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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
26/59

25:怪しい上層部

 シーラとルピカが登城すると、すぐにマリアが管理する部屋へ通された。マリアとアルフの姿があり、「待ってたよ」とアルフがほっとする様子を見せる。

 どうやら、不機嫌なマリアの相手をするのが大変だったようだ。


「ああもうっ! いったい何だと言うの!? 精霊の研究をしている者に、お父様があんな権限を与えているなんて信じられない!」

「今の姿……とてもじゃないけど、聖女には見えないですね」


 マリアはソファに深く腰掛け、クッションを握りしめていた。その強さは、引きちぎってしまうのでは……とシーラが心配してしまうほどだ。


「でも、その様子なら何か進展があったんですね」

「そうなの?」


 ルピカがそう問いかけると、マリアは頷く。シーラはもう何か分かったのかと驚き、早く精霊たちに会えるかもしれないと胸を弾ませる。

 シーラとルピカがマリアの向かいにあるソファに座り、用意してあったティーポットから紅茶を淹れる。


「……十中八九、精霊が姿を保てずに消滅してしまうことと、この国は関係性があるわ」


 不機嫌な様子とは打って変わり、マリアが真剣な瞳で告げる。

 とはいえ、詳細はまだわかっていない。


「シーラと二人で旅にでようと思っていましたけれど、そうもいかないようですね」

「じゃあ、原因はここで探るのがいいってことだよね?」

「そうなるわね」


 ルピカの言葉を聞き、シーラが続けるとマリアが頷いた。

 そして、自分が調べたことを話す。


「お父様に、精霊のことを探ろうと思ったのだけれど……かなりの警戒心ね。精霊の一言だけで、反応をしめしたわ」

「それだけ精霊に細心の注意を払っているんですね」


 絶滅したとされる精霊のことが話題にされることはほとんどないため、精霊ということを話題にしただけでマリアの父親――国王は警戒を示したのだという。

 けれど同時に、それはやましいことがあるということを肯定してしまっている。


「警戒が強いから、上を崩していくのは難しいわね。何か決定的な証拠を得られればいいのだけれど……」


 レティアに精霊に関する研究資料を提出させたが、それからは何もわからなかったという。というよりも、とりあえず用意されている提出用の資料だということがすぐにわかった。

 シーラは「うーん」と悩みながら、どうすればいいのか問いかける。


「何が証拠になるの?」

「そうね……一番いいのは、研究施設の場所を突き止めることかしら」


 レティアのいる研究棟とは別に、この王都のどこかにそれがあるだろうとマリアは考えている。もしかしたら、王城の敷地内にあるという可能性も捨てきれない。


「わたくしがいれば、入れないところはないわ。けれど、そう簡単に見つけられるとも思えないし……どうしようかしら」

「マリアの派閥に所属している貴族で知っている人がいればいいですけど難しそうですか?」

「そうね……。わたくしの派閥とはいえ、お父様についている可能性は高いもの」


 知っていそうな貴族を当たればいいかとも考えたけれど、国王の息がかかっていないとは言い切れない。

 下手に探りを入れると、逆に捜査がし辛くなってしまうだろう。


「難しそうで、僕が手伝えることはあまりなさそうだね……」


 ルピカとマリアの話を聞いていたアルフは苦笑しながら、なくなりかけていた紅茶を追加する。ついでとばかりに立ち上がって、お菓子も用意してテーブルへ置いた。


「わあ、美味しそう」

「僕のおすすめだからね、美味しいよ」


 すぐクッキーに手を伸ばしたシーラを見て、マリアが笑う。


「なんだかシーラを見ていると、和むわね」

「ええ、そうかな?」

「そうよ。悩んでいるのが、馬鹿らしくなってしまうもの」


 ピリピリしていた空気が少し和らぎ、マリアもクッキーに手を伸ばす。「少し休憩ね」と告げたところで、扉をノックする音が室内に響く。

 どうぞと入室を促すと、入って来たのはマリアの侍女だった。


「……ああ、そういえば仕事があったわね」


 すっかり忘れていたと言いながら、マリアが立ち上がる。


「わたくしは席を外すけれど、ゆっくりしていってちょうだい」


 マリアの言葉に頷き、残された三人はもう少し雑談することにした。


「そういえばシーラさん、昨日はルピカと一緒に王都観光を?」

「はい! 可愛い服に、美味しいお菓子に……村にはなかったお店がいっぱいあって楽しかったんだ。ね、ルピカ」


 アルフが尋ねると、シーラは笑顔で返事をする。


「僕も田舎から出てきたばっかりのときは、人の多さとかに驚いたんだよね。お洒落なものがたくさんあったから、楽しかったよ」


 田舎から出てきた仲間のシーラとアルフは、「そうそう!」と言いながら王都のことを話す。まるでいなかあるあるのようになっている。

 ルピカは小さなころから見慣れているため、二人がそんな風に話していることを不思議に思う。けれど同時に、確かに王都から離れた村は娯楽も少ないことを思い出す。


「料理の種類が豊富で、それがすごくいいなって思う!」

「ああ、それは確かにあるかも。おやつとか、芋を蒸かすだけとかだったよ」

「お芋も美味しいけど、森に生ってる果物とかが多かったかな。もいでそのままとか、定番だったよ」


 基本的に素材を活かす田舎と、創意工夫してより美味しさを追求する王都。もちろん美味しいに越したことはないけれど、アルフは田舎の味が恋しくなのだと告げる。


「へぇ……私はさっぱりした味付けばっかりだったから、まだまだ王都の料理を堪能したいかな。それに、買い物もしたいし」


 新しい鞄やポーチ。服は少しかさばってしまうけれど、ネックレスなどの装飾品であれば比較的持ち運ぶことも簡単だ。

 まだまだ、シーラがほしいものや行きたい場所もたくさんある。


「それなら、早く精霊のことを解決しないとだね」

「うん。精霊たちが自由に生きられるのが、一番いいから」


 アルフの言葉を聞き、素直に頷く。

 精霊たちは自然を愛し、豊穣をもたらしてくれる。

 シーラは精霊と仲がいいので、その存在を確認できないことは寂しいし、苦しんでいるのであればすぐにでも助けてあげたい。

 早く早くと、心が急ぐ。


「ようし、私も証拠探しのために調査してみるよ!」


 ぐっと拳に力を入れて、シーラが立ち上がる。もちろんすぐにストップの声をあげたのは、ルピカだ。


「シーラ、一人で調べるのは危険です」


 レティアだけならまだしも、国の上層部すべてが黒という可能性があるのだ。

 そんなところにシーラが一人で行くなんて、ルピカは心配で心配でたまらなくなる。あっという間に腹黒い貴族に言いくるめられてしまうだろう。


「とりあえず、情報はルピカやマリアに任せた方がいいね。シーラさんの出番は、精霊たちを見つけてからだよ」


 アルフもルピカの意見に同じようで、頷いている。


「そっか、わかった」

「シーラにはシーラしかできないこともありますし、今はゆっくりしましょう」


 ルピカの言葉に頷き、シーラは早く情報が集まるよう祈った。

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