第11話 遭遇
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似たような景色が広がる、迷路のようなダンジョン。
こんなところに踏み入ってはどんな人間も確実に迷うだろうが、マッピングのお陰で探索は順調に進んでいる。
そんな中、モンスターを発見した。
ホーンラビットが2匹。
運がいいことに、気配遮断の効果で不意打ちすることに成功。
なんなく討伐することが出来た。
棍棒での攻撃を試してみたかったが、やはり距離を取れる魔法に頼ってしまった。
しかし、レベルアップできたのでよしとしよう。
魔法とスキルのポイントも手に入った。
1レベル上がるごとに貰えるのは、やはり5ポイントだった。
(……何を取るか)
俺は改めてスキルツリーを確認した。
治癒1と気配遮断1を獲得したことで、どちらも治癒2と気配遮断2にレベルを上げることが可能になっている。
(……1と書かれている魔法やスキルは、レベルを上げることができるんだな)
だが、レベルを2にする為には、それぞれ10ポイントが必要になるようだった。
効果は強まるとは思うが、必要ポイントの増加は痛い。
それと、レベルが上がった為か獲得できる魔法とスキルが増えている。
(……これじゃ、ポイントはいくらあっても足りなそうだ)
そんなことを思いながら、新しく増えた気配察知1というスキルを確認してみる。
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○スキル:気配察知1
・解放条件。
プレイヤーレベル3以上、且つ気配遮断1を獲得することでスキル解放。
・スキル効果
周囲の生物の気配を察知することが可能。
スキルレベル上昇で効果範囲が拡大。
対象の能力が高いほど効果は強まる。
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モンスターの存在を逸早く察知できれば、より安全に探索を進められるってわけか。
しかも、生物――ってことは、人間の気配も察知できるってことだよな?
他の生徒たちがダンジョン探索に出ているのであれば、出会える可能性が高まる。
(……獲得しておくか)
スキルポイントを溜めて気配遮断2を獲得するのもありだと思っていたが、5ポイントならこっちも取っておいて損はない。
気配察知1を選択。
『スキルポイントを5点消費して、気配察知1を獲得しますか?』
YESを選択して、俺は気配察知を獲得した。
マジックポイントは溜めておく。
次のレベルアップで治癒2を獲得する予定だ。
「あ――宮真くん、見て、あそこに宝箱があるよ!」
ダンジョンを進んでいくと、三枝が声を上げた。
通路の真ん中に赤い赤い箱が置かれている。
担任が宝の存在は口にしていたが、本当にあるなんてな。
これで痛みがなければ、悪夢を見ていると錯覚できるのだが……。
「折角だし開いてみようよ!」
三枝は膝を突き宝箱に手を伸ばした。
「……って、ちょっと待て三枝」
「どうしたの……?」
「その宝箱を開く前に、鑑定スキルを使ってみてくれないか?」
「え? 宝箱を鑑定するの?」
「ああ、罠が仕掛けられてるかもしれないだろ? 鑑定スキルなら調べられると思うんだ」
「そ、そっか……罠……」
今気付いた……と目を丸める三枝。
だが、これが普通の反応か。
俺が警戒し過ぎなのかもしれないが、宝箱だからといって直ぐに食いつくことはできなかった。
上手い話は疑ってかかれ……ってわけじゃないがな。
「じゃあ鑑定してみるね」
「頼む」
そう言って、三枝は宝箱を凝視する。
「大丈夫みたい」
「どういう感じでわかるんだ?」
「対象の詳細がわかるの。たとえば、この宝箱なら――」
※
○木製の宝箱レベル1
耐久:1
鍵がかかっている。
罠は仕掛けられてない。
※
「こういう情報がわかるの」
「よし、じゃあ開けてみるか」
「でも、鍵がかかってるよ?」
宝箱には鍵穴があった。
「耐久があるってことは、壊せるってことだろ?」
俺は持っている棍棒で『木製』の宝箱をぶっ叩いた。
ボコッと鈍い音を立てて、宝箱が壊れた。
「ら、乱暴すぎない?」
「開けばいいさ」
「中身が壊れるかもしれないじゃん……」
「大丈夫だ。一応、加減はしてる」
瓦解した穴を、棍棒を使って広げていく。
すると【飲み物?】が手に入った。
「なんだこれ? 名称がはっきりしないな」
「鑑定してみようか?」
「そうだな」
俺は【飲み物?】を取り出した。
「えっとね……」
※
○アイテム名:マジックポーション
・効果
飲むことで魔力を50回復。
一度飲むと消滅する。
喉の渇きも癒せる。
※
「魔力の回復薬か」
「これは宮真くんにとってはいいアイテムだね!」
「だな。これで魔力切れをしても、直ぐに魔法が使える」
どうしても必要な時は迷わず使用しよう。
「しかし、喉の渇きも癒せる……か」
俺の言葉の直後――きゅう。という可愛らしい音が鳴った。
その可愛らしくも小さな悲鳴を奏でたのは、三枝のお腹だ。
「……し、仕方ないじゃん! 朝からずっと食べてないんだから……。
あ~……あたし、なんで今朝ご飯抜いてきちゃったんだろう……」
空腹は俺も感じていた。
喉も渇いている。
「……ここって、食べ物とかって手に入るのかな?」
「少なくとも、飢え死にするってことはないと思うぞ」
仮に俺たちを殺すことが目的なら、ダンジョン攻略なんて回りくどいことはさせないだろう。
「実はドロップしたアイテムの中に食材があった」
「食材……?」
「ホーンラビットの肉……なんだが。もしかしたら、これを料理して食べろってことなのかもしれない」
「ええええっ!? も、モンスターを食べるの?」
「俺は炎の魔法が使えるだろ? 焼くこともできるし、ダンジョンの中で空腹を感じたら最悪はこれで飢えを凌げるって話だ」
「……そうなる前に、ちゃんとした食べ物を見つけられるといいなぁ……」
三枝は切実に願っているようだった。
文句を言える状況でないとわかっていても、モンスターを食べるのは抵抗があるのだろう。
俺も全くないわけじゃないが、飢えで死ぬよりはマシだ。
※
さらにダンジョンを進んで行く。
マップの未到達エリアが、どんどん到達エリアとして書き換えられていく。
通路を正確に把握して無駄を省くことで、移動効率は段違いになっていた。
マップが埋まっていくことでわかったが、道が様々分岐しているだけでダンジョンが極端に広いわけではないようだ。
あれからモンスターとの戦闘もなく、目的地には順調に近付いている。
このまま何事もなければ、1年2組に無事に到着でき――
「っ!?」
強烈な寒気を感じた。
(……なんだ?)
心が騒めくような感覚に、俺は慌てて周囲を警戒する。
この先に間違いなく何かいる。
しかも……。
(……後ろからもかよ!)
最悪なことに、後方からも何かが近付いてきている感じがした。
「宮真くん?」
「この先から、嫌《 いや》な感じがしないか?」
「あたしは、何も感じなかったけど……?」
三枝は不安そうに俺を見つめる。
嘘を吐いているわけじゃないだろう。
もしかしてこれが――さっき獲得した気配察知の効果なのか?
だとしたら――
(……この先に強力なモンスターがいるってことか?)
幸いなことに、前方に存在する強烈な気配は動いてはいない。
対して、後方からの気配はどんどん近付いてくる。
挟み撃ちされる心配がないだけ、まだマシだが……。
「ねぇ、大丈夫? 顔色、悪いよ?」
「体調が悪いわけじゃないんだ。ただ、この先には行かないほうがいい気がする」
「え、でもうちのクラスを目指すんだよね?」
「ああ。遠回りになるかもしれないが、別ルートを探してみよう」
ダンジョンの通路は複雑に入り組んでいる為、思いがけない通路を発見できる可能性だってある。
とにかく、この先には進むべきではない。
理屈ではなく本能が告げていた。
「わかった。
宮真くんがそのほうがいいって思うなら、きっとそうなんだよね」
「それと……後方からも何かが近付いているから慎重に進んでくれ」
「何か……? ……うん、わかった」
俺たちは踵を返した。
直ぐに魔法を放てる準備だけはしておく。
こちらに迫って来る魔物も、今までのモンスターと比べて気配は強い。
だが、本能が戦いを拒むほどの恐怖は感じない。
これなら勝機は十分にあるだろう。
「三枝……止まってくれ。来るぞ」
「う、うん!」
三枝はホーンラビットの角と、ゴブリンの盾を構える。
視界の先で、複数の影が動いた。
「あれ? 今、何か見えたっすよね?」
「モンスター……じゃ、ないみたいだな? もしかして、他のクラスメイトじゃないか?」
「お~い、お仲間~?」
気楽な声が聞こえてきて、思わず警戒心が薄まる。
「もしかして……!? ――やっぱり! 大翔《 やまと》くん!」
え……?
なんで俺の名前を……――まさか!?
「勇希!?」
「やっぱり、大翔くんだ!」
信じられなかった。
が、間違いない。
彼女が泣きそうな顔で、こっちに走って来る。
「……宮真くん、あの子ってもしかして……」
「クラスメイトだ」
でも、なんで……?
勇希は教室に戻ったはずなんじゃ……?
しかも、勇希と一緒にいるのは見覚えのない生徒ばかりだ。
「ああ~良かったぁ……。
宮真くん、わたしたち、これできっと助かるよね!」
「あ、ああ……」
嬉しそうな三枝。
助かる可能性が上がったのだから、喜ぶのは当たり前だろう。
だけど、ここに勇希がいることを俺は素直に喜べなかった。
「大翔くん、本当に良かった! 無事だったんだね!」
勇希が俺に駆け寄ってくる。
「……なんでダンジョンにいるんだ?」
「え……? なんでって……」
「教室に戻れなかったのか?」
「ううん。あの後、ちゃんと戻れたよ。
野島くんも助けられた。全部、大翔くんのお陰!」
野島……? と一瞬疑問に思ったが、あの三白眼の不良のことを言っているようだ。
「だったら、なんでまたダンジョンに入った!」
思わず強い語調になっていた。
自分でも苛立っているのがわかる。
これじゃ、俺がなんの為にリスクを犯してダンジョンに入ったのかわからない。
「なんでって、当たり前だよ!」
「当たり前……?」
「だってあの時、大翔くんは私たちを助けてくれたもん! だったら今度は、私が大翔くんを助ける番だよ!」
勇希は真摯な眼差しを俺に向けた。
呆れる。
九重勇希は、どうようもない馬鹿だ。
大馬鹿だ。
(……もしかしたらとは思っていた)
俺を助ける為に、彼女はダンジョンに戻って来てくれるんじゃないか。
そんな期待をしてしまっていた。
ヒーローはピンチに必ず駆け付けてくれる。
そんな子供の頃に抱いた幻想の存在は、今も変わることはない。
誰かに期待することを諦めていた世界で、勇希だけはの勝手な信頼に応えてしまう。
でも……その自己犠牲はあまりにも異常で、一歩間違えれば死に繋がる。
誰かの為に、自分を危険に晒すようなことは二度としてほしくはない。
だけど、それでも――。
(……ありがとう、勇希)
今は彼女が俺を助けに来てくれたことが、どうしようもないほど嬉しかった。
だからこそ俺は――彼女がヒーローであり続けることを、二度と嬉しいなんて思っちゃいけない。
それはいつか、彼女を殺すことに繋がるかもしれないから。
「勇希……二度と誰かを助ける為に無理はしないでくれ」
「……それはこっちのセリフ! 私たちを助ける為に無理なんてしないでね。もしするなら、その時は一緒に乗り越えるの! 約束してくれる?」
「……勇希が無理をしないなら、俺も約束する」
「わかった。
じゃあ約束だね!」
笑みを浮かべ、俺に小指を向ける。
「約束のゆびきり」
「……わかった」
小指を結び俺と勇希は約束した。
だが、最初から守るつもりはない。
俺を信じ切った顔を見せる勇希を見ると、少しだけ胸は痛むが……。
それでも彼女を守る為なら……どんな無理だってしてみせる
何があろうと、何を利用しようと、絶対に。
「お二人さん、お熱いね~! 探し求めていた人に出会えたんだもん仕方ないと思うけど……そろそろ自己紹介してもらえると嬉しいかなぁ」
茶化すような声が聞こえて振り返ると。
「あ、ごめんね、扇原さん! それにみんなも……」
一人の女子生徒が微笑ましそうに、俺たちを見守っていたのだった。




