14:やっとたどり着いた!
シーラはシルフと二人、山頂から山頂に行くため山を下るというなんともいえないことをしていた。
けれどヒヒイロカネを手に入れるための最短ルートなのだから、仕方がない。
とはいえ、山の麓に行く前、一時間ほど下ったところで山の中へ入ることのできる入り口が顔を覗かせたのでほっと胸を撫で下した。
『なるほど、ここから山の中を通って山頂を目指すのね。ヒヒイロカネとマグマの影響か……中は暑いし強い魔物がわんさかいそうよ』
これは倒し甲斐がありそうねと、シルフが目を輝かせる。
――そういえばシルフは好戦的だったね。
はりきる彼女に苦笑しつつ、シーラは洞窟へ足を踏み入れた。
中は天井が高く、かなり斜面のついた坂道になっていた。階段なんて歩きやすい道はもちろんなくて、己の足で歩いていくしかない。
もし壁が崩れたらマグマが流れ出してくるのだろうか……なんて、恐ろしい想像もしてしまった。
「シルフ、魔物いそう?」
『うん、いるいる! 【ウィンド】!』
シーラの問いかけに返事をすると同時に、シルフは風の刃を生み出して前方から歩いてきた蝙蝠の魔物を切り捨てた。
目にも留まらぬ速さで、瞬殺だ。
「シルフがいたらすぐ山頂に着けそうだね」
『だといいけど、どうかしら。大技を使ったら洞窟が崩れそうだから、あまり派手なことはできないわよ』
「あ、そうか……。それも気をつけないといけないね」
力任せに魔法を使えばいいというわけではない。今シルフに教えてもらわなければ、うっかり強力な一撃を放っていたかも……。
『そうよ。さすがにここから逃げるのは無理だから、あまり無茶はしないでよね』
「うん」
シーラもシルフと同じように風の魔法を使うことにして、先へ進む。
出てくる魔物は、蝙蝠とオオトカゲとゴーレムの三種類だ。空を飛び地を這って歩き……なかなか油断のできない組み合わせだ。
出てきたゴーレムにシーラが風の刃を打ち込んで、倒す。
「なんだ、楽勝じゃない?」
『シーラの強さは規格外だしね……』
「そんなことないよ。私は村で一番弱かったし」
全然強くないよが、シーラの口癖になっている。
『人間からみたら十分バケモノじみた強さよ、あなたは』
「えー……あ、でも治癒魔法を使ったときはすごく驚かれたと」
『そうでしょうね』
シルフは呆れたように笑って、こちらへ向かってきたオオトカゲを倒す。雑談をしながら魔物を倒せるので、まったく脅威がない。
このまま順調に進めば、あと一時間ほどもあればヒヒイロカネのところへ行けるだろうか。
そして次に顔を覗かせたのは、先ほどと同じオオトカゲ――すぐにシーラが攻撃をしかけ、あっさり倒す! そう思っていたけれど、シーラの風が弾かれた。
「えっ!?」
『あいつ、ただのオオトカゲじゃない! 【ウィンド】!!』
シルフが急いでニ撃目を繰り出して、オオトカゲの様子を見る。
先ほどまで出てきていたオオトカゲは緑の体に黄土色の模様がはいっていたけれど、今出てきたトカゲは緑の体に赤い模様が入っている。
どうやら種類が違い、より上位の魔物が出てきたようだ。
「トカゲのくせに、強い種類がいたなんて!」
シーラはそう叫びながら、土の精霊魔法を使ってオオトカゲの足止めをする。そこにシルフが先程より強い風魔法を打ち込みオオトカゲを倒す。
一撃で倒せなかったことに驚きはしたけれど、苦戦する相手ではなかった。
――問題はないんだけど……。
「ここから先、もしかして魔物がどんどん強くなっていくのかな?」
『そうでしょうね。腕がなるわ! シーラ、さっさと行って魔物をどんどん倒しちゃいましょう!』
「ちょっとシルフ、目的が変わってるよ!」
魔物を倒すためにきたわけじゃなくて、山頂に行くんだよとシーラは叫んだ。
***
「シルフシルフシルフ〜! 早く倒してっ!!」
『無理よ数が多すぎるもの! シーラ、ノームの力で壁を作って道を塞ぎなさい!』
「わわわかった、えっと、我の望む隔離空間を作り上げろ【サンドウォール】!!」
慌てるシーラとシルフの声の通り、二人の前にいるのは大量の魔物だった。オオトカゲが軽く一〇匹に、蝙蝠が数匹とゴーレムが五体。
しかもその全部が、最初に出てきた個体よりもパワーアップしていてかなり脅威になっている。
まさかこれほど一気に魔物が出てくるなんて。
少数であればまだしも、流石にこの数は厳しい。
シーラが精霊魔法を使い、目の前に土の壁を作り上げて先へ魔物をシャットアウトする。けれど同時に、先へ進むための道も塞いでしまった。
「はぁ、はぁ……こんなにいっぱい出てくるなんて。それに私、虫は好きじゃないからトカゲも嫌いなのに」
どうしたもんかなと、打開策を考える。
『この先はしばらくまっすぐだったから、前方に向けて勢いよく魔法をぶつけるしかないんじゃない?』
「確かに、それがいいかも?」
『一点集中すれば、威力だってかなり高くなるはずだもの』
シルフの言葉になるほどと頷く。
彼女の行った通り、今いる道は斜傾があるとはいえ直線になっている。まっすぐ正確に魔法を撃つことができれば、洞窟の壁を崩すことなく倒すことができるだろう。
「なら、その作戦でいこう。私は土壁を崩すから、攻撃をお願いしても大丈夫?」
『もちろんよ、任せなさい!』
「ありがとうシルフ、頼りになるね!」
シーラが土壁を消し去ってすぐ、シルフが魔法をぶちこむ。タイミングをミスらなければ、作戦はバッチリだろう。
「じゃあ、行くよ!」
「いつでもいいわよ!」
シルフの声を聞き、シーラはさっと土の壁を消す。
『うねる風よ、我の意思に従いその道を進みなさい【ウィンド・ストーム】』
力強い声に呼応して、シルフの前に大きな風が発生した。
それはどんどん圧縮されていき、バスケットボールほどの大きさまで縮小される。あとはこれを、目の前めがけて放ち魔物を倒すだけだ。
これはシルフの得意な竜巻の魔法だけれど、アレンジをして直線を描くような攻撃魔法になっている。
「さすがシルフ、強い!」
大量にいた魔物たちは、シルフの力を込めた突風を食らって倒れた。すべて倒したことを確認し、ふうと息をつき肩を回す。
『倒しても切りがないわね。でも、そろそろ山頂だと思うのだけど……』
「歩いて一時間くらいは経ったもんね」
シルフの言う通り、山頂付近にいることは間違いないだろうと思うが……あいにくと出口のようなものはない。
――でも、洞窟に入ったときよりかなり暑い。
おそらくマグマに近くなったのだろうと思うので、その点でも山頂は近い。
そう思いながら再び歩くと、マグマの唸る音が耳に届いた。
シーラの耳がぴくんと反応して、表情をぱあっと輝かせる。
「シルフ、出口がすぐそこにあるみたい!」
『なら、魔物ももう出てこないでしょうね』
山頂のヒヒイロカネの横には魔物の姿はなかったので、ここからさきはおそらく安全だろう。
最後は道が急斜面……というよりも、ほぼ垂直になっていた。けれど岩に足をひっかけることができれば難なく登ることができるので、問題はないだろう。
『転ばないように気を付けなさいよ?』
「さすがにそこまでドジじゃないよ……」
笑いながら告げるシルフに、シーラは頬を膨らませる。
「よいしょっと」
最後の一歩を蹴り上げて、シーラは穴から這い出るように洞窟を出た。
一瞬でマグマの熱気がシーラを襲ってきて、その熱さに「うわっ」と顔をしかめる。かなりの熱風を受けながらも、さきほど見ていた場所――マグマの中央、ヒヒイロカネの下へやってくることができた。
「やったー! 魔物も思ったほど強くなかったし、楽勝だったねシルフ」
『そうね。私はもっと苦戦すると思ったのだけど……勘が外れたかしら?』
「まあまあ、いいじゃない。あとはこのヒヒイロカネを手に入れて、ピアに謝って呪いを解いてもらえば全部解決だよ!」
これで悩むことは何もないぞと、シーラはおおらかな気持ちになる。
シーラはヒヒイロカネの前まで歩いていき、それをまじまじと眺める。こんなにじっくり見たのは、初めてだ。
ヒヒイロカネは、緋色の綺麗な結晶だ。
光沢があって、存在感がとても強い。帯びている魔力はとても熱くて、触れたら火傷してしまうのではと心配してしまうほど。
ドキドキしながら手を伸ばし、シルフに見守られながらシーラはヒヒイロカネへゆっくりと触れた。




