千葉県船橋市。太巻きと自家製プリン。
「今年は北北西、ですか」
タスッタさんは自宅にしているマンション内で呟いた。
「ええと、この窓が南向き、だったから、北北西というと」
こっち、ですかねえ。
などといいながら、タスッタさんは律儀にそちらの方にむかって座り直し、それから帰りがけに買ってきた太巻きを端から口に咥えた。
やりながら、
「ずいぶんと、奇妙な風習だな」
と、そう思う。
ネットで調べた情報によると、もともとは大阪の一部を中心にした、かなりローカルな習慣で、一部の全国展開をしているコンビニチェーンの宣伝力によって、ここ数年で急速に、全国区の風習になりおおせたようであるが。
まだ一年と少々しか日本に滞在していないタスッタさんにしてみれば、由来などどうでもいいような気もする。
この土地ではこうすることが決まっているのだから、ちょっと真似してみようというくらいの、ごく軽い気持ちであった。
はむはむと太巻きを咀嚼しながら、タスッタさんは考える。
おいしいことはおいしいけど、これ、太巻きの具が均一なので、割と味に変化がなく、単調になりますねえ。
こういうところで、
「一度も口から離さずに食べ終えねばならない」
というルールが、さりげなく厳しく感じてしまう。
まあ、ゆっくりと食べていけば、十分に完食できるとは思いますが。
でもこれだと、なにか強制でもされているようで、せっかくの太巻きを味合うようなゆとりがないような気もします。
あと、急いで食べようとして途中でえずいたり、咳き込んだりした場合は、これ、どうなるんでしょうか?
などと、本人の意志によらず一気食いに失敗したときのことなどまで考えはじめる。
そんなこんなで、タスッタさんはゆっくりと時間をかけて太巻きを完食した。
それにしても、と。
自分でいれたお茶を啜りながら、タスッタさんは考える。
こういう太巻き、一本を丸のままいただくよりも、普通に輪切りにでもして食べた方が絶対おいしいですよね。
丸ごと一気食いだと、なんというか、具材をひとつひとつをしっかりと味わう余裕がないような気がする。
結構、いい材料を使っていると思うのですけど。
などと考えつつ、タスッタさんは手にしていた包丁で、もう一本買ってきておいた太巻きを、厚さ一センチ程度の輪切りにしはじめた。
切り終えてから、その一片を指先で摘まんで口の中に入れて咀嚼をする。
うん。
やっぱり、こっちの方が、ずっと落ち着いて素材の味を確認できますね。
一本丸ごとだと、なんというか、喉にひっかかる酢飯の味ばかりに気を取られて、具材のことにまで意識が回らない。
ような、気がする。
ゆっくりと、時間をかけて食べればどうにかなるのかも知れませんが。
熱いお茶を啜りながら二本目の太巻きも完食したあと、タスッタさんはなんとなく物寂しさを感じた。
なんでしょうか、この物足りなさは。
太巻き二本といえば、カロリー的にも栄養素的にも、一回分の食事としては十分なはずなのですが。
でも、口寂しさは否定できない、からなあ。
とか思いつつ、タスッタさんは立ちあがって、冷蔵庫を開ける。
普段、留守がちにしていることもあって、冷蔵庫内にはろくな食品の備蓄がなかった。
あるのは、玉子と紙パックの牛乳、それにみかんくらいか。
みかんはいただくにしても。
と、タスッタさんは考える。
この玉子と牛乳で、なにかできませんかね?
二月のこの時期、夜ともなり、外に出ればそれなりに寒さが身に沁みる。
できれば、買い出しのために外出したくはなかった。
タスッタさんはスマホを手にとってざっと検索をし、
「ああ。
これなら」
と、声をあげる。
手持ちの材料だけで、どうにか作れそうだ。
まず、砂糖を小皿に取り、ほんの少しの水を垂らして混ぜ合わせて、一分ほどレンジで加熱をする。
一度様子を見て、まだ足りないようだったら、十秒刻みくらいで様子を見ながら加熱をして、ちょうどいいぐらいのカラメルを作る。
次に、適当な容器に玉子とを割り入れて、砂糖もどさっと入れて、十分に掻き混ぜる。
今回タスッタさんは、普段使っていないマグカップを使用した。
少しずつ牛乳を入れながら、さらに掻き混ぜる。
玉子ひとつに対して、牛乳130ccの割合だというから、牛乳は意外に少なめだ。
そのマグカップをレンジに入れて一分ほど加熱。
それからまた、様子を見ながら、必要だと思えば数十秒単位で加熱をして、様子を見る。
マグカップの中身、その表面に適度な弾力を感じるようになれば、そこでレンジから出す。
そして、先に作っておいたカラメルソースをかけて、完成。
マグカップからお皿に開けてもいいし、そのままでもいい。
すぐにいただいてもいいし、粗熱を冷ましてから冷蔵庫に入れ、しばらく冷やしていただいてもいい。
材料を攪拌するときにバニラエッセンスなどを入れればさらに風味が増すようだが、今回は手持ちの材料だけで作ることにした。
うん。
と、タスッタさんは心中で頷く。
お手軽簡単で、失敗をする要素が少なく、調理時間も短い。
タスッタさんは、洗い物を少なくするために、できたてのプリンが入ったマグカップの上に、そのままカラメルをかけた。
そして、スプーンで熱々のそれをすくい、何度かふーふーと息を吹きかけてから、口の中に入れる。
熱さと、それに優しい甘みが、タスッタさんの口の中に広がった。
よし。
と、タスッタさんは、心の中で頷く。
ホットなプリンというのも、なかなかいけるじゃありませんか。
冷蔵庫の中に残っていたあり合わせの食材で、お手軽に作りあげた料理にしては、満足感が高い一品になった。
というか、これが作れれば、もはやスーパーやコンビニで、市販のプリンを買う必要もありませんよね。
材料費、圧倒的に安いし。
アレンジも、しやすそうだし。
タスッタさんは自宅のテーブルで、自家製のプリンをいただきながら、かなり安あがりな多幸感に包まれている。




