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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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栃木県芳賀郡益子町。古民家カフェのサルサソース&デミハヤシソースハンバーグランチとフリードリンク。

「なるほど」

 とあるお店の前で、そのお店の看板を眺めつつ、タスッタさんは小さく呟く。

「一階が陶芸教室、二階でカフェをしているわけですか」

 お店の前は、それなりに賑わっていた。

 一階の陶芸教室目当てなのか、二階のカフェ目当てなのか、にわかには判断できない。

 そのどちらでもなく、たまたま近くに観光に来ていた人が立ち寄っただけなのかも知れなかった。

 観光地、というほど名所がない気もするが、ここ益子は焼き物が名産品だということで、それ目当てに立ち寄る人もそれなりにいるらしい。

 ここの陶芸教室も、おそらくはその流れで経営されているのだろう。

「それにしても」

 と、タスッタさんは思う。

「この入口の脇にあるオブジェは、象、でいいんでしょうか?」

 鼻が長い動物、つまり象のディフォルメされた姿をした陶器が、入口の脇に安置されていた。

 かなり歪んだ造形で、制作者がどこまで本気で作ったのか判断に迷うようなクオリティだったが、少なくとも不思議な愛嬌はある造形だった。


「一階で靴を脱ぐんですか」

 お店の中に入ったタスッタさんは、若干の戸惑いを感じながらそんなことを思った。

 ここのお店は、古い家屋を改装した、いわゆる古民家カフェであるらしい。

 外から観ただけではそんなに古い建物だとも感じなかったが、中に入ってみると、確かに歴史がある建物なのだろうな、と感じる部分も散見された。

 お店に入ってすぐの一階部分は陶芸教室になっており、ろくろなど専用の道具が並んでいる空間になる。

 益子焼き、という陶器の名産地でもあり、そういうのを売りにしているお店でもあるのだろう。

 階上の二階部分が、カフェ兼お土産屋さんになっているらしい。

 やっぱり、観光客をメインに想定したお店なんでしょうかね。

 などと、タスッタさんは思う。

 ただ、そのお店部分にあがる前に靴を脱がなくてはならない、という構造は、文字通り、敷居が高いような気もするが。

 いずれにせよ、たまたま通りかかった人がふらりと立ち寄る、気軽なお店というより、このお店を目当てにわざわざここまで来る人を顧客として想定しているのだろうな、とは思った。

 つまりタスッタさんのような、たまたま立ち寄った人間は、このお店では少し珍しい存在になるわけだが。

「とりあえず、二階にあがってみますか」

 タスッタさんはそう思い、そのまま階段をあがっていく。

 壁際の棚には、いっぱいに陶器が所狭しと並べてある。

 二階部分にあがると予想外に広くて明るい空間であり、机などの什器はアンティーク調の落ち着いたもので統一されていた。

 畳の部屋と床にテーブルが置かれている部分とがあり、半端な時間のせいか、お客さんの入りはそんなに多くはなかった。

 いや、雑貨を売っているコーナーには、それなりに賑わっている。

 タスッタさんはそのまま、人気の少ない飲食をする場所へと移動した。

 途中で店員さんに声をかけられ、

「どこでも空いている席へどうぞ」

 といわれる。

 店員さんも、雑貨コーナーに集まっている人たちも、なんだかのんびりとした印象を受けた。

 たぶん。

 と、タスッタさんは思う。

 このお店に来ること自体が目的のお客さん、ばかりだからなのでしょうか。

 そうした、のんびりとした空気はタスッタさんも嫌いではない。

 タスッタさんは空いているテーブル席に着き、テーブルの上にあったメニューを手に取って眺めはじめる。

 予想以上に、品数が多かった。

 いかにもカフェらしい洋食がメインだったが、お蕎麦や天ぷらなどの和食も扱っている。

 これは、陶芸教室のお客さんがそのまま流れてくるのを見越しての配慮だろう。

 陶芸教室のお客さんは、必然的に比較的高齢の人が多くなるはずだった。

 とりとめのない印象もあるが、料理の種類が豊富であること自体はタスッタさんにとっても喜ばしい。

 種類が多ければ目移りもするものだったが、お店の雰囲気がそれなりによかったので、タスッタさんとしては、今回はカフェらしい料理を頼もうと思う。

「となると、洋食系になりますかね」

 そんな風に思いつつ、タスッタさんはメニューのページをめくる。

 あ、パスタ系もあるか。

 あって当然か。

 でも今は、麺類とかカレーという気分ではない。

 と、なると。

「プレートランチのどれか、ですかね」

 そんな風に思いつつ、タスッタさんはさらに候補を絞っていく。

 その手のランチセットは何種類か用意されており、どれもオーソドックスな内容で意外性には乏しかった。

 内容が想像しやすい、という利点はあったが。

 こういうところで意外性を望んでもな。

 と、タスッタさんも思う。

 今日は奇をてらうことなく、普通においしいもので十分でしょ。

 ああ。

 そういえば、最近ちゃんとしたハンバーグを食べていない気がする。

 メニューの中にはハンバーグを使ったランチセットもいくつか用意されていたが、タスッタさんはこの中からサルサソースとデミハヤシソースを使ったセットを選び、店員さんに声をかけて注文を通す。

 その際、

「ドリンクはどうなさいますか?」

 と確認される。

 このお店ではお客さんたちにフリードリンクを勧めているようだった。

 単価としてはたいした収入になるわけではないのだが、棚に飾られている益子焼きの陶器を使えることが売りらしい。

 せっかくだから、タスッタさんはそのフリードリンクも併せて注文した。

 益子焼きのマグカップにドリンクバーで自分で注いだコーヒーをちびちび啜りながら待つことしばし。

 五分と少し経過した頃に、注文していたランチプレートが出て来た。

「思ったよりも、ハンバーグが主役ではありませんね」

 と、タスッタさんは反射的にそう思ってしまう。

 ハンバーグの上にもサルサソースの火が通ったトマトがゴロゴロ、葉物野菜のサラダやカボチャのサラダなどの盛りがいい。

 ご飯は、白米でははなくいわゆる雑穀米が混ざったタイプだった。

 自然食というか、そっち系の料理であるらしい。

 カフェ飯らしい、小洒落た感じを狙っているらしかった。

 タスッタさんとしては、実食しておいしければそれで文句はなかった。

「野菜がいっぱい摂れるのは、いいですね」

 タスッタさんはそんな風に思いつつ、まずはカボチャのサラダをフォークの先で切り分けて口の中に運ぶ。

 甘い。

 それも、あざとさがない、自然な甘さだ。

 薄切りにして素揚げしたレンコンも一片、そのカボチャサラダに添えられていたので、そちらも食べてみる。

 このレンコンのチップスは、味はあまり強い印象を受けなかったが、しっかりとした食感と歯ごたえが面白いと思った。

 さて、肝心のハンバーグは。

 どんなものでしょうかね、などと思いつつ、タスッタさんはナイフとフォークで切り分けて、口の中に運ぶ。

 ああ、煮込んだハンバーグなんですか。

 熱々の、とろとろ。

 肉汁がいい具合に閉じ込められていて、いかにも洋食っぽいハヤシソースの味も染みている。

 そして、その上にかかったトマトごろごろのサルサソース、特にその酸味がいいアクセントになっていた。

 二種類のソースをわざわざ使うのは、こういうことですか。

 と、タスッタさんは心の底から納得をする。

 食べていて、ほっとする味だった。

 こんもりと半球型に整形されていたご飯も、普通においしく思える。

 適度に粘りがあり、噛みしめるほどに甘さが口の中に広がった。

 変わった料理法をしているわけではない、と思うのですが。

 全般的に、食べていて安心できる味ですね。

 つけ合わせの葉物野菜は、ごく普通のキャベツを主体にしたもので、特筆するべきような内容ではない。

 その葉物野菜のサラダ以外に、小鉢の中に刻んだパプリカの表面にざっと火を通して細切りにしたものも添えられていて、肉厚のこちらも適度に歯ごたえがあっておいしい。

 素朴だけど、いい料理ですね。

 と、タスッタさんは思ってしまう。

 落ち着いたお店の中の雰囲気と合わせて、予想外にいい食事になった。

 とも、思った。


「今年の夏は、なかなか梅雨が明けてくれませんね」

 ゆっくりと時間をかけて食事を済ませ、外に出たタスッタさんは、そんな風に思う。

 外は、小雨がぱらついていた。

 ここ数日、どんよりとした曇り空かこうして降っているのかのどちらかであり、夏らしさを感じない日々が続いている。

 こういう年も、あるのだろうな。

 と、タスッタさんは思う。

 そして一度大きく首を振ってから、タスッタさんはそのお店を後にした。



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