――」


 気付けば俺は、大弥の静止も聞かず教室を飛び出していた。

 馬鹿な行動だ。

 自分でもそう思う。

 他人を見捨てることなんて簡単だ。

 心は痛むかもしれない。

 でもそれだけだ。

 何も行動しないのが正しく。

 それが賢い選択のはずだ。

 そんなこと、わかってるはずなのに。


(……ああ――クソッ!!) 


 俺はあいつのことだけは――見捨てることなんて出来ない!

 守るって約束したから、だから――

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