宮城県仙台市。茶屋の三色餅セット。
大町西公園というところは仙台では桜の名所だそうだけど、五月の連休も終わりになろうかというこの頃には、さすがにおおかた散ってしまっている。
葉桜も、またよし。
基本的に緑が好きなタスッタさんにしてみれば、たとえ花が散ってしまっていても、十分に魅力的な場所だった。
タスッタさんは朝からもうかなり長い時間、この公園の中を散策して過ごしている。
暖かい時期とそれに連休中いうこともあり、公園内は人通りが多かった。
気温が高く、初夏並みの陽気になっていることも手伝って、周囲には家族連れをはじめとして様々な年齢層の人々がいきかっている。
公園内をしばらく散策したあと、櫻岡大神宮の近くで、古風な、それこそ時代劇にでも出てきそうな外観の建物を、タスッタさんは見かける。
モルタル建築らしいから、築年数的にはそんなにいっていなさそうな気もするのだが、のぼりや暖簾に太字で黒々と「休憩処」とか染め抜かれているので、つまりはそういう場所なのだろう。
「茶屋、ですか」
タスッタさんは足を止めて暖簾の文字を読み取り、早速そのお店の中に入ってみることにした。
気になった飲食店はとりあえず試しに入ってみる、というのが、タスッタさんの流儀である。
お店の中はかなり混雑していた。
八割から九割くらいの席がすでに埋まっているのだろうか。
すぐに店員さんがやってきて、タスッタさんを空いているカウンター席に案内してくれる。
店員さんがお冷やを持ってくるまで、タスッタさんはメニューを開いてさり気なく店内の様子を観察した。
よく使い込まれた什器類と、それに壁に大量に貼ってあるサイン入りの色紙。
おそらくは、このお店に訪れた有名人とか芸能人が残したものなのだろう。
その手のサインにありがちなことにどれも特殊な字体で書かれており、タスッタさんにはひとつとして読み取ることはできなかった。
それに、ほぼ満席状態になっているお客さんたち。
皆さん思い思いに寛いで、飲食をしていらっしゃる。
あー。
茶屋とはいえ、カレーやラーメンを食べている人が多いな、と、タスッタさんは感じる。
特に、ラーメンを食べている人が多いように見えた。
公園内にあるこの手のお店にありがちなことに、軽食も出すようだ。
どうしうようかな、と、メニューに目を落としてタスッタさんは思案をする。
カレーやラーメンでも別にいいのだが、せっかく茶屋に来たのだから、できれば茶屋らしいものをいただきたい。
そんなことを考えつつ、メニューに目を走らせていたタスッタさんは、
「あ」
と、小さく声をあげた。
お餅という手がありましたか。
そんなことを思いつつ、タスッタさんはお冷やを持ってきた店員さんに注文を通す。
タスッタさんが注文したのは、三色餅のセットだった。
何種類か用意されているお餅の中から、三種類を選ぶことができ、それにお茶がついてくる。
タスッタさんは、づんだ、胡麻、安倍川の三種類を選んだ。
適度に甘く、お腹にたまる。
よく考えてみると、この場にふさわしいチョイスだったなと、お冷やを飲みつつ、タスッタさんはそんなことを思う。
ほどなくして、お茶と三色餅が運ばれて来る。
づんだの緑と胡麻の黒、それに安倍川の黄色。
確かに、三色のお餅だった。
タスッタさんは箸を持って、まずはづんだ餅をいただくことにする。
荒めに砕いた枝豆をまぶしたづんだ餅は、箸で摘まんでみると想像していた以上によく伸びた。
どうやら、水分の含有量がかなり多いらしい。
ひょっとしたら、搗きたてなのかも知れないな、と、タスッタさんは思う。
苦労して伸びたお餅を口の中に入れて、噛み切り、咀嚼をする。
想像していた以上に柔らかく、そして適度に歯を押し戻す、しっかりとした弾力を感じた。
そして、表面にまぶされていたお豆の、甘すぎない適度な甘味。
うん。
お餅を噛みながら、タスッタさんはしみじみと思う。
これは、いいものだ。
素朴で、それでいて奥が深い。
ような、気がする。
そんな味だ。
ついで、タスッタさんは一口お茶を喫してから、今度は胡麻のお餅に箸を伸ばす。
お餅が柔らかいのはづんだと一緒だったが、お餅の表面にまぶされた擂り胡麻は風味豊かで、味が濃厚。
ちょっと香ばしい食感もあって、実においしい。
一口食べてから、またお茶を啜り、タスッタさんは安倍川に箸を伸ばす。
餅の表面にあったきな粉は、想像していたよりも甘すぎはしなかった。
味のバランス的に、これくらいでちょうどいいかな、とも思う。
づんたと胡麻が、それぞれにしっかりとした味だったので、そのあとに食べた安倍川の甘味があまり強く主張していないことが、どちらかというとありがたかった。
また、ほんのりとしたきな粉の甘味は、お餅そのものの味を強く感じさせる。
なんだか、安心できる味ですね。
と、タスッタさんは思う。
そしてタスッタさんは、またづんだ餅へ箸を伸ばした。
そういえばこのづんだ餅は、この仙台では名物といわれているんですよね、とか、思いながら。
でも、特に枝豆が特産というわけでもないのに、なんでづんだ餅が名物になるんでしょうか?
とか、タスッタさんは内心で首を捻る。
どのお餅も、それぞれにおいしい。
しきりに箸を動かしながら、タスッタさんは思う。
それぞれに違う個性があるから、食べ続けても飽きが来ない。
はじめて目の前に運ばれてきた三色餅のセットを目にしたとき、量が少し多いかなとも思ったのだが、気づくとタスッタさんはほとんど箸を止めずに完食していた。
最後に湯のみに残っていたお茶を啜り、タスッタさんは席を立ち、お会計を済ませてお店の外に出る。
外は、なにもしないでもじっとりと汗ばむような初夏の陽気。
日差しの強さに軽く目を眇めてから、タスッタさんはまた散策に戻った。




