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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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154/180

茨城県日立市。イタリアンレストランの巨大沖シジミのボンゴレ・ロッソ。

「せっかく海に近い場所に来たのですから、海産物を食べたいですねえ」

 タスッタさんはそう思い、しばらく周辺を歩いてみたが、よさそうなお店はなかなか見つからなかった。

 その日は冬晴れで、空は高いが風も冷たい。

 あまり長く歩きたい気候でもないのだが、いかにも郊外の町らしく飲食店は限られているようだ。

 それに、まだ正月気分が抜けきらないこの時期、まともに営業しているお店が少ないということもある。

 観光地とか繁華街など、普段から人通りの多い場所ならばともかく、普通の住宅街やオフィス街などはこんなものなのかも知れない。

「どうしましょうか」

 などと思いつつ、タスッタさんはずんずんと歩き続ける。

 基本的に、タスッタさんは歩くことが嫌いではない。

 どうせ散策をするのならば町中よりももっと緑が多い場所の方を好んだが、どちらにしても歩くこと自体を苦にはしていなかった。


 日立駅から五分以上は歩いただろうか。

 大きめのスーパーに隣接した場所に、飲食店が密集しているのを発見した。

 買い物客が立ち寄ることを前提にしているのだろうな、と、タスッタさんは推測する。

 チェーン展開をしているカフェとか中華料理屋など、日本中どこにいっても見ることが出来るようなお店ばかりだ。

 まだ年が明けてから日数が経っていないせいか、四、五軒あるお店のうち、半分くらいがシャッターを閉ざしている。

「ん」

 その一角の中で、一軒だけタスッタさんの視線を引きつけたお店があった。

 三色のイタリア国旗を高々と掲げた、小さいけど風格のある外観のお店。

 おそらくは、個人営業のイタリアンレストランだ。

 だとすれば。

 タスッタさんは遠目に見えるお店について、そう想像をする。

 地元の海産物も使っているはずですよね。

 イタリアンは和食と並んで、海の幸をうまく使う。

 タスッタさんはそのまま、そのお店へと向かう。


 店内は時節柄か家族連れが多かった。

 お客さんはかなり入っていたが、完全に満席ということもなく、お店に入ったタスッタさんに近づき声をかけてきた店員さんに一人客であることを告げると、すぐにテーブル席へと案内される。

 そのテーブルは前のお客さんが帰ったばかりらしくまだ食器類が残っていたが、タスッタさんを席に案内した店員さんがそのままテーブル上の食器を下げて、すぐにお冷やを持って戻ってきた。

 タスッタさんはテーブルの上に置かれていたメニューを開きつつ、さりげなく店内の様子を伺った。

 いい意味で、ファミリー向け、なのかな。

 家族連れがほとんどだったが、それ以外には女性客が多いようだった。

 平日になるとまた客層が違い、雰囲気も違ったものになるのかも知れなかったが。

 いい意味で気さくなお店、なんでしょうね。

 と、タスッタさんは思う。

 今の店内もなかなか賑やかだったが、この場にいて嫌な気分にはならない。

 タスッタさんは開いたメニューに目を落とす。

 ピザやパスタなどは、基本的に二人前から、か。

 一人前のものも用意しているが、多人数で取り分ける大皿料理がこのお店の基本であるらしい。

 中華とかイタリアンのお店には、ありがちですよね。

 と、タスッタさんは思う。

 タスッタさんにしてみれば、今この場で一人前で注文できるのであればそれで問題はない。

 あ。

 と、タスッタさんは思った。

 ランチセットがありますね。

 メインの料理と、それにサラダと飲み物がついて、千円前後。

 お手軽といえば、お手軽か。

 このお店が出す料理のグレードによって、お値打ち感は変動するような気もしますが。

 メニューに載っている写真を見る限り、料理についてもそれほど心配をする必要もないような気がする。

 さて、なにを食べましょうかね。

 タスッタさんはいよいよ本格的に頼むべき料理を物色にかかる。

 ピザかパスタか、そのどちらかといったら、パスタでしょうね。

 と、タスッタさんは考える。

 今のタスッタさんは海産物を食べたい気分であり、ピザはどうしても上に乗っている具よりも生地の方が主役になりがちでもある。

 それ自体が悪いとは思わないが、今味わいたいのはいかにも海産物らしいなにかなのだ。

 他にも多種多様な料理がメニューには記載されていたが、そのほとんどはディナー用の料理であり、この時間帯に気軽に食べられるものとなるとだいたいピザかパスタに限定をされる。

 パスタ、ですよねえ、ここは。

 タスッタさんは、そう思う。

 どれにしましょうか。

 そうして視線を動かしていたタスッタさんは、メニューのある箇所で目線を止める。

 巨大沖シジミ。

 シジミは、わかる。

 沖シジミも、想像は出来る。

 そこに巨大という言葉が着くと、なんだか特別感が出てくる。

 巨大なのかあ。

 と、タスッタさんは思う。

 実際、メニューの写真を見ても、そのシジミの貝殻はかなり大きく見えた。

 直径、という言葉を使うのは円形ではない貝殻の場合は適切ではないのだろうが、とにかく貝殻の中心軸の長さが十センチくらいはあるように見える。

 写真では、ということだが。

 タスッタさんは店員さんを呼んで、その巨大沖シジミのボンゴレ・ロッソのランチセットを頼んでみた。


 なるほど、大きい。

 十分ほど待たされてから出て来た料理の実物を見て、タスッタさんは感心する。

 メニューに記載をされていた写真は、特別に大きなシジミを使用していたわけではなかったようだ。

 目の前の現物も、メニューの写真に負けず劣らず大きい。

 うん。

 タスッタさんは一度頷いてからナイフとフォークを手に取り、まずは貝殻の中にあるシジミの身を取って食べてみた。

 噛むたびに、じんわりとシジミの味がしみ出してくる。

 しっかりとした食感と、それに旨味。

 大粒であるからといって、大味にはならない。

 これは、いいシジミですねえ。

 心の中でタスッタさんは、大きく頷いた。

 このシジミだけでも、食べる価値がある。

 それから、殻になった貝殻を取り皿に出して、タスッタさんはパスタにフォークを刺して絡め取った。

 トマトソースで赤く染まったパスタは若干、細めに見える。

 そして口に入れてみると、芯にだけ固さが残って他の部分は十分に柔らかくなった、絶妙なゆで加減だった。

 アルデンテアルデンテアルデンテ。

 タスッタさんは頭の中でなんでか三回も同じ文句を繰り返してしまう。

 トマトをベースにしたソースも、シジミの旨味が十分に溶け込んでいて、素直においしい。

 最初に見たときにはパスタの量が多過ぎるように見えたが、この味ならばいくらでも食べられる気がしますねえ。

 などと、タスッタさんは思う。

 一見してもボリュームがないように思えて、パスタ類は食べていると途中から急にお腹にずしりと来るから注意が必要だったが、そう思うくらいにはおいしかった。

 タスッタさんはその後も、大きなシジミとパスタとを交互に、黙々と食べ続けた。

 おいしい貝類とうまく調理されたパスタには魔力が籠もっている。

 そんな気がした。


 サラダと、それに食後にデミカップで出て来た濃い目のコーヒーまで堪能をして、タスッタさんはようやく息をついた。

 新年から、いいお食事でした。

 と、タスッタさんはそう思う。

 無心に、食べることのみに集中できる時間とは、なんと贅沢なことか。

 会計を済ませてお店の外に出ると、外は相変わらずよく晴れていて、しかし風は冷たい。

 冬の寒さは、まだまだこれからが本番ですよね。

 と、タスッタさんはそんなことを思う。

 今年一年も、これまで通りにマイペースでやっていきましょう。



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