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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
28/59

27:王城の隠し通路

 シーラが一人で街へ出かけているころ、ルピカは一人登城していた。王城内の書庫の確認や、隠し部屋などが作られていそうな場所を探すためだ。

 ドレスではなく、魔法使いのローブを着用している。この姿であれば、訓練場のようなドレスでの立ち入りが憚られるような場所にも入ることが可能だ。


 魔法使いとしてそれなりの地位を持ち、実力はこの国随一のルピカ。王城の詳細な見取り図を見る権限もあるため、今はそれと実際の城に差異がないか見て回っているところだ。


「これで何かわかるといいんですが……」


 まず確認するのは、王城の一階部分。地下に研究施設を作ってしまうのが一番手っ取り早いし、二階以上は見取り図と実際の建物にあまり違いがあるようには見えなかったからだ。

 王城の一階にあるのは、夜会などを開くためのパーティールームに、休憩できるように用意されたいくつかのゲストルーム。

 そのほかは、厨房や洗濯室など業務を行うための部屋が奥まったところに造られている。


「使用人が使う施設が怪しいかもしれませんね」


 ここは普段、ルピカのような貴族が立ち入ることはない。王城で働く平民が使っている場所なので、精霊のことに感づくような貴族から隠すにはもってこいの場所だろう。

 しかし、調べようにもルピカが行ったら目立ってしまう。

 城に仕えているメイドの制服を用意すればいいか……とルピカが思案していると、背後から声をかけられた。


「おや、ルピカ様ではありませんか。本日はお一人ですか?」


 ねっとり絡むような嫌な声に、ルピカはわずかに顔を歪める。けれどすぐに笑顔を作り、振り返る。


「……宰相殿、わたくしに何か御用ですか?」

「いやいや。珍しいところでルピカ様を見かけたもので、つい声をかけてしまいました」


 ルピカがいるところは、普段貴族が使わない使用人の区画だ。そのため宰相のヘルトリートは不思議に思ったのだと告げるが、それはお互い様だ。


「宰相殿こそ、どうしてこのようなところに? わたくしは、ここを通って裏手に行こうと思っていただけですが」


 普段使うことはないけれど、使用人区画を通ると魔法の練習場への近道になるのだ。ローブを着ているルピカであれば、違和感はさほどないだろう。

 けれど、ごてごての貴族で権力が大好物のような男がここにいる理由はない。ヘルトリートはルピカを睨むようにして、「ふん」と悪態をつく。


「私は宰相なのだから、城の隅々にまで気を配るのは当たり前だろう?」

「そうですわね」


 ヘルトリートの言葉に微笑み返すルピカだが、彼が普段から使用人区画を見ているとは思えないし、実際に見てはいない。

 もしかしたら、精霊に関する研究施設があるのではないか? そう考えた。

 国の上層部が関わっているのであれば、私利私欲を優先するヘルトリートが関わっていないはずがない。

 ヘルトリートが来たのは、洗濯の終わったシーツなどを保管している部屋がある方向からだ。いつも人がいる厨房とは違って、保管屋を使われるのは基本的に昼過ぎくらいまでの時間になる。

 今は夕方なので、保管室には誰もいないはずだ。


「そういえば、シーラ嬢はルピカ様の屋敷にお泊りとか。せっかく城にゲストルームを用意していたというのに」

「そのような気遣いは無用です。シーラはわたくしの大切な友人ですから、こちらでもてなしさせていただきますわ」


 ヘルトリートに返事をするも、ルピカは訝しむ。彼がシーラを取り込もうとする理由が、思いつかないからだ。

 瀕死のアルフに薬草をあげただけの、身分も何もないただの少女だというのに。


「それに、シーラは田舎から出ていたばかりですもの。王城に泊まるとなると、萎縮してしまいますわ」

「田舎の娘というものは、王都に憧れるものではないかね?」

「王都であって、王城ではありませんわ」


 シーラが好き好んで貴族のいざこざに巻き込まれるわけがない。


「それとも、シーラがわたくしと一緒では何か不都合がありまして?」

「はは、まさかそんな。勇者を救った彼女に敬意を払いたいだけだよ。魔王を倒せたのに、死んでしまっては大変だからな」


 あくまでシーラの行いが偉大だったのだとヘルトリートは言う。けれど同時に、あのような場所でよく生きてこられたとも告げる。


「あの深い森の中では、薬草一つ探すことも大変だと聞く。魔力が強すぎて、人間に直接使えないようなものがほとんどなのだろう?」

「……何がいいたいのですか?」

「いやいや。シーラ嬢は、いったいどこから来たのかと思ってね。この国の宰相として、辺境にある村の状態も知っておく必要があるだろう?」

「熱心なことですわね」


 ルピカは感心したように頷くけれど、シーラの村をこの男に告げたりはしない。

 というよりも――あからさますぎる。あきらかに、精霊に関することをシーラたちが知っているから探りを入れているのだろう。

 最初のやり取りでやめておけばよかったものを、ここまでシーラのことを聞かれてヘルトリートの目的に気付かないほどルピカは馬鹿ではない。


「わたくし、そろそろ行かないといけませんから。ごきげんよう、宰相殿」

「……ふん」


 ヘルトリートが小さく舌打ちをしたが、ルピカは聞かなかったことにした。



「さて……と。この先に何があるのか、調べる必要がありそうですね」


 ルピカはヘルトリートが立ち去ったのを確認してから、廊下を歩きだそうとして――その足を止めた。なぜなら、後ろから呼ばれたからだ。


「ルピカ様!」

「……どうしたの、こんなところまで」


 現れたのは、ルピカの侍女だった。信頼のおける人物で、幼いころからずっと世話をしてもらっている気心知れた相手だ。今は客として滞在しているシーラの世話もお願いしている。

 侍女は言い難そうな表情になったが、すぐに懸念事項を伝えてきた。


「観光すると言ってお出かけになったシーラ様が、まだ帰られていないのです。夕食の時間をお伝えして、それまでに帰るとおっしゃっていたのですが……」

「シーラが? 捜索はしましたか?」

「もちろんです。ですが、街のどこにもシーラ様はいらっしゃらなくて」

「…………そう」


 侍女の言葉を聞いて、ルピカは考える。

 シーラは確かに規格外だけれど、一度した約束を破るような人間ではない。もしかしたら事件に巻き込まれて――ということも考えられるが、彼女の強さを知っているとそんなことはあり得ないとも思う。

 となると、行き着く可能性は一つだ。


「……見つけてしまったんでしょうか」

「ルピカ様?」

「いいえ。貴女は屋敷に戻り、もしシーラが帰宅したら連絡をください」

「わかりました」


 侍女に指示を与えると、ルピカは急いでヘルトリートが来た方へと向かう。目を付けたのは、今の時間はほとんど人があまり来ない保管室へと入る。



 中は、綺麗に選択されたシーツがたたんで棚に保管されていて、清潔だ。けれど、逆にそれがルピカを助ける結果になった。

 一か所だけ、綺麗に置かれたシーツにわずかな乱れがあったのだ。ヘルトリートが何かしていたのだろうというこが、容易に想像できた。


「ここですね」


 シーツをどかしてみると、見えるのは壁だ。


「何か仕掛けがあるんでしょうか」


 壁に手を添え、コンコンと叩いていく。そのうちの一か所だけ、低く鈍い音ではなく高い音が鳴った。

 すぐそこに何かあるのだと思い調べると、回転式の扉になっていたようで、壁がくるりと周り開いたのだ。


「隠し通路……」


 王城なので、王族が緊急時に使う避難経路があるのはルピカも知っている。が、それはこのように保管室に設置されているものではない。

 主に王族が使う部屋と、廊下、市街地に繋がっているものがほとんどだ。

 つまり、この隠し通路は避難経路として使われている可能性は低いし、ヘルトリートの様子を見るに精霊を研究している施設に繋がっているとルピカは考える。


 警戒しながら進んでみようとすると、ルピカの背筋がぞわりと震えた。すぐに魔法を使えるよう手を前に出して、振り返る。


「誰……っ!?」

「やぁだ、そんなに警戒しないでくださいよ?」


 くすりと笑い、パルを連れたレティアがそこに立っていた。

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