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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第二章 世界の異変と魔女の村
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8:魔女たちの長

「長、失礼いたします。守り神様を癒してくれた客人たちをお連れいたしました」

「入りなさい」

「はい。さあ、どうぞ皆様方。私の案内はここまでですので、下がらせていただきます」

「ありがとうございます」


 案内してくれた魔女は一礼をすると、シーラたちがお礼を言うのもそこそこに、すぐに門へと引き返していってしまった。


『ふむ、ここへ入るのか』

「サイズが合わなくてはいれないね。どうしよう?」


 二メートル少ししかない玄関に対して、三メートル以上ある守り神では入ることができない。かといって、外で待っていてというわけにもいかないし……そう考えていると、守り神の体がゆっくり小さくなっていった。

 まるでぬいぐるみのようで、シーラの腕の中へすっぽりと収まる。


「わあ、すごい! こんなこともできるんだね」

『いつも大きい姿では、不便なこともあるからな。これくらいであれば、造作もない』


 ルピカも目をキラキラさせて、守り神を見る。


「わあ、とても可愛いですね。……と、守り神様にこのようなこと、失礼でしたね」

『かまわぬ、気にする必要はない』

「ありがとうございます」


 寛容な態度にホッとしつつ、そういえば魔女の長の下へいかなければいけないのだったと思い出してルピカはひとつ咳払いをする。


「とりあえず、許可は頂いたから入りましょう」

「そうだね。……失礼いたします」


 ルピカが先を促すと、アルフが挨拶をして家の中へと入る。すぐにシーラたちも長の下へいき――声にならない悲鳴をあげた。

 全員が目を大きく見開いて、何もできずに立ち尽くしている。

 そんななか、それを見て最初に言葉を発したのはシーラだ。


「え、レティア……さん?」


 目の前にいる女性は、黒のローブをみにまとい、大きな杖を持ち、妖艶な笑みを浮かべている美しい女性だった。

 けれど、シーラたちはその顔に見覚えがある。

 レティアと呼んだ彼女は、王都で精霊の研究をし、精霊たちを捉え苦しめていた貴族の令嬢だった。


 ――でも、レティアさんは死んだはず。


 シーラがしっかり、自分の目でその死を確認したのに。一体どうして生きているのだろうと、そんな疑問が脳裏をよぎる。


 ――もしかして、村の誰かが助けたのかな?

 シーラに死んだ人間を蘇らすことは不可能だけれど、村にいるおばば様であればそれくらいの治癒魔法を使うこともできるのではないか? と考えたのだ。

 彼女が生き返ることはほぼほぼ不可能だったけれど、可能性がまったくゼロではないとシーラは判断した。


 しかしそれを否定したのは、眼前にいる長本人だった。


「あら、私の姉を知っているのですか?」

「え、姉妹?」

「はい。レティアは私の双子の姉です。王都へいき貴族の養子になったのですけれど、この間の事件で亡くなったと聞きました」

「…………」


 優しく微笑む長は、レティアが亡くなったことも知っているようだ。けれど淡々と話し、落ち着いているということがわかる。


 いろいろなことがあり、レティアのしたことが悪いことだったのは確かだが――彼女を死に至りしめてしまったのはシーラたちだ。

 なんと言葉を続ければいいかわからず、アルフが口を噤む。


「あら……ごめんなさい、気を使わせてしまいましたね」

「い、いえ。僕たちは、その……っ」

「姉のことなら知っていますから、大丈夫ですよ。別に、あなたたちを責めるようなことは、いたしませんから」


 そう言って長は微笑む。


「私はここ、魔女の村の長。マギと呼んでちょうだい」

「僕はアルフ・アールグレーンです」

「私はシーラ」

「わたくしは、ルピカ・ノトヴァルドと申します」

「クラースだ」


 全員が自己紹介を終えると、マギは客間へと案内をしてくれた。



「まずは、守り神様を助けていただいたことにお礼を。ありがとうございます」

『今は魔力も十分だ』

「そうですか。守り神様の魔力はとても強大で、回復するのはととても大変だったと思うのですが……」


 売り物のポーションはもちろんだけれど、魔女たちが作った貴重なポーションでも回復すことはできなかった。

 それをいったいどうやって? と、マギはアルフを見る。


「い、いえ。僕は何もしていなくて。シーラがポーションで助けたんですよ」

「あなたが?」


 パーティリーダーであるアルフが話をしていたけれど、突然シーラに話が振られた。


「私だって、別にそんなすごいことをしたわけじゃないですよ。村を出るときにもってきたハイ・エリクサーを使っただけですから」

『それはたいしたことだ。我の魔力をすべて回復させるなんて、不可能に近いことを簡単にしてしまったのだからな』


 あははと笑うシーラに、守り神が否定する。

 自分がどれだけすごいものを持っていたのか自覚しろと、そう言っているのだろう。


「ハイ・エリクサー? そんな伝説のようなものが、存在しているなんて。守り神様のために使っていただいたなんて……本当にありがとう。私たちにできることがあれば、なんでもさせていただきます」

「本当? 実は私たち、呪いをかけた魔王ピアを捜してそれを解いてもらおうと思ってるの! ねえ、マギさんは何か知らない?」


 シーラがど直球で伝えたのを見て、思わずルピカが頭を抱える。

 そうだ、最初に注意すべきはクラースではなくシーラだった。しかし、もう遅い。マギがどんな反応をするだろうかと、息を呑んで様子を伺う。


「魔王ピアの呪いを?」


 きょとんとして、マギが内容を復唱した。

 そしてくすくす笑って、「そうでしたのね」と優しく告げた。


「植物が育たないことの理由まで、ご存知だったのですね。しかもそれを解呪するために動かれていたなんて、ご立派ですね」


 口ぶりからして、マギは何かしらの事情を知っているようだ。

 今度はシーラに変わり、ルピカが口を開く。


「この現状のせいで、守り神様も魔力を失ってしまいました。守り神様のためにも、今回のことは早期解決が必要でしょう。どうか、マギ様のお力を貸してはいただけませんか?」

「守り神様を助けていただいたのですから、それはかまいません。けれど、私たちも現状の呪いを解く方法はわからないのです」

「そうなのですか……」


 一気に解決するのではないだろうかと思っていたため、ルピカは落胆して肩を落とす。けれど、マギは話を続ける。


「けれど、ピア様に皆様を引き合わせることはできます。本日はお休みになられているので、明日であれば」

「魔王ピアは、魔女の村にいらっしゃるのですね……?」

「はい。ピア様は、この村にいらっしゃいます」


 マギはにこりと微笑んで、問いかけたルピカの言葉を肯定する。

 けれど今は休んでいて会うことができないので、シーラたちも泊まっていくようにとマギが言う。


「明日、改めてご紹介させていただきますから」

「……わかりました。ご招待、ありがたくお受けいたします」


 こうして、シーラたちはマギの家へ泊めて一晩休むことになった。



 ***



 男女それぞれで部屋をあてがわれ、今は男性二人の部屋で話し合いだ。

 アルフは疲れ果ててしまったようで、ぐったりしている。しかも明日は魔王ピアと会うのだから、なおさらだろう。


 ルピカも疲れている様子を隠さずに、今日のことを振り返る。


「でも、まさかレティア様が魔女の村出身だったなんて……思ってもみませんでした」

「だよね。もしかして、魔女たちも精霊たちを捉えて魔力を奪いたいと思ってるのかな?」


 アルフはルピカの話に同意して、魔女たちの目的を考える。


「……それは、どうでしょう。守り神様をとても大切になさっているようでしたし。もしかしたら、レティア様が異質だったという可能性もあります」

「確かに彼女は少し……いや、かなり変わってたもんね」


 だから魔女の村を出たのでは? と、ルピカは告げる。そしてアルフはすぐに頷いた。レティアが一人で動き、魔女たちの敵へ回ったという可能性は十分に考えることができる。


「シーラとクラースはどう思う?」


 アルフは会話に入ってこない二人へ、意見を聞くため話を振る。

 シーラはうぅ〜んと考えながら、「どうだろう」と言う。


「でも、レティアさんは嫌な感じがしたけど、マギさんからは嫌な感じはしなかったよ」

「野生の勘か? それは」

「私を動物みたいに言わないでよ! まあ、勘みたいなものだけど」


 クラースのツッコミにすぐさま反論するシーラだけれど、明確な根拠があるわけではないのでふてくされつつも肯定する。

 そんな二人を見て、ルピカとアルフが笑う。


「ったくよ。つっても、俺はそのレティアって貴族のことは詳しくないし、意見も何もないぞ」

「そういえば、クラースは事件にはほとんど関わっていませんでしたね……」


 国王から報酬をいただいて、シーラたちに挨拶もせず王城から姿を消していたことを思い出す。こうして再会できているだって、運がよかったからだ。


「でも、双子の姉妹か。長である妹が、その姉を慕っているか嫌悪の対象にしてるかで対応は変わるだろうな」

「先程の様子では、どちらでもない……という感じでしたね」


 クラースの言葉にルピカが頷き、マギの様子を思い出す。身内、しかも姉が亡くなったというのにその対応は冷静なものだった。


「でもでも、守り神のこともあるし、きっと呪いはどうにかしたいんだと思うよ」

「シーラは気楽に考えるなぁ」

「だって、明日会うんだから話をしてみないとわからないじゃん」


 ハハッと笑うクラースに、シーラは「どうするの?」と問う。


「いや、俺も別に何かすることはないが……情報は多いに越したことはないからな。負け戦だって、情報一つで戦況がひっくり返ることだってあるんだ」


 盗賊の頭をしていたクラースは、情報というものが大事だということを理解している。

 ベッドにつっぷしてぐったりしていたアルスは、もう一つの懸念事項について話を切り出す。


「僕たちのことは、どうするの。とりあえず名前しか名乗ってないけど、勇者とか、伝えておいた方がよかったのかな」

「それは……微妙なところです」


 本来であれば名乗った方がいいのだろうが、魔王ピアと戦っていたのが昔の勇者だった。それを考えると、魔女たちは勇者にいい感情を持っていないかもしれない。

 ルピカはそう考えてアルフを見るが――でも。


「フルネームを正直に言ってしまったので、もうばれている気がします」

「あっ、そうか確かに……」


 うっかりしていたとアルフが頭を抱えるけれど、ルピカもフルネームを名乗っているのでおあいこだ。

 知られていないのは、おそらくクラースとシーラだけだろう。


 ……腹をくくろう。

 疲れていたので、そう結論付けて寝ることにした。

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