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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
16/59

15:王都到着

 予定していたスケジュールを限界まで詰めたため、早く王都へ着くことができた。ここで一刻も早く情報を集め、精霊を復活させるのだ。



 馬車で王都へ辿り着き、まずシーラの目に飛び込んできたのは高くそびえ立つ王都と外を隔てる門だ。見張りの兵士が立ち、王都へ入る人間の身分確認などを行っていた。


 ――うわぁ、すごい。


 王都へ入るための列は長く、普通に待てばゆうに二時間ほどはかかるだろう。

 まだまだ道のりは長そうだと思ったシーラだったけれど、乗っている馬車はその列の横を進み隣に設置されていた一際豪華な門へと向かっていく。


「……? あそこに並ぶんじゃないの?」


 こっちの門は何だろうと、シーラはルピカに問いかける。


「向こうは、平民たちの出入り口になっています。わたくしたちは、こっちにある貴族専用の門から街へ入ります」

「なるほど……」


 それに補足する形で、マリアも続ける。


「あちらの門は兵士だけが守っているけれど、こちらの門は騎士が守っているのよ」

「兵士と騎士?」

「そう。兵士は平民から。騎士は、貴族と腕の立つ一部の平民から構成されているの」

「へえぇぇ……」


 世間の常識を知らなかったシーラは、異動する馬車の中でいろいろなことをルピカとマリアに教えてもらっていた。


 シーラの住んでいた村には、まとめ役としておばば様がいるだけだった。

 しかし村から出た今は、王族、貴族、平民と身分がわかれることをルピカたちに教えてもらう。村から出てきたばかりのシーラは、もちろん平民だ。

 シーラたちの乗った馬車は何の問題もなく門を通り、無事王都の中へ入ることができた。



「うわぁ、王都すっごーい!!」

「シーラ、くれぐれもフードは外さないでくださいね」

「はぁーいっ」


 馬車の窓から外を見て、シーラは大きな瞳をキラキラさせる。今まで通ってきた村や街とは広さも、人口も、何もかもが桁違いだ。


 ――これ以上、驚くとは思わなかったのに!


 街中は歩道が整備されていて、大きな通りは馬車が走っている。ドレスを着た女性が優雅にショッピングを楽しんでいたりと、お店の数も多い。

 広場には休憩できるベンチに加え、大きな噴水があった。水の都と呼ばれているこの王都は、街中に整備された川が流れていて涼しげだ。


 街の中心部にそびえる王城を見て、シーラは思わず感嘆の声をあげる。


「すごいすごーい! 高い建物がたくさん」

「今までの街は、高くて三階でしたからね。中心に王城、北には神殿があって、東には学園があります。各ギルドも揃っているので、活動拠点にしている人も多いですね」

「早く見て回りたいなぁ……!」


 ルピカたちははしゃぐシーラを微笑ましく思うも、残念ながら観光している余裕はない。

 このパーティメンバーは、魔王を討伐してきた英雄たちだ。すぐ王城へ行き、国王へ謁見や祝賀パーティーが開かれるハードスケジュールをこなさなければならない。

 途中の街で出した早馬の伝令がしっかり仕事をしたようで、すでに国王は待機してくれているという話を門で騎士に聞いている。


 シーラが王城に行かなくてもいいのだが、アルフの傷を治したりしたため、ルピカたちと一緒に国王へ謁見することになっているのだ。

 堅苦しい雰囲気は苦手なシーラは委縮して拒否を示したが、「わたくしも一緒ですから」とルピカに押し切られてしまった。

 キラキラした目で周囲を見つめるシーラには申し訳ないとルピカが思っていると、マリアが名案だとばかりに「王城を観光すればいいのよ」と手を叩く。


「え、あのお城を!?」

「そうよ! シーラの好きに見てかまわないわ」

「なにそれすごい、ありがとうマリアさん!」




 ◇ ◇ ◇



 中央に立つ、一番豪華な建物。

 街よりも一段ほど高い場所に作られており、メインの王城を中心にし周りには五本の塔が立てられていた。深い青色の屋根には国旗が掲げられ、威厳が感じられる。


 王城まで馬車でやって来たシーラは、ゲストルームへ案内された。ルピカたちも謁見の準備があるので、それぞれに別の部屋へ行ってしまったため一人だ。

 知らない場所、しかも豪華な王城。緊張しても、しかたがない。

 シーラにあてがわれた部屋は、パステルカラーの可愛らしい令嬢用のゲストルームだった。

 丁寧な細工の施されたアイボリーゴールドのテーブルは、ガラスが天板に使われ美しい。椅子にのクッションに施された刺繍は細かく美しいデザインで、今までシーラの目にしたことのないものばかりだ。


 案内をしたメイドは、準備があると言って退室してしまっている。


「くつろいでいてって言われたけど、どうすればいいんだろう? うぅ、こんな豪華な部屋、落ち着かないよ……」


 深い赤色の絨毯はとてもふかふかしているし、ソファも綺麗な布で作られていて、柔らかなクッションが置いてある。とてもじゃないが、もったいなくて座っているのが辛いほどだ。


 ――いつまでここにいればいいんだろう?


 時間もわからず、シーラの中の緊張は高まる。

 そわそわして、じっとソファに座っているのが辛くなってきた。心なしかトイレにも行きたいが、この部屋には併設されていないようだ。


「あ、そうだ! マリアさんがお城を観光したらいいって言ってたから……少し歩いてみようかな」


 この部屋でそわそわしているよりは、きっといいだろう。


「少し見て、すぐに戻ればきっと時間も大丈夫」


 たぶん。

 トイレも探したいというそれとない理由もつけて、シーラはゲストルームを後にした。


 ゲストルームから廊下へ出ると、すぐにトイレを見つけることができた。

 村とは比べ物にならないほど綺麗な設備で戸惑うも、用を終えていざ王城観光だとシーラは廊下を歩んでいく。

 ステンドグラスを使った窓がある廊下の先には、渡り廊下があった。そこは中庭に続く道だったようで、色とりどりの花が咲く庭園が広がっていた。


「わぁ、すごい。綺麗なお花……!」


 渡り廊下から庭に出ると、大きな薔薇のアーチが目に入る。頂に赤の薔薇をおき、ピンク、黄色、白とグラデーションになるよう植えられている。

 トゲがあるかと思い触れるのは止めたが、怪我をしないよう手入れをされているらしく、前面にある薔薇はトゲが切り取られていた。


「精霊がいたら、喜びそうだなぁ」


 特にウンディーネは淑やかで、綺麗なものを好む。普段であれば見せてあげるために召喚していたけれど、今はそれもできず歯がゆい。

 薔薇のアーチをくぐり庭園を進んでいくと、シーラの耳に不思議な音が聞こえた。


『わぷっ!』

「……何だろう?」


 今まで聞いたことのないそれに、首を傾げる。

 好奇心旺盛なシーラはその声が気になり、発生源を探してみることにした。

 庭園をさらに進んでいくと、色とりどりだった薔薇から一転、一面青薔薇に埋め尽くされた噴水のある場所へ出た。


「うわあぁぁ、すごい! 青の薔薇なんて、初めて見た」


 シーラが普段目にしていたのは、赤や白などの薔薇だ。

 自然に咲くもので、青の薔薇は見たことがなかった。そのためすごく驚き、「王都ってすごい!」と盛り上がる。

 薔薇に見とれていると、噴水の横で小さな影が動いたことに気付く。


「あ、さっきの鳴き声の子かな?」


 ゆっくり噴水のそばに行くと、もふもふした毛玉のような生き物が顔を出した。じぃっとこちらを見つめ『わぷ』ともう一度鳴き、一直線にシーラの方へ突撃してきた。


「えっ!?」


 あまりの速さに避けることができず、シーラは体で毛玉を受け止めるかたちになってしまった。そのまま後ろへ倒れ込み、尻餅をつく。

 ――びっくりした!


「ええっと、君は動物なの?」

『わぷーっ!』


 シーラにすりすりと頬を寄せてご機嫌にしている毛玉は、どうやら言葉を話すことはできないようだ。

 もちろん、シーラも動物の言葉を話すことはできない。村の近くに生息していたユニコーンやケルベロスは人語を話したため、意思疎通に問題はなかったのに……。


「わ、この子の毛……もっふもふだぁ」


 頬に触れた毛が心地よくて、シーラは思わず抱きしめ返す。

 綺麗な白色の体毛は、太陽の光をたくさん浴びているからかふわふわで触り心地がとてもいい。大きくつぶらな瞳はアンバーで、一途にシーラを見つめてくる。


「なんなの君は……っ! すごくふわふわでもふもふで、可愛いよぅ! ユニコーンの毛が白くて綺麗だと思ってたけど、それより淡くて白い色なんだ! 抱き心地はケルベロスが世界一かと思ってたけど、それよりずっともふもふする!」


 村の近くにいた動物や魔物を思い浮かべ、わぷーと鳴く謎の生物を絶賛する。


「お前、どこから来たの? このお城の子なの?」


 放し飼いされているのだろうかと、首を傾げる。


『わっぷぷ!』

「なるほど――ってわかんないよ」

『わぷー』

「でももふもふだから許すよ……」


 もふもふが愛しい。

 思わずすりよると、「パル様~」と誰かを探しながらメイドが庭園へとやってきた。そしてメイドがシーラを見つけると、大きく目を見開いた。


「パル様が人に懐いてる……!?」


「え?」

『わぷぅ』

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