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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
31/59

30:ルピカ奪還

 にこにこ笑うレティアを見て、とてつもなく不愉快な感情がシーラの中に込み上げる。こんなにも酷い人がいるなんて、と。


「…………」


 レティアを許そうとは、思えない。

 ルピカと精霊のどちらかなんて、選べるわけがない。

 ならばどうするのがいいだろうかと考えて――ひとつの方法を考えつく。けれどそれは、ルピカを危険にさらしてしまう方法だ。


「……ん、はぁっ、シーラ! わたくしのことはいいですから、あなたが最善だと思ったことをしてください!!」

「ルピカ!」


 何かを思いついた顔をしたシーラを見て、ルピカが叫ぶ。自分のことは気にせずに、精霊たちを助けてほしいとルピカの瞳が告げている。

 暴れるルピカをレティアが押さえつけるけれど、にやりと笑い首にかけていた腕の力だけを緩めた。

 どうやら、ルピカが会話することを許すようだ。


「あら、ルピカ様はシーラ様を試すようなことをおっしゃるの?」


 レティアは自分がルピカを押さえている以上、シーラが己を攻撃することはないのだとゆさぶってくる。

 レティアを睨みつけて、ルピカは声を荒らげる。


「あなたは黙っていてください! シーラ!」

「――ッ!」


 ルピカの叫びと同時に、複数の足音が響いて武装した男たちが広間へと現れた。レティアが呼んだ、研究所側の人間たちだ。

 それを見て、ルピカは考えていた以上に精霊研究に関する規模が大きかったことに驚いた。

 武装した男たちはレティアの前に立ち、指示を仰ぐ。


「レティア様! ここは我々が対応いたします!」

「ええ、もちろんよ。最優先すべきは、そこの彼女――シーラ様よ。それ以外は、被害が出てもかまわないわ」


 レティアが男にルピカを渡し、腕を締め上げられる。


「うぐっ!」


 痛みに顔をしかめるルピカを見て、シーラは絶対に許さないぞと決意する。

 レティアが一歩後ろに下がり、男たちが中央へゆっくりと足を進めてくる。それを見ながら、シーラは少しずつ後ろへと下がる。

 シーラの後ろにある通路は、奥が地下牢になっているため行き止まりだ。それを知っているため、男たちは品のない顔でにやにやと笑う。絶対に逃がさないと、余裕の表情だ。


「可愛いねぇ……でも、レティア様に気に入られるなんてなぁ」

「人体実験ですか?」

「あら、人聞きの悪い。わたくしは、シーラ様のすべてを知りたいだけなのよ? その服の下を、皮膚の下に流れる血を……」


 だから早く捕らえて? と、レティアが男たちに指示する。


「だめ、シーっあ、ぐ」

「ルピカ様は大人しくしていてくださいね。精霊に関わろうとしなければ、このように酷い目には合わないで済みましたのにねぇ?」


 逃げるか自分に構わず攻撃をして――そうルピカが告げるよりも先に、男がルピカを地面へと叩きつけた。その勢いは強く、ルピカは痛みに顔をしかめる。

 魔法使いである彼女は、物理攻撃にめっぽう弱い。

 しかしシーラは、その様子をいたって冷静に見つめる。

 ゆっくり下がり、床に描かれている魔方陣の外まで出て、まっすぐレティアに視線を向けた。


「精霊は解放してもらうから!」

「あら……? ルピカ様ではなく、精霊を選びます?」

「違う。私はルピカも精霊も、両方選ぶ!」


 レティアの問いかけに、そんなことはしないとシーラは首を振る。そのまま両手を前に出して、精霊魔法を紡ぐために口を開く。

 まさか攻撃してくるとは思っていなかったのだろう。レティアは驚き、慌てて武装した男たちに師事を出す。


「なっ!? 早くシーラさんを捕まえなさい!」

「「はいっ!」」


 命令を聞き、男たちがシーラへ向かって走り出す。


 ――きた!


 全員が魔方陣の上に乗っていることを確認して、シーラは口元を弧に描く。シーラ一人対多人数では、ルピカを取り戻すことはできないと判断した。

 最悪、戦っている間にルピカを殺されてしまうという可能性だってある。それでは駄目だ。

 なら、どうすればいい?


 答えは――そう。


 ルピカを巻き込むのを承知で、レティアと男たちに攻撃をしかければいい! 自分の治癒魔法ならば、それが可能だ。

 ルピカが痛い思いをするのは申し訳ないけれど。でも。


 ――ルピカが私の最善に託してくれた!


 必死にシーラに叫んでくれた。その気持ちを、踏みにじりたくないと思った。

 だったら、それに応えたい。

 もちろん可能な限りルピカは無傷で助けるけれど。


「大地の生命宿るノームよ、その息吹を咲かせなさい――《アース・ブレイク》!」


 力強い声に応えるのは、土の精霊であるノーム。

 シーラの足元を中心に、ぴしりと床に亀裂が入り強い光が溢れ出る。それはそのまま刃となり、向かってきた男たちを串刺しにした。

 けれど、それと同時に――。


 ――駄目、やっぱりルピカだけを綺麗に回避することはできない!


 ノームの刃は、ルピカにも襲いかかる。

 かろうじて串刺しは免れているが、頬に、胸に、足に……攻撃がかすり服が破れて赤い血がしたたり落ちていく。

 心の中でごめんねと謝り、シーラは広間の端によっている研究員たちを見る。恐怖で足ががくがく震えて、腰を抜かしている人も少なくはない。

 けれど、シーラがまず気にすべきは謎の装置に捕らえられていた精霊だ。

 魔方陣が崩れたので、牢屋に閉じ込められていた男の話が真実ならば解放されているだろう。じっと装置に視線を向けると、中でぐったりしていた精霊がぴくりと動いた。


『……ッ!』


 顔をあげ、シルフの眷属がシーラを見た。

 大きく目を見開き、そして涙が溢れ出ているのがわかる。ぱくぱく動いている口は、ありがとうと言っているようだ。

「よかった、みんな無事みたい。精霊が無事なら、あとはもうこっちのものだ!」

 シーラは詠唱を破棄し、精霊魔法を使い、立ち上がろうとしていた男たちを攻撃する。そのままその横を走り抜け、血を流して倒れているルピカの下へ。

 かすり傷を負っているらしいレティアには、ついでに攻撃魔法を使って吹っ飛ばして近づけさせないようにするのも忘れない。


「っ、シー」

「大丈夫。すぐに治癒魔法をかけるから……《ヒーリング》!」


 シーラが治癒魔法を使うと、ルピカの体が優しい光に包まれる。みるみるうちにルピカの傷は癒えて、綺麗な肌が現れる。


「これがシーラの治癒魔法? あたたかい……」

「そうだよ。そんなに得意じゃないんだけど、これくらいの傷なら治せるから」

「…………」


 思わずそれは違うと言いかけて、ルピカは口を噤む。今はそんなツッコミを入れている場合ではなかった。


「痛い思いをさせちゃって、ごめん」


 そう言って、シーラはルピカをぎゅっと抱きしめた。

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