第28話 2階層攻略開始
『ピンポンパンポ~ン! さぁ、みんな朝だよ~! 冒険のお時間だ! 30分以内に、教室に集合~。遅れたらクラス全体にペナルティだからね~』
担任の耳障りな声で叩き起こされた。
一体、この放送はどこから聞こえてくるのだろう。
タウンの中に放送室はなかった。
もしかしたら、自分の意志を伝える魔法があるのだろうか?
考えながら、俺は身体を起こす。
「……行くか」
寝起きでだるいが、ペナルティがあるのでは仕方ない。
俺は部屋を出た。
階段を下りて1階の食堂に到着すると、勇希と野島の姿が見えた。
「宮真くん、待ってたぜ!」
野島がバタバタと駆け寄ってきて、暑苦しい笑顔を向ける。
別に待っていてほしいなんて言ってないぞ?」
「オレは舎弟だからな!
認めた覚えはないが、反論していも気疲れするだけだろう。
それにこいつにも使い道もある。
手駒が一つ増えたと考えるなら、悪いことばかりではない。
「大翔くん、おはよう」
「おはよう、勇希。まだ教室には行かないのか?」
「うん。一応、みんなが出て行ったのを確認してからと思って……」
「そっか。……大弥は?」
「まだ教室に来ていない人がいるみたいだから、みんなの部屋を確認してくるって」
大弥の奴、本当に面倒見がいいな。
いや……そうせざるを得ないってだけか。
さっきの放送で遅刻にはデメリットがあると言っていたからな。
連帯責任で罰を与えられたら堪らない。
「あ、あの……宮真くん」
「うん?」
名前を呼ばれ反射的に顔を向ける。
すると、昨日食事を作ってくれていた女子生徒が立っていた。
確か加賀沢だったか?
「のんびり食事って状況じゃないけど、もし良かったらこれ……」
そう言って、おにぎりを手渡してくれる。
「ぁ……助かる」
不意を突かれて変な声が出てしまった。
「ううん。わたしにできるのはこれくらいだから……」
控えめな優しい微笑みを浮かべた。
朝から食事を用意してくれたのはありがたい。
寝起きで食欲はないが、これくらいは腹に入れておこう。
食事を終えた後、タウンの方は勇希たちに任せて俺は教室に向かった。
万一、すれ違いで先に生徒が教室に集まっていた……なんてこともあり得えるかもしれない。
念の為、教室の様子を確認しておこうと思ったのだ。
※
教室には俺を含めて30人の生徒が集まっていた。
放送が聞こえて直ぐに教室にやってきたのだろう。
「ヤマト~、おはよう!」
俺が自分の席に座ると、此花が近付いてきた。
「もう来てたんだな」
「ごめんねヤマト。
待とうか悩んだんだけど……たった30分しか時間がなかったから、直ぐに教室に来ちゃった」
「正しい判断だろ」
「……本当にそう思う?」
「? どういう意味だ?」
「薄情な奴とか思ってない?」
「薄情? なんでだ?」
「なんでって……」
此花は戸惑うように俺を見つめた。
「だってボク……奴隷なのにご主人様を置いて行っちゃったから」
こいつは真顔で何を言ってるんだろうか?
直ぐそこの席の女子が、どん引きしていた。
「……此花、頼むから教室でそういう発言するのマジでやめてくれ」
「結構本気なんだけどなぁ。ヤマトが望むならいっぱい尽くしちゃうよ?」
「本気なんだとしたら、余計に質が悪いぞ」
こんな調子で此花のおふざけに付き合いながら、数分ほど経過しただろうか?
教室の生徒は30人から変わっていない。
何かトラブルが発生したのか?
もう少しして誰も来ないようなら、タウンに戻ってみよう。
「放送があってから、どれくらい時間が経ったろうな……」
「時間? え~と……ボクがここに来てから10分経ってるね」
「10分? 随分と正確に把握してるんだな。スマホで時間を確認していたのか?」
「違うよ。
スマホの電池、もう切れちゃってるから。教室に来てから時計を確認してたんだ」
「時計……? あ――そうか」
黒板の上に時計が掛けられているのを思い出した。
今も秒針がしっかりと回っている。
「時間は正確に進み続けてるんだな」
「……うん。
こっちの世界と、ボクたちの世界の時間が一緒とは限らないけどね」
「戻れても浦島太郎かもしれないと?」
「可能性の話だけどね。それ以前に、ボクらは生き抜かないとだけどさ」
シビアな発言をする此花。
普段はふざけてばかりだが、現状を受け止める心の強さや、冷静な判断力を持ち合わせている。
何より、生き抜くということに関しては執着しているように思えた。
切り札を晒して俺と交渉してくるくらいだ。
生き残る為に全てを利用する決意を済ませているのだとしたら――奴隷になると言うのも、冗談ではなく真剣に言っているのかもしれない。
「? ……ボクに見惚れてるのかい?」
「違う」
「もう照れなくてもいいのに」
此花が蠱惑的な笑みを俺に向けた――その時、ガラガラと教室の扉が開いた。
「……残りの生徒も来たみたいだね」
勇希と大弥が残りの生徒を連れて来てくれたようだ。
これで四十人――1組の生徒は全員揃った。
「それじゃあね、ヤマト」
此花は席を立ち、自分の席に戻って行った。
そして、代わりに本来の席主が腰を下ろす。
「は~……良かった。なんとか時間通りにみんな集まれたね」
「とりあえず、ペナルティは回避だな」
遅れた男子生徒の一人が欠伸をしていた。
野島に並ぶほど図太い奴がいたものだ。
「後は時間まで待つだけだね」
「ああ……」
時間が近付くにつれて生徒たちの話し声が消え、教室は静寂に満たされていく。
そして……。
『うん! ちゃんと制限時間以内に集合してるみたいだね~! みんな偉いよ~! 先生マジでハッピー! トリガーがあったら引き金を引きたいくらいだよ~! さて、夜中の放送――気付いた人もいたと思うけど、5クラスとも1階層をクリアしました! なので、今から2階層の攻略を許可しま~す!』
教室に備え付けられたスピーカーから声が響いた。
夜中の放送には気付かなかったが、全クラス階層攻略に成功したらしい。
最下位は4組になったわけだが……彼らは休む間もなく次の攻略を進めるのだろうか?
十分な休息も取れないまま探索に出れば命に関わる。
だがモタモタしていれば、また最下位になりポイントが入らない。
さらにデメリットまであるのなら、抜け出すことの困難な最悪の悪循環だ。
『今のうちに色々学んでおくんだよ~。階層は進めば進むほど複雑に、そしてモンスターも強くなっていくからね~。それと2位の1組には少しだけサービス! 情報提供しちゃいまーす! 階層ごとに出現するモンスターの数や種類は決まっているの。そして2階層は1階層の5倍の数のモンスターが出るよ。種類と正確な数は内緒。あ、でも2階層のボスは1体のままだからね』
1階層にいた魔物の正確な数はわからないが、5倍というのは脅威になり得る数字だ。
新たなモンスターが出現する可能性もあるなら、より慎重に探索をする必要もあるだろう。
『それと2連続でボス討伐のMVPを獲得した生徒にはご褒美があるよ! なんと、先生がお願いを聞いてあげることになってま~す! 叶えられるかは別だけど、できる限りのことは聞いてあげるつもりだから! もしボスを恐れない命知らずさんがいるなら、頑張って狙ってみてねん!』
お願い……?
特別ポイントとは別にってことか?
『それじゃあみんな、2階層の攻略も頑張ってね~! 担任として期待してるよ』
伝えたいことだけ伝えられ、プツン――と放送が途切れた。
「……やっぱりダンジョン攻略は必要なんだね」
「ああ」
1階層ではギリギリの攻略になったが、勇希にはもう絶対に無理はさせない。
そして2階層も必ず攻略してみせる。
「頑張ろうね、大翔くん!」
勇希の言葉に、俺はしっかりと頷いた。




