第29話 新しいパーティメンバー
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昨日のうちに決めておいた通り、俺たちは五人パーティで行動することになった。
「少しでも危険だと判断したり、怪我をした生徒がいれば直ぐに教室に戻ってほしい」
大弥がそれだけは徹底するように伝える。
すると、クラスメイトもしっかりと頷いた。
「油断するわけじゃないけどさ、武器も持ったし意外となんとかなるだろ?」
「そう思いたいだけだろ?」
緊張を紛らわすように軽口を交わし合う生徒たち。
「みんな本当に無理だけしないようにね」
大弥がクラスメイトに根を押した後、俺たちの2階層攻略が始まった。
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俺たちのパーティは先行してダンジョンを進んでいた。
「ダンジョンの中って、すっごくじめじめした感じなんだね」
「それに、薄暗くて不気味だよ」
そんなことを言ったのは、鍛冶系スキルを獲得する為に探索に同行している二人だった。
恰幅が良く優しげな男が瀬乃小太郎《 せのこたろう》で。
ショートカットの元気娘の方が、桜咲美亜子《 さくらざきみあ》というらしい。
「私も1階層に入った時、同じことを思ったよ」
「途中の分岐も多いし、ボクたち今迷ってないよね?」
「そうならないように、分岐のたびに印を付けてるんだ」
分岐の際に、石壁に適当な印を付けた。
1階層では考えなしに進んだ結果、最悪なことになったからな。
それに……俺自身、今回はある目的を持って進んでいる。
ダンジョンを攻略するというのは当然だが、狙うはボスの討伐だ。
1階層では運良く倒すことが出来たが、ボス討伐による特別ポイントは大きい。
何より、オリジナルスキルを試すには絶好の相手だ。
ステータスが10倍になった際の戦闘能力がどの程度なのかを試したい。
(……よし、ちゃんと近付いてるな)
気配察知2を獲得したことで、よりモンスターたちの気配に敏感になっていた。
そして一番強い気配に向かって行く。
あまりにも危険を感じれば、直ぐに引き返すつもりだった。
勇希が傍にいる以上は無理をさせるつもりはない。
だが、不思議なことに1階層で感じたほどの恐怖はない。
理由はなんだ?
1階層よりも敵が弱くなっている?
それとも、俺のレベルが高くなりすぎているのか?
ボスを討伐したことで8レベルになっている。
これは恐らく、生徒の中で一番高いレベルだろう。
(……各階層には適性レベルがあるのだろうか?)
1階層のモンスターの数を考えれば、2階層の適性レベルは1~3程度か?
もしそうなら、1階層で戦闘を経験していない生徒でも十分対応できるだろう。
担任が階層が進むごとにモンスターは強くなると言っていたが、理不尽なレベルではないのかもしれない。
いや……それは甘い考えか。
常に最悪を想定して進まなくて――。
(……うん?)
強い気配の傍にもう一つ気配を感じた。
それは、とても弱い気配だ。
「みんな……止まってくれ。多分、モンスターだ」
分岐点――右側の通路から気配が近付いて来る。
俺たちは先に進まず、壁に背を預け身を潜めた。
「気配察知だっけ? 便利なスキルだよね。ボクも覚えたいかも」
同じパーティではあるが、気配察知はもう一人くらいは持っていてもいい力かもしれない。
今後、パーティの誰かが欠ける可能性もあるのだから。
「……みんな、来るぞ」
声を潜めてみんなに伝える。
すると、薄暗い通路からゴブリンがこちらに向かってきていた。
まだ俺たちに気付いていないようだ。
(……今なら――)
ゴブリンとの距離は20メートル――俺は身を隠していた通路から飛び出した。
「ガッ!?」
小さな鬼の顔が歪んだ。
驚愕に身体が硬直しているのだろう。
身構えることすら出来ていない。
先制攻撃は成功。
そして、
「――雷撃《 ライトニングボルト》」
新しく獲得した魔法を使用する。
ただし一撃で倒さないように、意識して威力を弱めることができるのか……。
「アガアアアぁぁッ!?」
命中――雷光がゴブリンの全身に走った。
直後、ピクピクと身体が震えたかと思うと、バタン! と、その場に倒れる。
消滅しないところを見ると、死んではいないようだ。
(……魔法の威力はある程度なら調整できるみたいだな)
感覚的なものだが、威力を高めるよりは手加減する方が楽そうだ。
「大翔くん、倒したの?」
「いや、麻痺させただけだ」
これなら、レベル1の生徒でも楽に倒せるだろう。
「やっぱり、ヤマトってすごいんだね! 今の動きとか、魔法とかボクびっくりしちゃった!」
此花はさっきの戦闘を見て、興奮しているようだった。
「瀬乃と桜咲には、このままこいつを倒してほしい」
「モンスターを倒すんだよな」
「わかってはいたけど……ちょっと怖いなぁ」
攻略班に志願した生徒には、ポイントで買える中では最も安い武器だったショートソードが与えられている。
二人はアイテムメニューから、その武器を装備した。
「うにゃぁ……無抵抗だと攻撃するのを躊躇するなぁ」
「もしかして可哀想とか思ってるの? なら、甘い考えは捨てた方がいいと思うよ」
戸惑っている桜咲に此花が言った。
やらないなら自分がやる――と、彼女の態度は物語っている。
実際にモンスターに殺されかかった俺は此花の発言に同意したい。
こいつらは、俺たちを躊躇《 ためら》いなく殺しにくる。
そんな化物に対して甘い考えを持てば死ぬのは自分だ。
(……二人には楽にレベルを上げてもらおうと考えたが、失敗だったかもしれないな)
命懸けの戦闘を経験させて、モンスターが危険であるという意識を植え付けておくのが、今後の為―舵手。
「……――ガアアアアァッ!」
麻痺が解けたのか、ゴブリンが俺に飛びかかってきた。
ダメージは残っているようで動きは遅い。
俺は身体を少し逸らことで攻撃を避けた。
「っ!? う、動いた!?」
「ミャアアアア~~~~!? ちょ、た、倒さないとヤバいんじゃないの!?」
戦闘経験のない瀬乃と桜咲が焦る中、此花は冷静にモンスターを観察しながらショートソードを装備した。
勇希も修羅場を潜っただけあって既に戦闘態勢だ。
「みんな――戦わなくちゃ私たちがやられちゃうよ!」
勇希が勇ましい声を上げる。
「そ、そうだね」
「し、死にたくないなら……戦うっきゃないよね!」
覚悟を決めた二人も、ようやく片手剣を構える。
俺は囮に徹しながら、攻撃役は四人に任せた。
それから短い時間……恐らく5分にも満たない戦闘だったと思うがなんとかゴブリンを討伐。
「あ――私、レベルアップしたみたい!」
「ミャーも! 変な声が聞こえてびっくりしちゃった」
「……不思議な感じだな」
「これでボクたちも魔法やスキルが獲得できるんだよね」
なんと四人全員が同時にレベルアップしたようだ。
(……経験値が入るのは、モンスターを倒した奴だけじゃないのか?)
攻撃を加えていれば、モンスターを倒さなくても経験値が入るのかもしれない。
だが。1階層でボスを討伐した際、勇希と三枝のレベルは上がっていない。
今とあの時の違いは、ホブゴブリンに与えた傷が治癒してしまった……ということくらいか?
まだまだ不明点は多いが、経験値を得るにも様々な条件があるのは間違いないだろう。
「あれ? なんでだろう? 武器生成スキルが獲得できないよ」
「……同じく鍛冶スキルもだ」
鍛冶師コンビが首を傾げる。
「まさか……必要なポイントが足りてないのか?」
二人にスキル獲得に必要な詳細を確認してもらう。
すると装備生成と鍛冶――この二つのスキルに関しては獲得に10必要なことが判明した。
「残念ながら……もう1レベルあげないとだな」
「そっか……。これで教室に戻れると思ってたのになぁ……」
「ミャーコ、これも必要な経験……そう思ってがんばろう」
「瀬乃っちは真面目だね」
今更だが二人は互いを渾名で呼び合っているようだ。
もしかして、以前からの知り合いなのだろうか?
「……ヤマト、ボクは何を獲得したらいいかな?」
「私も相談させてもらおうと思ってたんだけど……」
続いて此花と勇希が尋ねてきた。
俺は少し逡巡して。
「……今後も同じチームで動くことになる。だから役割を分けたい」
俺の提案はこだ。
各自――攻撃魔法と治癒魔法は一つ獲得。
魔法は可能であれば属性違いで。
そこから攻撃型か補助型、もしくは万能型にするかを決定する。
決定した方向性でスキルを獲得していく。
「魔法やスキルの獲得は、その都度相談して決めよう」
「わかった。ならとりあえず私は治癒1を獲得するね」
「ならボクは攻撃魔法を取るよ。この氷雨《 アイスレイン》っていうのでいいかな?」
先に勇希は回復魔法を、此花は攻撃魔法を獲得した。
魔法を使える人材がこうして増えるだけでも、ダンジョン攻略に余裕ができそうだ。
「瀬乃と桜咲は現状のままポイントを温存してくれ。状況次第では予定にない魔法やスキルを獲得してもらうかもしれない」
「何が起こるかわからないもんね。わかったよ」
「……なるほど。確かに鍛冶スキルの獲得は安全を確認できてからのほうがいいな」
瀬乃と桜咲は俺の考えに同意してくれた。
「にしても……ミャーが鍛冶かぁ。上手くできるといいんだけど」
「大丈夫だよ。失敗しても練習していけばきっとね!」
「う~ん。そうだね! がんばるしかないか!」
勇希に元気付けられて、桜咲の表情は明るくなった。
スキルを獲得してしまえば自然と技術が身に付くはずなので、不安は直ぐに解消されるだろう。
「よし、一旦話は終わり! また探索を続けよう!」
その勇希の言葉に先導されるように、ダンジョンの探索に戻った。
さっきの戦闘を見た感じ、ゴブリン1体なら生徒が数人いればどうにでもなるだろう。
だが、
(……この先にいるボスモンスター相手となると、どうなるか……?)
1階層でもボスモンスターの強さは桁違いだった。
レベル2に上がったとはいえ、ボスとの戦闘は厳しいだろう。
やはりボスとの戦闘は俺だけで行うべきか――。
「いやああああああああああああああああああああっ!」
聞き覚えのある叫び声。
まさか……。
(……三枝!?)
しかも、声の方向はボスモンスターの気配を感じる場所だ。
あいつまたモンスターに襲われてるのか……?
「大翔くん!」
助けに行こう……と、勇希の目が訴えている。
が、今回に関しては言われるまでもない。
「……俺が先行するから、四人は周囲を警戒しながら進んでくれ」
勇希を置いていきたくはなかったが、敵の気配は前方の一つだけだ。
安全は確保している。
だから、俺は一気に通路を駆け抜けた。




