愛媛県 四国中央市。食堂のよくばりランチプレート。
水色を貴重にした外装の、意外に大きなお店だった。
雑貨屋さん?
ですかね。
そのお店に入るまで、タスッタさんはそう思い込んでいる。
伊予三島駅から讃岐街道を少し歩いた、大きなホテルのそばにあるお店だった。
この日はたまたま時間が空いたので、タスッタさんはふらりと中に入ってみる。
壁際の棚に小物や雑貨、衣料などが置いてあり、なんだか雑然とした雰囲気のお店だった。
少なくとも、ぱっと一瞥しただけではなんのお店なのか判然としない。
壁に固定されていた黒板に書かれていた文字を目にして、タスッタさんは軽く首を傾げる。
「食堂?」
そこに書かれた文字列によると、どうやらここは半セルフ式の食堂であるらしかった。
ただ、そこに書かれていた文字はかなり個性的で、ところどころ判別しにくい箇所もある。
この頃にはタスッタさんは日本語に関してもほとんど問題なく読み書きができるようになっていたのだが、あんまり個性的な手書きの文字に関しては、この限りではない。
普段読んでいる日本語はほとんど活字や見やすさを考慮されたフォントになることもあって、癖が強かったり達筆すぎる文字は、読みこなすことができない場合がほとんどだった。
「お食事ですか?」
黒板の前で足を止めたタスッタさんに、店員さんが声をかけてくる。
「ええ、まあ」
タスッタさんは曖昧に答えた。
食堂であることは理解できたが、どんな料理を出すお店なのか、黒板に書かれた内容だけで推し量ることができない。
「どんなお料理があるのですか?」
タスッタさんは丁寧な口調で、その店員さんに訊ねた。
「いろいろやっています」
その店員さんは慇懃な態度で即答した。
「パン屋の日もあるのですが、今日のメニューはこちらになりますね」
そういって、タスッタさんに一枚の紙片を手渡した。
パン屋の日、というのが意味不明だったが、この場では関係がない疑問であり、タスッタさんはそのことをスルーして紙片に目線を落とす。
やはり黒板と同じような癖の強い字で、ごちゃごちゃとした文字が並んでいる。
「ええと、では」
その紙片の中で判別できた内容から、タスッタさんは無難なメニューを指定した。
「この、よくばりランチプレートというのをお願いします」
「前金制になります」
店員さんは、そういってタスッタさんをレジ前に案内する。
「料理ができたらお呼びします」
このお店は、そういうシステムであるらしい。
レジ前で料金を支払った後、タスッタさんは店員さんに訊ねて食べる場所へを教えて貰う。
ちょっと見ではかなりわかりにくかったが、お店の奥まった場所に食堂らしい空間があった。
長テーブルや椅子、ソファなどが並んだ少し広めの部屋で、壁際には本棚がある。
お客さんは、どうやら常連らしい女性二人組しかいなかった。
こういう感じ、ですか。
内心で感心しながら、タスッタさんは空いている席にまず手荷物を置き、コップを手に取ってウォーターサーバーから自分でお冷やを注いで自分の席に戻る。
ふと近くに思いついてあった本棚に手を伸ばし、そこにおいてあった古ぼけた絵本を手に取った。
「ちびくろさんぼ」
表紙に書かれていたタイトルを小声で読みあげ、タスッタさんはその絵本を開いてみる。
絵本だからそんなに痛んでいるようには見えなかったが、かなり古い本であるらしい。
子ども向けの絵本が大半そうであるように、この絵本も文字が少なく、あっという間に読み終えてしまう。
この手の絵本にありがちではあったが、なかなかシュールな内容だと、タスッタさんは思った。
ちょうどその絵本を読み終わったところで、
「よくりランチプレートをご注文のお客様」
と呼び出される。
タスッタさんは手にしていた絵本を本棚に戻してから、カウンターがある場所まで移動した。
そこでよくばりランチプレートが置かれたトレーを受け取り、箸も自分でトレーの上においてから、自分の席に戻る。
予想以上に、品数が多かった。
チキン南蛮とかき揚げ、雑穀米らしいご飯にサラダとスープ、お新香、ひじきなどがついてくる。
品数が多い分、一品あたりの量は少なめに感じたが、一食あたりの量としては、この程度でちょうどいいかな。
などと、タスッタさんは思う。
タスッタさんは箸を取り、まずはスープに口をつける。
飲んで少ししてから辛さをじんわりと感じる、エスニックなスープだった。
こういうお店なのかあ。
と、タスッタさんはその辛さにこのお店の性格を見いだす。
そういえば、他の料理もどことなくちょっと外国風の味つけをしている。
ような、気がする。
タルタルソースがたっぷりとかかったチキン南蛮は、衣の感触と味付けが少し変わっていた。
表面はかりっとしているのだが、適度にもちっとした食感がある衣。
その衣自体にも、味がついているように思う。
少し考えてタスッタさんは、
「中華料理なんかに使う、チキンスープの元を味付けに使っているんですかねえ」
などと推測する。
とにかくその衣と本体である鶏肉との相性は、とてもよかった。
タルタルソース自体がかなり濃い味なのだが、お肉も衣もそのタルタルソースに決して負けていない。
次にタスッタさんは、雑穀米の上にひじきを乗せて食べてみる。
このご飯も。
と、タスッタさんは思う。
なかなか、複雑な。
もっちりとしていて粘りが強い、ご飯だった。
それからもう一度スープで口をすすぎ、タスッタさんはかき揚げに箸を伸ばす。
箸先でかき揚げを一口大に切り分け、まずはなにもつけずに口の中に入れた。
かりっとしたいい揚げ具合であり、ほとんど油っぽく感じない。
桜エビと数種類の野菜を揚げているようだった。
あと、これもなにか香ばしい、いい風味がついている。
おそらく、なんらかの香料を衣に練り込んでいるのだと思うのだが、この香りはなんなんでしょうね。
タスッタさんは内心で疑問に感じながら、食事を続ける。
ん。
このお漬物は、自家製ですかね。
サラダのドレッシング、ちょっと変わった風味で目新しい。
醤油味ベースですが、なんかちょっと香りづけに変わったものをつかっているらしかった。
タスッタさんはその香りがなんなのか、少し思い返してみたが、結局正体はわからなかった。
基本的においしく、そこにちょこっとなにか少し、鼻につかない程度のアレンジを加える、というのが、このお店の方針であるらしい。
いや、いいですね。
食べ進めながら、タスッタさんはそんなことを思う。
奇をてらっているだけかと思いましたが、個性的な工夫やアレンジがちゃんと結果に結びついている。
なんだかいろいろな面で、地に足が着いているように感じた。
住んでいる近くにこんなお店があって、気軽に立ち寄れると、いいですね。
などと、タスッタさんはそんなことを思う。
ほんの少しだけ、生活が楽しくなる気がする。
室内を見渡すと、どうもこのお店は食事だけではなく、お茶やケーキ、焼き菓子なども扱っているようだった。
持ち帰りにも、対応しているらしい。
飲食店があまりないこのあたりでは、なかなか貴重なお店なのではないか。
タスッタさんは、そんな風にも思った。
よくばりランチプレートを完食したタスッタさんは、店員さんに目礼をしてからそのお店を後にする。
満腹になったことも手伝って、かなり満たされた気分だった。
なかなか、面白いお店でしたね。
と、タスッタさんは結論する。
料理の味がよかったのはもちろんでしたが、予想外の死角から攻めてくるような奇抜さもあった。
こういう個性的なお店が増えるといいのですけど。
そんなことを考えつつ、タスッタさんは次の目的地を目指す。




