第23話 物資購入②
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タウンの1階には共用設備である浴場、トイレ、キッチン一式を設置することになった。
トイレ60ポイント。風呂100ポイント。洗濯機20ポイント。キッチンが80ポイント。
合計260ポイント。
勇希に譲渡した残りの40ポイントで、生徒分の皿や箸のセットが10ポイント。それと共用スペースに置く為の長机と椅子が30ポイント。
これで最低限、人間らしい生活を送ることが可能だろう。
共用スペースにはキッチンも置かれている為、今後は食堂として使われることになった。
「この後は各自、部屋を決めよう。
少し休んだらまた食堂に集合してほしい」
大弥が解散を伝え、俺たちはここに来て初めての自由行動となった。
(……はぁ……これで少しの間だけ、一人になれるな)
こんな状況だからこそ、ずっと誰かと一緒にいるのは精神的にキツかった。
同室ではなく、一人一人に部屋が与えられるのは僥倖だ。
(……とりあえず、適当に部屋を決めにいくか)
俺が階段に向けて歩き出そうとすると。
「大翔くん!」
「宮真くん!」
「ヤマト」
「宮真くん、少しいいかな?」
俺を呼ぶ声が重なる。
面倒事になるのでは? という予感を感じつつ振り返った。
立っていたのは、勇希、野島、此花、大弥の四人だ。
「あ……ごめん。私は後で大丈夫だから。先に行くね」
「ぇ……」
他の三人を気遣ってか勇希が行ってしまった。
「オメーらは後にしろ。オレは宮真さんと話があんだよ」
少なくとも俺には全くない。
「ボクもヤマトに話があるんだ。行こう、ヤマト」
俺の返事を聞く前に、此花が手を引いてくる。
「おい! クソ女、宮真くんになれなれしいんだよ!」
「く、クソ女……!? 失敬な! その酷い言葉遣いどうにかならないのかな?」
野島と此花が睨み合う。
そんな二人を見て我らがリーダーは微笑して。
「僕の話は最後で大丈夫だから」
自分の用件を後回しにした。
スマートに他人を優先してしまう辺り、流石のコミュ力の高さを感じる。
が……そんな大弥の気遣いに、舌戦中の二人は気付いていないようだ。
「……野島、此花……さっさと用件を話してくれ? 何もないなら俺はもう行くぞ?」
「あ――ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 宮真くんは、どの部屋にするんですか?」
「ボクもそれが聞きたかったんだ」
野島と此花が同時に話し掛けてくる。
この話題からして話が読めてしまった。
「決めてないが……」
「一番の舎弟としては、宮真くんのガードを兼ねて、隣の部屋になりてーと思ってたんですよ。
ほら、クラスのヤンキーがカチコミかけてくるかもしれませんから!」
1組にお前よりも危険な不良はいないだろ。
内心突っ込みを入れた。
「ヤンキーくん、その必要はないよ。
ヤマトのことはボクが守る――何せ、ボクたちは【同じ部屋】に住むからね!」
は……?
呆然とする俺に、此花がギュッと抱き着いてきた。
「ね! そうだよね、ヤマト!」
そしてお願いするように上目遣いを向けてくる。
「一緒の部屋だぁ!? テメェ、硬派な男の世界に割り込んでくんじゃねえ!」
「ボクはヤマトの奴隷なの。同じ部屋に住むのは当然だよ」
ちょっ!? この女、いきなりなにを言ってやがるっ!?
「ど、奴隷……!?」
驚愕した野島が目を見開く。
これはドン引きされている。
なんとか誤解を解かねば――と、内心焦っていると、
「宮真くん、流石っす! 高校生の身で奴隷がいるなんて! マジぱねえっすよ!」
尊敬された!?
「ヤマトがぱねぇのは当然だよ! ボクが奴隷になってもいいって思った人なんだから」
そして、なぜお前が威張る!?
このまま話の主導権を此花たちに持たせていると、さらに面倒な展開になりそうだ。
「――野島、此花、良く聞けよ」
「うっす!」
「うん!」
一声掛けるだけで、二人は真っ直ぐに俺を見つめる。
「野島、隣の部屋になるのは禁止だ」
「なっ!?」
ショックで愕然とする野島。
同時に此花は勝ち誇った笑みを浮かべる。
だが、
「此花、当然だが俺はお前と一緒に住むつもりはない」
「えっ!?」
彼女の笑みは一瞬で消えることになった。
「もし破ったら、今後はお前らを無視し続ける」
「んなっ、ど、どうしてだよ、宮真くん!?」
「や、ヤマト、それはひどいよ~!」
しょんぼりする二人。
だが、鞭ばかりでなく、しっかりと飴も与えておく。
「……約束を守ってくれるなら、食事くらいは一緒にしてもいい」
「宮真くんと飯!? わ、わかったぜ! 席の確保は任せてくれ!」
「まぁ……ヤマトには嫌われたくないから、それで我慢しておくよ……」
渋々ではあるが納得して、二人は去って行った。
そしてこの場に残ったのは、俺と大弥だけになった。
「待たせたな」
「ううん。こっちこそ急かせちゃったみたいでごめん。それにしても、宮真くんはすごいね。まだ1日も経っていないのに、クラス内に君を慕う人が何人もいる」
「慕われているように見えるか?」
「うん」
大弥は嫌味のない笑みで頷く。
申し訳ないが、眼科に行くことをオススメしたい。
「まぁ、あいつらの話はもういいだろ。本題は?」
「……うん。
こんなこと言える立場にないのはわかってるんだけど、それを承知で頼みがある。
君がダンジョンで経験したことについて教えてほしい。
内部の構造やモンスターについて、それと可能な範囲で魔法やスキルについても聞きたい」
「なぜ九重じゃなくて俺に? ダンジョンに入ったのは九重も同じだぞ?」
「単純に、男同士の方が話しやすいと思ったんだ。それに、君たちって恋人同士なんだよね?」
「は?」
どうしてそうなる?
「あれ? 違ったかな?」
「全くの見当違いだ。
九重の迷惑になるから、他の奴にはそんなこと言わないでくれよ」
「ご、ごめん。そこまで否定されるとは思ってなかった」
困惑したように笑みを浮かべる大弥。
誤解ははっきりと解いておくべきだろう。
そうでなければ、勇希の評判が下がりかねない。
「それとさっきの質問についてだが……ダンジョン内の情報共有は、俺が話すまでもなく九重がすると思うから、心配しなくていいぞ。
次にクラスメイトが集合した時に聞いてみてくれ」
「本当かい? なら安心したよ。
宮真くん、引き止めてごめん。それと……」
「まだ何かあるのか?」
「お礼を言わせてほしい。
1階層を攻略してくれて、ありがとう。
君と九重さんがいてくれたお陰で、本当に助かった」
クラスを代表するように、大弥は深々と頭を下げた。
それは感謝だけではなく、何も出来なかった謝罪が込められているようにも見える。
「……俺は何もしてない。感謝なら九重にしてくれ」
それだけ言って、俺は階段を上った。




