大阪府豊中市。カレー屋の石焼十六穀米野菜カレー。
宝塚線庄内駅の東口を降り、いくらも歩かないうちにふわっとかなり強い香辛料の香りが漂ってきた。
ああ。
そして周囲をざっと見渡すと、すぐに視界の中にカレー屋さんのお店が入った。
目立つ位置にある看板には、
「めちゃおいしいカレー屋さん」
と自己紹介されている。
そうか。
と、タスッタさんは思う。
単純に、
「おいしい」
のではなく、
「めちゃおいしい」
カレー屋さんなのか。
それでは、入らないわけにはいきませんねえ。
などと思いつつ、タスッタさんはそのまま吸い込まれるようにそのお店に入っていく。
テーブルがいくつかと、それにカウンター席しかないお店だった。
規模としてはさほど大きくはないのだが、白を基調とした内装の店内はかなり清潔で、手入れが行き届いている印象を受ける。
十二時をいくらか過ぎた時間だというのに、お客さんはテーブル席の二組だけ。
これから混む、ということなんですかね。
などと思いつつ、タスッタさんはカウンターの中にいた店員さんに一人客であることを告げる。
すぐに、
「カウンターの空いている席にどうぞ」
といわれ、そのまま一番入口に近い席に腰掛けた。
どうやらこのお店は、少なくとも今日は、この店員さん一人で回しているようだ。
カレーの専門店ならば、可能なのかなあ。
などと思いつつ、タスッタさんはメニューを開く。
当たり前だがカツカレー、エビフライカレーなど、トッピングで差別化をしているが、カレーばかりが記載されていた。
それだけ、調理の手間も簡便化されているのだろう。
ざっとメニューの中身を点検しているタスッタさんの視線が、ある箇所で止まる。
「石焼、ですか」
石焼十六穀米野菜カレー。
ビビンバかなにかのように、カレーで石焼き鍋を使うお店は、あまりないような。
少なくとも、タスッタさんはこれまでに経験していない。
残りのメニューにもざっと目を通した後、タスッタさんはその石焼十六穀米野菜カレーを注文する。
これ以上に、タスッタさんの好奇心を刺激する料理がなかったからだ。
それに、この店内に漂う香りから、ここのお店が丁寧な仕事をしていることは容易に推察ができた。
カレーは香りが占めるウェイトが多い料理であるから、どれを食べても標準以上においしいと思う。
だとすれば、多少なりとも目新しい、好奇心を刺激する、あるいは、他ではちょっと見ないような料理を選択するのが当然だった。
料理が出てくるのを待つ間に、どんどん新しいお客さんが入ってくる。
やっぱり、流行っているお店なんですね。
と、タスッタさんは思う。
タスッタさんが入った時は、たまたま空いていたのだろう。
ほぼ満席に近い状態になった頃、タスッタさんの前にジュウジュウと音を立てた石鍋が置かれた。
熱々の石鍋に当たっている部分のルゥが、そのまま焦げていく香りまでリアルタイムで漂ってくる。
それ以外に、見た目が。
「お野菜が、いっぱい」
と、タスッタさんは思う。
薄切りのサツマイモ、レンコン、ブロッコリー、ニンジン、オクラなど。
焼いたり揚げたりした野菜が、鍋の上を埋め尽くさんばかりに配置されていた。
それこそ、その下にあるルゥが見えなくなるほどに。
野菜カレーという名前は、伊達ではないということですか。
まず表面の野菜をどかすか食べるかしないと、その下にあるカレーを食べることができない。
そういう構造になっていた。
タスッタさんはスプーンを取り、まず大きな面積を専有しているブロッコリーをスプーンの上に乗せて、一口囓る。
ゆであがったブロッコリーは適度に歯ごたえがある。
火の通し方が、ちょうどいい。
それから、これはざっと焼いたらしい薄切りのサツマイモも食べてから、ようやくカレーをいただく。
ルゥとご飯をいっしょに掬って、そのまま口の中にいれる。
石鍋のおかげで、ルゥもご飯も熱々だった。
はふはふいいながらよく噛むと、じんわりとルゥの辛さとご飯の甘さが口の中で混ざる。
このお店のルゥは、欧州だがさらさら系で、粘り気が少ない。
そして、辛さは控えめであり、その割には香りが複雑で、奥行きがある。
かなり研究していなければ、この味と香りは出せませんね。
と、タスッタさんは思う。
ご飯の一部分、石鍋に直接当たる部分の水気が抜けはじめていて、おこげになる直前といった状態だった。
これはこれで。
と、タスッタさんは思う。
食感に変化が出て、いいですよね。
表面の野菜が少しなくなったため、それ以降はカレーの上に野菜を乗せた状態で食べる。
野菜はどれも丁寧に調理されており、単体でもかなりおいしく思えた。
それをカレーといっしょに食べてみると、単体とはまた別の味わいが出てくる。
これは、楽しいですね。
と、タスッタさんは思う。
味や香りだけではなく、食感、噛み応えなども具材によりかなり変化していて、飽きない。
石鍋という、目立つギミックだけに頼ったような、そんな惰弱な料理などではなく、かなり工夫された一品に思えた。
これだけおいしいカレーをいただいたのも、かなりひさしぶりなような。
額に浮かんだ汗を時折ハンカチで拭いながら、タスッタさんは黙々と食べ続ける。
変化球ではなく、直球。
それも、かなりの剛速球だった。
ストロングスタイルだなあ。
と、タスッタさんは思う。
ごまかしがなく、料理そのもので勝負している。
完食後、タスッタさんはかなりの満足感に浸りながらお店を後にする。
外の空気はかなり冷たく、この冬もかなり寒さが厳しくなっていることを実感させた。
こういう日は、辛い物を食べて汗をかくのが、ちょうどいい。
タスッタさんは、そんなことを思う。




