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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第二章 世界の異変と魔女の村
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2:夜空のドラゴン

本日書籍の発売日です!

いつも応援してくれているみなさんのおかげです、ありがとうございます!

どうぞよろしくお願いします〜!

 シーラとルピカは部屋に入り、荷物を下ろして一息つく。

 ツインの部屋は、荷物を置ける棚が一つと大きな窓があるだけの簡易的な作りになっている。


 思い出すのは、つい先ほど宿屋の女将さんが言っていた魔女の村のことだ。シーラが思っていた以上に気難しい集団のようで、話を聞くことができるだろうかと不安になる。


「ねぇ、ルピカ。魔女の村には何が売ってるのかな?」

「シーラはお買い物がしたいんですか?」


 わくわくしているシーラに、ルピカは思わず笑う。

 シーラは村から旅に出て、通貨というものが流通していることを知った。村では物々交換が基本だったため、お金の存在をしらなかったのだ。

 今はルピカたちに教えてもらい、自分で買い物をすることもできるようになった。


「だって、楽しみなんだもん。魔女の村っていうくらいだから、私の知らないものがたくさん売ってるんじゃないかな? って」

「シーラの知らないもの?」

「そう! 王都にも、私が持ってなかった綺麗な洋服がたくさん売ってたし」


 今度はどんなものが売っているのだろうと期待するシーラには申し訳ないが、王都が流行の最先端なのだとルピカは苦笑する。

 魔女の村に、きらびやかなドレスが売っているとは……正直思えない。


 どちらかといえば、魔法関連のものが多いのではないだろうか。

 杖や魔道書、薬草などの薬があるかもしれない。今後旅をするうえでもても役に立つし、魔法使いとしてルピカにとってプラスになるものもきっとあるはずだ。


「わたくしとしては、精霊の召喚石の欠片がついた杖があるといいのですけど」

「そうしたら、ルピカも精霊魔法を簡単に使えるようになるね」


 精霊魔法に憧れるルピカは、自分でも使ってみたいと思っている。けれど、使いたいからとすぐ使えるわけではない。

 使う方法として、ルピカは精霊の召喚石の欠片がついた杖を手に入れようとしているのだ。


「武器屋にあるもいいねぇ」

「そうですね。そのときは、教えてくださいね。シーラ」

「もちろん!」


 魔女たちの村に不安はあるが、期待だってある。

 そんな話をしながら、シーラとルピカは眠りについた。




 ◇ ◇ ◇



 夜も更けたころ、ふと目が覚めたアルフは散歩でもしようと宿屋の外へ出た。

 最近はいろいろなことがありすぎて、眠りが浅いのだ。


 村人は全員寝静まっているようで、どこの家からも明かりはもれていない。

 地面を照らしてくれるのは、大きな月と散りばめられた星だけだ。

 夜の風は心地よく、アルフは大きく深呼吸をした。


「……ふう。」


 魔女の村までここから二日程度。本当に情報が得られるのかと、アルフは不安に思っている。


 自分が勇者であるゆえに、国民からの期待が大きい。プレッシャーから胃がキリキリ痛むこともあるし、もし望まれた通りの働きができなかったら…と、思うこともある。

 しかも、このパーティはメンバーの我が強い。

 盗賊のクラース、この国一の魔法使いとされている貴族令嬢のルピカ。今はいないが、聖女と呼ばれていた王女のマリア。

 そして極め付けは、圧倒的な治癒力を持つ田舎から出てきた一人の少女だ。


「なんでこんなメンバーがそろってるのに、僕が勇者なんだろう?」


 絶対に神様は役割分担を間違えていると、アルフは常々思っている。


「まぁ……みんなが無茶しすぎないように、注意しよう。特にクラース」


 盗賊から足を洗ってくれたら一番いいのにな。そんなことをぼおっとアルフが考えていると、ごうっと一陣の風が吹いた。

 髪が舞って、思わず体を庇うような体勢をとる。

 それくらい、強い風だ。


 ふいに空を見上げて、アルフは大きく目を見開く。


「ーーえ、ドラゴン!?」


 大きな翼を広げ、ちょうど月の真下をドラゴンが優雅に飛んでいた。

 まさか、こんなところにドラゴンがいるなんて。アルフは開いた目が塞がらない。くちをぱくぱくさせて、思わずドラゴンを指差してしまったほどだ。


「ちょ、災害級……だよね? ワイバーンならともかく、あの大きさのドラゴンがいるなんて」


 そもそも、ドラゴンが人里にくることは滅多にない。

 降りてこようものなら、何百、何千の人間が討伐隊として編成されるだろう。もちろん、勇者であるアルフは先頭を切って戦うことになる。


「ドラゴンなんて、戦ったこともないよ……」


 自分たちが倒した魔王と、一体どちらが強いのだろうかと考える。

 単体であればいいが、もし群れでいたらとてもではないが立ち向かいたいと思わない。


 けれど、ドラゴンは特に降り立つこともなく、そのまま村の上空を飛んで去って行ってしまった。


「別に村を襲いにきたわけじゃない、のか?」


 それなら安心だけれど、だったらドラゴンがどこへ向かっているのかが気になるところだ。

 加えて、普段姿を見せないドラゴンがどうしてこんなところに? と、アルフは思う。

 単なる移動であればいいが、それであれば普段から見かけることがあってもおかしくはない。


 思い当たることなんて、一つしかない。


「もしかして、精霊の復活と植物が育たなくなったことに関係がある……?」


 もしそうであれば、タイミングはぴったりだ。

 すぐ宿屋に戻り、シーラたちに相談した方がよさそうだ。アルフがそう考え、踵を返して宿屋に戻ろうとした瞬間ーー閃光のような光が、ドラゴンの飛んでいった辺りから発せられた。


「うわっ、眩しい……っ!」


 咄嗟に目を閉じやり過ごしすと、その光はすぐに収まった。

 いったい何だったのか、予想もできない。けれど、それがいいことだとは思えなかった。


「……って、ぼけっと見てないでみんなのところに行かなきゃ!」


 ドラゴンのことを伝え、今後の対策を考えなければいけない。

 王都で情報収集や町の復興に取り掛かっているマリアにも、早馬で知らせた方がいいだろう。


「どうせなら、魔王ピアと関わりがあるといいんだけど……」


 そうすれば、今回の事件もいっきに解決の糸口が見えてくる。

 そんなことを祈りながら、アルフは走って宿屋へと戻った。

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