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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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156/180

滋賀県彦根市。市場食堂の海鮮丼。

 今日は、少し寒さが緩んでいますかねえ。

 道を歩きながら、タスッタさんはそんな風に思う。

 タスッタさんは今、近くにある市場へと向かっていた。

 その市場の中に、よさそうな食堂があると地元の人から聞いたからだ。

 外から見るとお店の存在がなかなかわからないので、知る人ぞ知る的なお店であるらしい。

 ただ、そんなに大きなお店でもないので、曜日や時間帯によっては順番待ちになることも多いようだ。

 この辺は、人気店にはありがちなことであり、タスッタさんは特に気にとめていなかった。

 平日の、お昼時を外した時間帯ならば、特に問題はないだろうとも思っている。

 回転寿司チェーン店の横を通り過ぎ、タスッタさんは市場へと進む。

 野菜と海産物の市場、であるようだ。

 ただ、ここは滋賀県。

 日本にいくつかある「海が存在しない県」のひとつである。

 とはいっても。

「今は冷凍技術が進んでいますからね」

 と、タスッタさんは思う。

 よほど足が速い魚でない限り、日本中どこにいっても同じような鮮度のものが手に入るはずだった。

 現にタスッタさん自身も、これまでに「新鮮でないせいで、おいしくなかった」という経験は数えるほどしかしていない。


 総合卸売市場の場所は、割合わかりやすかった。

 敷地が広かったし、その市場に出入りをする車が意外に多かったので、歩道からでもその流れを追うことが出来る。

 さらにいえば、周囲には他になにも特別な施設がないことも手伝って、タスッタさんのような土地勘がない人間でも迷わずに目的地にたどり着けた。

 駐車場が広いな、というのが、市場に到着した時の、タスッタさんの印象だ。

 その駐車場は、三分の一ほどしか埋まっていない。

 時間帯のせいかな?

 とも思ったが、普段からこんな調子なのかも知れなかった。

 タスッタさんは案内図のところで一度足を止め、中にあるという食堂の場所を確認してからさらに進む。

 案外、関係者以外の人間も自由に出入りが出来る市場は多い。

 この総合卸売市場も、そのうちのひとつであるらしかった。

 本来の機能である市場の方へは寄らず、タスッタさんは目的の食堂へと目指す。

 市場の中は案外広く、タスッタさんが漠然と予想していたよりも歩くことになった。

 建物の入口の脇に食堂の大きな看板があり、かなり遠くからでもそれが目に入る。

 場所さえ知っていれば、迷うことはない。

 その建物に向かって、タスッタさんはずんずん進んでいく。


 建物の中は案外広くて明るく、そして目的地である食堂の場所はすぐにわかった。

 青い支柱と梁が印象的で、そのところどころに看板が出ていたので見過ごすこともない。

 入口のすぐ外にパイプ椅子がいくつも置かれていて、このお店では順番待ちのお客さんが出るのが珍しいことではないことが確認できた。

 幸いなことに、この日は誰も行列を作っていない。

 開店時間から、まだいくらも経っていないせいもあるのだろうが。

 タスッタさんはその入口を潜って、お店の中に入った。

 店員さんがすぐに気づいて、

「お好きな席にどうぞ」

 といってくれたので、そのままカウンター席へと向かう。

 まだ時間が早いせいもあってか、店内はかなり閑散としていた。

 お客さんは、タスッタさん自身を除けば何組か、数えるほどしかいない。

 カウンター席に座ったタスッタさんは卓上に置かれたメニューを開いてざっと目を通し、そしてすぐにお冷やを持ってきた店員さんに向かって、

「海鮮丼をください」

 と注文をした。

 この食堂のことを教えた人も海鮮丼を勧めていたし、それにお店の外に出ている看板にかなり大きめの海鮮丼のイラストが貼られている。

 このお店の売りは、その海鮮丼らしい。


「わあ」

 出て来た料理を見て、タスッタさんは小さく歓声をあげた。

 器のうえにお刺身がぎっしりと並べられ、その上にしその葉といくら、ウニまでも乗っている。

 一見小さそうに見えて、かなりバランスがいい盛りだった。

 タスッタさんは箸を取ってまずは味噌汁を啜って喉を潤し、まずは上に乗っていたエビを食べてみる。

 プリプリとした歯ごたえの、いいエビに思えた。

 というか、こういうのはもう。

「どこで食べても、あまり変わらないような気がしますね」

 よほど新鮮さを売りにしている場所でなければ、大同小異という気がする。

 しその葉の上に乗っていたわさびを小皿に移して醤油で溶き、赤身の刺身を器の上から一度除け、小皿の上のわさび醤油に少しつけてから、いただく。

 マグロだ。

 これも、脂が乗ったいい品だった。

 タスッタさんは次に、いくらに箸をつける。

 すっと箸先で持ちあげて口の中に入れると、塩の味がする濃厚な、ねっとりとした液体が腔内に広がる。

 これも、かなりの上物。

 と、タスッタさんは判断する。

 このいくらばかりを山盛りにして出すようなお店もあり、あれはあれでいいとは思うけど、ここの海鮮丼のように控えめな量でしっかりとした品質の物を味わうのもまたよし。

 続いて食べてみたウニも、やはり量こそ控えめであったものの、かなりおいしい。

 端的にいって、どの素材を食べてみても外れがない海鮮丼だった。

 その分、これといった特色がないともいえるのだが、タスッタさんとしては食べておいしければそれでいい。

 ときおり味噌汁を啜りながら、タスッタさんはゆっくりと海鮮丼を味わう。

 ひとつひとつのタネを吟味するように丁寧に味わいながら、黙々と食べ続けた。

 海がない場所の、海鮮丼。

 それでも、これはかなりおいしいのではないか。

 流石に港町で取れたての魚を食べるような新鮮さこそないわけだが、むしろこうした場所でもこれだけの海鮮丼が普通に味わえることの方が、タスッタさんにしてみれば驚きといえる。

 特別なご馳走というわけではなく、日常的な食事としては、これでもかなりおいしいように思えた。


「おいしかった」

 そう思いながらタスッタさんは会計を済ませ、その食堂を後にする。

 普通の食事が、普通においしい。

 これはかなり、幸福なことですよね。

 と、タスッタさんは思う。

 この国では、それが当たり前なのかも知れないが。

 全般に、この国の食の水準は高い。

 とも、タスッタさんは思った。

 あまり高価ではない、日常的な食事が予想外においしかったりするのだ。

 今日の海鮮丼も、そんな料理のうちのひとつ、なんでしょうね。

 と、タスッタさんは、そんなことを思う。




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