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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
36/59

35:マリアからのお願い事

 王城の全壊から数日――シーラたちは、ルピカの屋敷に集まっていた。

 メンバーは、シーラ、ルピカ、マリア、アルフの四人だ。あの後、クラースを捜してみたけれど、すでに旅に出た後だったということが発覚した。

 クラースはシーラが最初に出会った村の外の人間だったので、もう少し話をしたかったとも思うし、最後に別れの挨拶をしてくれても……と、肩を落とす。


 とはいえ、いない人間のことを考えても仕方がない。

 シーラは今、それよりも重要な案件を抱えているのだ。席についているルピカたちを見回して、シーラはコホンと一つ咳ばらいをする。


「それでは、どうすればいいのかを話し合いたいと思います」

「「…………」」


 真面目な表情のシーラだが、その議題は『シーラが聖女と呼ばれ始めてしまったこと』だ。


「話し合い、ねぇ……」


 マリアがやる気のなさそうな拍手をし、「第一回聖女会議かしら」と言いながら手元の書類に目を通している。

 至極どうでもいいと言わんばかりの態度を見て、シーラはぶんぶんと首を振る。


「マリアさん、そんなこと言わないでなんとかしてください! 私が街に出ると、いろんなところから聖女様だーって声をかけられるんですよ! 恥ずかしくて歩けないです!!」


 こんなに注目されるのは無理だ、落ち着かない、助けてとシーラが主張していく。二人のやり取りを見て、ルピカがくすりと笑う。


「でも、シーラは本当に聖女のようですし」

「そうだね、僕もそう思う」

「ルピカ、アルフさん、そんな……」


 二人の言葉を聞き、シーラがうなだれる。

 けれどマリアは、にやりと笑う。


「今は希望が必要なの。シーラ、あなたは国民たちから希望として見られているし、そのシーラが仲良くしているわたくしの株も上がるわ」

「えぇぇぇ……」


 政治利用してしまっているのは申し訳ないけれどと、マリアが告げる。

 これから国王として国を再建していくのだから、味方は多い方がいいのだ。


「王城の瓦礫は魔法で取り払うことができても、建てるとなるとぱぱっとはいかないのよね。この数日で瓦礫はほとんど片付いたけれど、やることはまだ山積み」

「それは、そうなんだけど」

「だから今は、シーラの聖女に関してまで構っている余裕がないのよ」


 ――というのは建前。

 シーラが本当に聖女として君臨してくれれば、国民にとっての生きる希望になるのでぜひこのままでと考えている。

 そんなことを知らないシーラは、確かにマリアもこの国も大変だしと、強く言い出すことができなくなってしまう。


「そ、それは……そうなんだけど」


 だけど、このままでは旅に出ても「聖女様~!」と呼ばれてしまうのがオチだ。いったい何のために村を出たのかわからない。

 このままでは、ほとぼりが冷めるまで村に帰るはめになってしまいそうだ。


「でも、聖女と国民に認められていることはすごいことだよ。……僕も勇者として認められていたからわかるけど、騒がれるのは最初のうちだけ。すぐ落ち着くよ」

「アルフさんも同じようなことがあったんですね」

「まあ、ね」


 今は少し待てばいいと言うアルフに、シーラはしぶしぶながらも頷く。それを確認してから、今度はマリアが口を開く。


「それはそうと、シーラ。これからどうするか決めているの?」

「当初と一緒ですよ。私はのんびり旅をする予定です」

「そうなの……」

「?」


 何かを考え込むようなマリアを見て、シーラはどうしたのだろうかと首を傾げる。

 マリアは手にしていた書類を机に置き、何かを思案するように目を閉じた。少しの沈黙のあとに、目を開いてシーラを見つめる。

 その様子は先ほどまでとは違い、真剣なものに一変した。


「……こんなことを、この国の人間ではないシーラに頼むべきではないとわかっているのだけれど」

「? 何か、お願いごと?」

「シーラ、あなた王城が倒壊してから街の外へは出たかしら?」

「外? うぅん、日中は瓦礫を運ぶ手伝いをしたりしたし、夜はルピカの家に泊まってるし、街の外には一歩も出てないよ」


 それどころか、城とルピカの屋敷以外にはどこへも行っていない。何かあったのかと思い、ふと、地下牢で会った研究員の男が言っていた言葉を思い出す。


『……魔王ピアを知っているか? 今じゃなくて、昔いた魔王だ。国が勇者を選び、魔王と相打ちになったそうだ。そのとき、この国の植物に育たない呪いをかけられたのだと私は聞いた』


 確かに、研究員はそう言っていた。

 つまり精霊がいなくなった今、この国は呪いが現れている――ということだろう。

 シーラ自身そんなに植物を目にしていなかったため、今まで思い出さなかった。けれど、育たない呪いであれば……あまり見た目に変化はないのかもしれないとも考える。

 ルピカの屋敷にあった薔薇園や草木は、別にしおれたりはしていなかったからだ。


「ここ数日、必死で調べたのよ。魔王の呪いとやらを、ね。奇跡的に生き残った研究員に話を聞いたのだけれど、昔のことだから詳細はわからなかったの。でも、植物が育たなくなるのは本当みたい」

「僕たちが倒した魔王じゃなくて、もっと昔の魔王みたいだね。……正直、呪いの解き方がわからないんだ」


 マリアに続き、アルフも困ったように話す。

 彼はここ数日、呪いに関することをいろいろと調べていたのだと言う。が、さすがに国全体という大規模だったため、解決策がまったくないらしい。


「魔王は、ピアというらしいね。呪いを解くことができるとしたら、直接この魔王にコンタクトをとるしかないんじゃないかっていう結論に至った」

「え、魔王に!?」


 アルフの言葉にシーラが驚くも、すぐに「時間がないのよ」とマリアが告げる。


「今はいいけれど、新しい植物が育たないことに気付いたら……一気に不安が広がるわ。だから、アルフには魔王ピアを捜してもらい、ほかの人員はその間に解呪方法を調べるの」

「なるほど……確かに、同時進行の方がいいですね。もしかして、私へのお願い事って……」

「ええ。アルフと一緒に、魔王ピアを見つけてほしいの」


 その大変なお願い事を聞き、シーラは息を呑んだ。

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