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第15話 最後かもしれないなら

              ※


「はっ、はっ――」


 あたしは必死に走っていた。

 なんの為に?

 生きる為……?

 違う、そうじゃない。

 託されたからだ。

 あたしの恩人――宮真くんに、彼女――九重勇希さんを。

 でも、今も迷ってる。

 本当にいいのかって。

 あのままじゃ、宮真くんがモンスターに殺されちゃうかもしれない……。

 だけど、あたしの助けを宮真くんは望まなかった。

 そうだよね。

 あたしと違って、頭の良い宮真くんだもん。

 あたしが助けに入っても、無駄なことを知ってたんだ。

 ちょっと戦力が増えても、あの化物には勝てない。

 必死に自分に言い訳をする。

 あたしは悪くない。

 弱いから、仕方ない。

 逃げることが最善だ。

 助けに戻っても、きっと無駄なんだ。


「ごめん、ごめん、宮真くん!」


 どうしてか、視界が歪んだ。

 涙が溢れて止まらない。

 悔しい。

 どうしてあたしは、こんなにも弱いんだろう。

 昔からそうだ。

 あたしは心が弱かった。

 勇希なんて名前を貰っておいて、誰よりも勇気がない。

 子供の頃からイジメられて、泣いてばかりだった。

 どうした強くなれるんだろう? 

 泣くたびに、そんなことを思っていた。

 小学校、中学校――環境が変わっても、あたしの立場は変わらない。

 みんながあたしをイジメの標的にした。

 理由を聞いたこともある。

 すると悪魔のように顔を歪めて、『あんたをイジメるのが面白いから』と言われた。

 地獄だった。

 だから、誰もあたしを知らないところに行きたかった。

 やり直したかった。

 なんども失敗していたけど、今度こそと願った。

 そして選んだのがこの高校だった。

 興味もないのにない今時の女の子ぽっい格好をして、高校デビューをするつもりだった。

 今度こそ、変わりたかった。

 でも、その願いは叶うことはなかった。

 その理由は単純で――中学校時代のイジメの主犯格だった生徒が同じクラスにいたのだ。

 最初に顔を見た時、同じクラスに彼女がいるのか理解できなかった。

 受験の時には気付かなかった。

 誰もあたしを知らない高校を選んだはずだった。

 なのにどうして?

 戸惑うあたしを見て、彼女は心底おかしそうに微笑んでいた。

 その歪んだ顔を見るだけで、今でも身体が震える。

 今までされてきたことが脳裏によみがえる。

 思い出すだけで涙が溢れてしまう。

 そんな恐怖と絶望の象徴は、あたしを放っておいてはくれなかった。


『モンスターがいるのか確かめて来い! 出来ないないなら……どうなるかわかってるよな?』


 まるで奴隷に命じるような物言いだった。

 当然、あたしは拒絶した。


 ――イヤだ! イヤだよ!!


 でも――叫んでも、泣いても、無駄だった。

 罵声を浴びせられ、頬を叩かれ、髪を引っ張られた。

 無理矢理、教室を追い出された。

 そしたら直ぐに教室の扉が消えてしまって、わけもわからずダンジョンの中を彷徨《 さまよ》っているうちにモンスターに襲われた。

 もうダメだ。

 きっと、ここで、一人寂しく死ぬんだ。

 そんなことを思っていたわたしを――宮真くんは助けてくれた。

 あたしにとって、生まれて初めて手を差し伸べてくれた人だ。

 暗く淀んだ世界に、光が生まれた。


(……いいの? 本当に、いいの?)


 宮真くんは、あたしを見捨てなかった。

 ダンジョンの中で一緒に行動してくれた。

 こんなダメなあたしを傍にいさせてくれた。

 対等に話をしてくれた。

 それだけで、あたしは不思議と救われた気がした。

 ――そうだ。

 彼はあたしを、救ってくれたんだ。

 なのに――


「……さえ……ぐさ、さん……」


 背中越しに、今にも消えてしまいそうな、か細い声が聞こえた。


「こ、九重さん!?」

「もどって……やま、と……くんを、たすけに……」

「だ、だけど……」

「おね……がい……」

「でも、でも……! あたしは九重さんを助けるように、宮真くんに言われて……約束してて……」

「やま……と、くんは、たた……かって、くれ、てる」

「だけど、あたしたちが戻っても、できることなんて……」

「ある、よ……きっと、ある……」

「ないよ、何もない! ないもん!」


 あたしは、自分に言い聞かせるように、叫んだ。

 無駄だ。

 あたしは何も出来ない。

 今までだってそうだった。

 だからきっと――今回だって。


「……まよって、るんじゃ、ないの……?」

「え?」

「たすけ、たいって……きこえた、きがした……」

「そんなこと……」

「かんが、え……よう……いっしょに……きっと、ほうほう、は……」


 え……?

 あれ……?


「九重さん? ねえ、九重さん!?」

「っ……」


 大丈夫だ。

 ちゃんと生きてる。

 でも、早く治療しないと……宮真くんがいれば、回復魔法で……。


「もし、宮真くんを助けられたら……」


 さっきから宮真くんのことばかり、考えてしまう。

 ダメだダメだダメだ!

 無駄なことはするな!!

 あたしには、何も……。


『正直になって――』


 不意に、さっきの九重さんの言葉が耳を霞める。

 あたしは……本当は、あたしが本当に今したいことは――。


「あたしは、あたしは、宮真くんを――宮真くんを助けたい!」


 でも、助ける為の方法が思い浮かばない。

 今のまま戻れば、きっと無駄死になる。

 何か、何か方法があれば――。

 ステータスを確認する。

 何か、何かないの……!?

 魔法、スキル――その効果の詳細を再確認する。

 宮真くんに頼るだけじゃダメだ。

 今のあたしにできることを必死に考えた。

 獲得した魔法もスキルも少ない。

 できることは限られてはいるけれど……。


(……そうだ!? これなら……!)


 鑑定スキルを使った時の、あのホブゴブリンのステータス詳細で、気になることがあった。

 あたしのすることは、無駄になるかもしれない。

 だけど……。

 だけど、あたしは――。


「ごめん、宮真くん、九重さん!!」


 心の底から謝った。

 これが最後かもしれないなら、あたしは――。

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