36:新たなる旅立ち
魔王ピアを捜す。
それがとてつもなく大変なことだろうというのは、さすがのシーラだってわかる。とはいえ、古い時代の魔王ピアは――勇者に倒されたのではないだろうか。
首を傾げながらマリアを見ると、こくりと頷かれた。
「これほど強力な呪いを持続させるには、術者本人が生きていないと難しいの。だから、わたくしたちは魔王ピアが生きているという結論を出したのよ」
「あ、なるほど」
「でなければ、百年ほどで呪いは風化していたはずよ」
呪いにも制限のようなものがあるのかと、シーラは納得する。
「でも、そんな強力な呪いをかけてくる魔王なんて強そう。勇者のアルフさんがいれば、大丈夫かもしれないけど……」
自分を戦力としてカウントしないシーラに、マリアたちは苦笑する。
治癒魔法魔はもちろんだが、本気で戦闘をすればアルフよりもシーラの方が強いのではないか……というのがマリアたちの意見だ。
アルフは悩んでいる様子のシーラを見て、声をかける。
「準備ができ次第すぐにでも出発しようと思う。シーラさん、一緒に来てもらえる?」
「私は大丈夫ですよ、身軽ですから!」
持ち物は特にないし、買ったドレスはルピカの家で保管してくれる話になっている。特に準備はないので、いつだって問題はないと頷く。
アルフはほっとした様子で、シーラに今後のことを話す。
「なら、明日にでも立とうか。……とはいえ、魔王がどこにいるかさっぱりわからない。見つけるまでは、手探りでかなり大変だと思う」
「居場所……」
確かに、魔王の居場所が分かれば苦労はしない。
かなり大変な旅になりそうだけれど、もとよりシーラは世界を見て回ろうと思っていたのだから問題はない。
のだが、植物が育たないのであればそうのんびりしていることもできないだろう。
「とりあえず、聞き込みをしながら移動していくよ。この街に関してはマリアに任せて、ひとまずは隣町に移動しよう」
「わかった」
アルフの言葉に頷いて、シーラは新しい街が楽しみになる。何か名産品はないかとか、新しい出会いがあるかもしれない。
隣の町には、馬車を使うと数時間で着く。その後、西の方にある山の麓の小さな村に行くとアルフが告げる。
「そこには魔女と呼ばれる人たちがいて、呪術などにも詳しいんだ」
「魔女! すごい、会ったことない」
はしゃぐシーラを見て、ルピカは苦笑する。その心は、エルフのシーラの方が何十倍もすごい存在だからだ。
「でも、気難しいっていうから不安だけどね……」
あははと笑いながら、それでもシーラがいれば何とかなりそうだとアルフは内心で思う。むしろ、シーラであれば魔女たちに気に入られてしまう可能性もあるのではと考える。
そうすれば、情報を得て一気に魔王ピアへ近づくこともできるだろう。
もしかしたら、とんとん拍子で上手くいくかもしれない。そんな考えが、全員の脳裏によぎるのだった。
マリアはじっとシーラを見つめ、祈るような気持ちになる。本来であれば、シーラを巻き込むわけではなかっただろう。
精霊のことや、アルフへの治癒など。治療や薬草のお礼をしたとはいえ、受け取った恩が大きすぎて返せないんじゃないかと思うほどだ。
「……よろしくお願いするわ、シーラ。アルフも、無理をさせてばかりで申し訳ないわ」
「気にしないで、マリアさん。きっと魔王の……ええと、ピアだっけ? 見つけてみるから」
「そうだよ。マリアはこの国の王になったんだから、胸を張っていればいいよ」
シーラとアルフは、任せてと大きく頷いたのだった。
◇ ◇ ◇
「魔女たちから情報を得る、かぁ……」
翌日になり、シーラは馬車の中で不謹慎ながらも浮かれていた。
やっと当初の目的である旅に出ることができたのだ。精霊たちも無事に解放されているため、精霊魔法だって使いたい放題だ。
そして馬車の中には、シーラ、ルピカ、アルフの三人。
シーラはてっきりアルフと二人旅だと思っていたが、ルピカが一緒だったので嬉しくなる。仲良くなったルピカがいると、やはり心強い。
「でも、ルピカはマリアと一緒に国に残らなくてよかったの?」
「……マリアには結構、渋がられましたけどね。でも、わたくしも魔法使いとして魔女には一度会ってみたかったんです」
かなり渋られたんじゃ……と思いつつも、魔法の得意なルピカが言うのであればすごい人たちだということはすぐに予測することができる。
「一応の目的地は、魔女の村なんだよね?」
「そうです。女性のみで構成されている魔女の村なんですよ」
「え? 男の人はいないの?」
「いません。だけど、村の人口が顕著に減ることはないし、平均寿命も魔女たちだけぐっと高いので、不便はないみたいです」
なんだか超人のような集まりだな……と、シーラは思う。
そんな人たちが自分を受け入れてくれるのだろうかと不安になりつつ、寿命が長いのであれば昔の魔王に関しても何かしっている可能性は高い。
やっぱり楽しみ! そう考えるシーラの向かいに座るアルフが、不吉なことを口にする。
「でも、魔女の寿命が長いのは人間の心臓を食べてるから……っていうような話も聞くど」
「ぴゃっ!」
「え? さすがに迷信じゃないですか?」
心臓を食べると聞き、シーラの肩がびくりと跳ねる。
ルピカはありえないと笑っているけれど、シーラの中には一抹の不安が生まれるのであった。
魔女たちの村まで、馬車で一週間。
シーラの旅は、まだ始まったばかり――。
これにて一章終了です!
お付き合いありがとうございました。
二章分のプロットが出来たら連載再開したいです。




