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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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158/180

秋田県男鹿市。郷土料理屋の石焼き定食。

 この時期の男鹿半島は、流石に寒かった。

 海に面していると冷たい浜風がそのまま体にぶつかってくるわけで、たとえ雪が降っていなくても、これはもうかなり寒い。

 自分の肘を抱きながらタスッタさんは、そんな吹きさらしの場所に来ている。

 なぜかといえば、そこにおいしい料理を出すお店があるからだった。

「この近くだと、聞いたんですけどね」

 タスッタさんは海沿いの道を歩きながら、そんなことを呟く。

 地元の人に聞いた「よさそうなお店」を訪ねている途中になる。

 そろそろ正午になるはずだったが、この日の男鹿半島はどんよりとした厚い雲に覆われて風が冷たかった。

 しばらく歩き続けると、タスッタさんの視界に、

「秋田の味 元祖石焼き」

 と書かれた看板が入ってくる。

 ほかのそれらしい建物も見当たらないので、おそらくはここが目的地なのだろう。

 地方にありがちな、かなり広めの駐車場を備えた平屋建ての店構えで、ここまで徒歩でやってくるのはタスッタさんくらいなものかも知れない。


 広めの駐車場をとぼとぼと横断し、ようやくお店に着く。

 時間的には開店してからまだ間もないはずであったが、お店の中はすでに半分以上、席が埋まっていた。

 簡素な食堂、といった内装で、特別に特徴があるわけではなかったが、清潔で居心地がよさそうな空間だった。

 お店に入るとすぐに店員さんがやって来て、タスッタさんに予約の有無を確認してくる。

 タスッタさんは名乗ってから、

「一名で予約を入れているはずですが」

 とつけ加え、そのまま奥へと通された。

 かなりの人気店であるらしく、特に人数が多い場合は事前に予約を入れてないとまず入れないと、タスッタさんは教えられていれていた。

 だから昨夜の内に予約を入れていたわけだが、店員さんはたった一名でここまで来たタスッタさんのことを不審にも思わず、そのまま席まで案内をしてくれる。

 タスッタさんが案内をされたのは、テーブル席だった。

 四人以上は座れるテーブルをたった一人で占有している形になるが、いずれは相席になるかも知れない。

 タスッタさんは店員さんがお冷やを持ってくる前にメニューを確認する。

 このお店は品数をかなり絞っているので、ざっと一瞥するだけで全容を知ることになった。

 予定通りでいいですね。

 と、タスッタさんは考える。

 ここまで来て、どこででも同じような物が食べられる漬け丼だけを食べて帰るのも、むなしい。

 お冷やを持ってきた店員さんに対してタスッタさんは、

「石焼き定食を」

 とのみ告げる。

 石焼き定食。

 元は漁師料理で、真っ赤に焼けた石を鍋の中に放り込んで加熱する、独特な料理法だという。

 一気にお湯の温度があがるので、素材の旨味を逃がしにくいとか説明されたが、それがどこまで本当なのか、タスッタさんには判断できない。

 この付近ではその石焼きが盛んだそうで、このお店もその石焼きを売りにしている一軒になる。

 このお店で扱っているのは、真鯛だそうで、これを石焼きにするとかなりおいしいと、そう聞いていた。


 待つほどもなく、石焼き定食はすぐにやって来た。

 鍋ではなく木桶に張ったお湯やぐらぐらと煮えたっていることに、まず強い印象を受ける。

 ここまで煮立てなくてもいいだろうに、と思わないでもないのだが、これくらいしないと出ない旨味なんかもあるのかも知れない。

 そのお鍋と真鯛の刺身、それに生わかめがセットになった定食だった。

 香りが、いい。

 前の前に出された料理を前にして、タスッタさんはそう思う。

 濃厚な、磯の香りだ。

 タスッタさんはまず木桶の中の煮えたぎった汁を小皿に移して、一口啜ってみる。

 熱々で、そして予想よりもしょっぱくない。

 塩味は控えめで、そのかわりに魚のあらの風味が強い。

 ああ。

 と、タスッタさんは、素直に思う。

 これは、いい味だ。

 ここまで濃厚な魚のスープは、滅多に味わえるものではない。

 鯛の旨味がそのまま溶け込んで凝縮されたのかと、そんな風に思える風味だった。

 これも、石焼きという調理法のおかげなんですかねえ。

 タスッタさんは、臓腑に染み渡るようなそのスープを内臓で味わいながら、そんな風に思う。

 風味もよかったが、今日のような寒い日には、熱々のスープをいただけるのがありがたかった。

 続いてタスッタさんは、お刺身に箸を伸ばす。

 かなり厚めに切られたお刺身をわさび醤油をちょっとだけつけて、口の中に入れる。

 噛むたびに、しっかりと押し返す強い弾力がある。

 ぷりっぷり。

 と、タスッタさんは感心をする。

 余計な味がついておらず、シンプルに、鯛だけの味で勝負している。

 新鮮、なんだろうな。

 と、タスッタさんは思う。

 噛めば噛むほど、甘い。

 わさび醤油との組み合わせが、もう最高だった。

 このお刺身だけでも、十分に満足ができる。

 そんな風に思いながらも、タスッタさんは生わかめに箸を伸ばす。

 ただこの小鉢には、特に感銘を受ける部分がなかった。

 箸休めとしては、これもありかな。

 程度の感慨しか抱けない。

 このスープと、それにお刺身、ですよね。

 タスッタさんは汗をかきながら、食べ進めていく。

 鯛をまるごと、余すところなく使い切った料理だった。

 ご飯一杯を食べきったところで、店員さんがやって来て、鯛茶漬けを作ってくれる。

 ご飯の上に鯛のお刺身を乗せて、その上に石焼きのスープをなみなみと注ぐ。

 タスッタさんはこの時点ですでにかなり満腹感を得ていたのにも関わらず、するりと食べることができた。

 鯛とは、こんな味をしていたんだ。

 と、タスッタさんは思う。

 スープ単独でいただくよりも、こうしてご飯にかけて食べる方が、スープの味が引き立つかも知れない。

 スープがかかって表面だけ少し加熱されたお刺身も、食感が変わっていて、新鮮に感じた。

 おいしいのはもちろんだったが、それ以外にも、最後にダメ押しをしてくる満腹感がある。

 いいなあ、これ。

 と、タスッタさんは思う。

 冬は、こういう体の中から温まる料理が好ましい。

 なんというか、舌だけではなく、体全体が喜んでいるような気がした。

 


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