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第22話 物資購入①

               ※




 教室に戻って直ぐ、大弥はクラスメイトたちに寮の状況を伝えた。


「……じゃあ、タウンの中は安全なんだな!」

「良かった~。それなら、ゆっくり休めそうだね」


 生徒たちは安堵の表情を見せるが、まだまだ問題は山積みだ。


「みんな、このまま会議をさせてくれないかな? 購入する物資を決めたい」


 大弥の提案にクラスメイトたちは頷く。


「大弥たちがタウンに言っている間に、購入可能な物資を確認しておいた。

 まずは食料を購入する必要があるよな」


 真面目そうな男子生徒が意見を口にした。

 それを皮切りに議論が始まる。

 流れのままに俺もポイントで購入できる物資を確認した。

 意識した途端、俺の視界に購入画面が広がる。

 画面にはアイテム名と、それを購入する際に使用するポイントが書かれていた。

 購入可能なアイテム名は白文字。

 不可能なものは黒文字となって表示される。

 さらにはソート機能も存在しており、装備品や消耗品など項目を分けて表示することもできた。

 使い方を確認しながらざっと置かれているアイテムを確認していく。

 物資の中にはゲーム機やスマホ、ボードゲームのような娯楽品、さらに銃のような現代兵器まで置かれている。

 相応のポイントはかかるが……金で買える物はなんでも置かれているようだ。

 使い方次第では、ポイントは大きな切り札になりそうだが……今はそこまで考える余裕のあるクラスはないだろう。


「食料は当然として……とりあえずトイレは買いたいよな」

「あとポイントに余裕があればお風呂もほしいよ……」


 生徒たちは各々の要望を出した。

 ちなみに、ポイントで購入した設備を使用する際のエネルギーは魔力で代用可能らしい。

 一度の魔力供給で長時間稼働するそうだ。

 何らかの設備を購入する場合は、魔力を供給する当番を決めておいた方がいいかもしれない。


(……魔力がエネルギー代わりか)


 今まで意識していなかったが、教室内やタウンには【電気】が付いていた。

 電気が使えることが当たり前すぎて意識すらしていなかったが、これも魔力供給による明かりだったのだろう。

 だが、魔力を供給しているのは誰だ?

 担任……それとも、別の誰かなのか?

 もし明かりも魔力によるものなら、どこかで魔力供給する必要があるのだろうか?

 もしそうなら、担任に確認する必要があるかもしれない。

 あいつが素直に答えてくれるかは別だが……。


(……何にしても、この世界じゃ魔力が生きる為に必要のライフラインってことなんだな)


 魔力が低い奴は苦労しそうだが……三枝の奴は大丈夫だろうか?

 あいつは魔力――というかステータスが極端に低かった。

 苦労するのは目に見えている。

 借りがあるから……何か手助けしてやりたいが……。


「……食料はまとめ買いできるみたいよ」

「一品ずつ買うよりも安いみたい。

 クラスメイト全員分で1日10ポイント計算だね」


 勇希がクラスメイトたちに説明した。

 アイテム欄に書かれた説明によれば、これはクラスメイト四十人分の食料でという意味らしい。

 食材を選んで購入することも可能だが、まとめ買いの方が価格は安い。

 ちなみに食材は毎日変わるそうだ。

 1組の持つ共通ポイントは500ポイントなので、50日分の食材が手に入る。

 が――手に入るのは食材のみなので、料理をする為のキッチンと調理器具が別途必要だ。


「キッチン一式と調理器具のセットが……80ポイントか」

「流石に高すぎるだろ!」

「そんなのに80ポイント使うくらいなら、簡易食品で我慢しようぜ」


 ポイントで、缶詰やら乾パンやらも購入可能だ。

 確かに食べ物と飲み水さえ確保できれば、死ぬことはない。


「でも、そういうのばっかりじゃ身体によくないと思う」

「環境が変わりすぎて、体調を壊しちゃう子だっているかもだしさ」

「キッチンがあれば水も飲めるんだよね?」


 確認してみたが、キッチン一式には水道も含まれていた。


「飲み水が確保できるのは大きいな」

「だったらトイレか風呂を削るか?」

「いや、ありえないでしょ!」

「その二つを削るくらいなら、食事は最低限でいいよ!」

「あ、あの……出来れば洗濯機も欲しいんだけど……」


 ちなみにトイレが30ポイント。

 風呂は50ポイント。シャワーにする場合は20ポイントで済む。

 だがこれは男女共用の場合なので、別にするなら倍かかる。

 そして、洗濯機は20ポイントだ。

 これら全てを買うとなると、かなりのポイントが必要になるな。


「お風呂やシャワーがあれば、最悪はそっちで飲み水の確保はできるんだよね」

「ええ? お風呂の水道から水を飲むってこと?」

「なんか抵抗あるよねぇ……」


 様々な意見が飛び交い続ける。

 こんな調子で、意見はまとまるのだろうか?


「キッチン一式、浴場に洗濯機、トイレ――男女別でこれらを購入した場合、260ポイント必要になる。

 残るポイントは240ポイント。24日間分の食材は購入することができる」


 24日分の食料――それをどう考えるか。

 2階層を攻略すれば、またポイントは貰える。

 つまり24日以内に2階層を攻略すれば、また食料が買えるだけのポイントが手に入るが……。


「なら、全部買っちゃっていいんじゃないの?」

「24日間分も、食料を確保できるんだもんね!」

「1階層もすぐに攻略できたんだし、買っちゃってもいいかもな!」

「だね! 意外と直ぐにここから出られるんじゃない?」


 はい?

 こいつら、マジで言ってんのか?

 何があるかわからない以上は、ポイントを節約しようって考えにはならんのか?

 最低限を送る為に必要な経費を使うのは構わないが、この調子では一瞬でポイントがなくなりそうだ。


「みんな、待ってほしい。

 生活に必要な物は買うべきだけど、僕はできる限りポイントを節約すべきだと思ってる」

「ボクもオオヤくんの意見に賛成だよ。ここでは何が起こるかわからないし、不測の事態に備えるべきだよ」


 大弥と此花がクラスメイトたちを論する。


「はぁ? 不測の事態ってなんだよ?」


 苛立たしそうに声を上げる生徒に、此花は口を開いた。


「ボクたちは生きる為にはダンジョンを攻略する必要がある。

 でも、ダンジョンにはモンスターがいるんだよ? 24日間――その限られた期間で2階層を確実に攻略しきれると思うのかい?」

「っ……そ、それは……」

「それに、1階層の探索をしていないボクらには、どんな仕掛けがあるのかもわからない。もしかしたら、ダンジョンを攻略する為にポイントが必要になる可能性だってあるかもしれない」


 反論の言葉はない。

 現実を突きつけられ、クラス内には不穏な空気が蔓延する。

 そして敵意のようなものが、此花に集まっていく。


「あのさ、どうして余計なこと言うかな!」

「余計なこと? ボクは必要なことを言ったつもりだよ」

「ダンジョンとか、モンスターとかさ、わけわかんないんだよ!」

「怖いことなんて、考えたくない……!」

「あたしたち、必死に忘れようとしているのに!」


 女子生徒たちが騒ぎ出し、辛辣に此花を攻めていく。

 だが、此花彩花は全く怯むことはなく、


「怖いから、考えたくないから、わけがわからないから――だから思考停止して何もしないんじゃ、ボクたちは死ぬだけだよ」


 再びクラスメイトたちに現実を突きつけた。

 こんな達観した発言が出るのだから、彼女は状況を受け入れているのだろう。

 俺に交渉してきたことと言い、とんでもなく強《 したた》かな女だ。

 しかし……彼女のような生徒は稀だ。


「……死ぬ……わたしたち、やっぱり死ぬの?」

「ヤダ――死にたくないよ! お父さん、お母さん……助けて……!」


 泣き出す生徒。

 重い空気が教室内を満たす。


「死にたくないなら戦うしかない。

 そして死なない為に手を打つ。

 その為に必要なのはポイントを節約することじゃないかな?」


 そんな中、此花は生きる為にすべきことを口にする。


「……節約って、具体的にはどうしたいのよ」

「最低限、生活環境は整えるべきだとは思う。

 でも、お風呂とトイレは男女共用でいいんじゃない?」

「はあ? ありえないんですけど!」

「そんなの絶対イヤ! 今日会ったばかりで、まともに話したこともないのに!」

「それでポイントを節約できるなら安いものだよ」


 大半の女子に反対されながらも、此花は冷静だった。

 彼女の意見は全て――生き抜く為という視点から導き出された答えなのだろう。

 感情論で捲し立てられるよりも、遥かに同意できる考えだ。

 俺の意見を正直に言えば、風呂とトイレすら贅沢だと思っている。

 だが……あまり我慢をさせすぎれば、何かの拍子にストレスが爆発するだろう。

 余計なトラブルを生む危険があるのなら、最低限クラスメイトたちが納得する物を購入すべきだとも思う。

 せめてもう少しポイントがあれば……。


(……ポイント……? あ、そういえば……)


 俺はボスを討伐した際に入った特別ポイントがあったことを思いだした。

 メニュー画面を開き、ポイントの項目があるか確認してみる。


(……あった)


 メニュー画面の右下に個人ポイントが1000と表示されていた。

 その数字に触れる――実際に触れるわけではないが、そういう意識をした途端、補足説明が表示された。




               ※




・個人ポイントについて。

 共通ポイントと同様の使い方が可能。

 ポイント獲得者の承認で使用することでができる。




               ※




(……獲得者――俺が自由に使えるポイントか)


 俺が得た個人ポイントについて、忘れている生徒も多いだろう。

 このまま黙っていてもいいが、何かの拍子でバレれば禍根を生みそうだ。

 なら、


「……勇希、ちょっといいか?」

「うん? どうしたの?」


 小声で話し掛ける。


「ちょっと、試したいことがあるんだ。協力してくれ」

「わかった。私にできることなら……」


 俺の試したいこと――それは、ポイントの譲渡だ。

 頭の中で勇希に300ポイントを譲渡したいと考えた途端――アイテムトレードをした時のような画面が視界に映る。


・ポイントを譲渡しますか?

 300ポイント

 YES or NO


 俺はポイントを確認してYESを選択した。


「え、これって……?」

「ボス討伐で俺に入ったポイントだ。

 勇希がボス討伐で手に入れたことにして、必要な物を購入してほしい」

「でも……いいの?」

「構わない」


 これは勇希と三枝のお陰で手に入ったポイントだ。

 それに、クラス内でトラブルが起これば勇希の負担が増えるだろう。

 現状、男子のリーダーは大弥で、女子のリーダーは勇希なのだ。

 二人を頼ろうとする生徒が増えていくに決まってる。

 だからこれは、小さなトラブルを避ける為の先行投資。

 それに此花があれだけ言ったんだ。

 無駄にポイントを使えるという甘い考えは抑えられただろう。


「ありがとう、大翔くん」


 感謝の後、勇希がポイントを受け取った。

 そして、


「みんな、ちょっと聞いてもらってもいいかな? 実は――」

 ボス討伐で300ポイントが支給されていたことを伝え、設備の設置にかかる費用をこれで賄うことを約束した。

「マジかよ!?」

「本当にいいの、九重さん!?」

「ちょ~ありがたいよ!」


 教室に歓喜が響いた。

 これで勇希は、クラスメイトたちの信頼を大きく得たと言っていいだろう。


「ありがとう九重さん、本当に助かるよ! これで最低限の物資は購入できる」


 問題が解決されたことで、大弥もほっとした表情を見せた。

 共通ポイントがまるまる残っているのだから、クラスメイトの心にいい意味で余裕が生まれたのは間違いない。

 さらにボス討伐で得たポイントが300だったと勘違いさせることもできた。

 俺が個人ポイントを700残していると考える生徒は誰もいない。

 これで残りのポイントは自由に使える。


「それじゃあタウンに向かおうか。早速、設備を設置してみよう」

「とりあえず、そろそろトイレに行きたいんで、最初にトイレを頼むな!」


 おちゃらけた態度で、男子がそんなことを言った。

 それに頷いた生徒が数人いたのは……敢えて見なかったことしておこう。

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