神奈川県南足柄市。洋食屋の日替わりランチセット。
寒いけど、すっきりと晴れている。
そんな天気だった。
ここ数日、はっきりしない天気が続いていたので、外を歩いているとそれなりに気持ちがいい。
今日のタスッタさんは、神奈川県の南足柄市という場所に来ていた。
神奈川県、といってもかなり広いのだが、そのうちのかなり静岡寄りの場所になる。
ここでの用事も無事に終わり、時刻を確認すると昼をいくらか過ぎた頃だった。
ランチタイムを半分ほど過ぎたところ、ですか。
と、タスッタさんは思う。
経験的にいって、どこかのお店に入って食事をするのには、微妙な時間といえる。
この辺は特にオフィス街でも繁華街でもないので、混雑のピークは過ぎている、とは思うのだが。
そのかわり、飲食店は少なそうだな、とも思った。
タスッタさんが心配するまでもなく、少し歩いたところで良さそうなお店を見かけた。
ホテルの一階に、洋食やさんらしい看板が出ている。
こぢんまりとした、可愛い感じのお店だった。
看板が白地に赤を主体とした明るい色使いで、これもまた、どことなく可愛い。
ここに入ってみますかね。
と、タスッタさんは思う。
お店の中に入ると、テーブル席がいくつかとそれにカウンター席があるだけの手頃なお店で、お客さんは半分くらいの入りだった。
どうやら、地元の常連さんが多いタイプのお店であるらしい。
女性の店員さんに一人客であることを告げると、そのままカウンター席を勧められる。
カウンター席に座ったタスッタさんは、メニューを開く前に案内してくれた店員さんに向かって、
「お勧めとか、ありますか?」
と訊ねてみる。
「日替わりのランチセットになりますね」
お冷やをカウンターの上に置きながら、店員さんが即答する。
「今日の日替わりはなんですか?」
「クリームハンバーグとポークカツ卵になります」
うむ。
と、タスッタさんは少し考える。
二品、ということは、一品あたりのサイズは小さめなのだろうが、それなりにボリュームはあるだろうな。
食べきれるかな、と疑問に思いつつも、タスッタさんはその日替わりランチセットを頼んでみることにした。
食事を終えたお客さんたちがぼちぼち帰りはじめ、だんだんと店内が寂しくなっていく。
時間的に、そうなるでしょうね。
と、タスッタさんは考える。
ふと時刻を確認すると、もう一時近くになっていた。
変則的なシフトではないお勤めの人たちは、そろそろ昼休みが終わる時間だ。
店内のお客さんがほとんど帰った後、タスッタさんが頼んだ日替わりランチセットが出てくる。
ご飯とお味噌汁、それにクリームハンバーグと付け合わせの野菜がお皿に乗った物がまずカウンターの上に置かれた。
これだけでも十分、一食分になるんじゃ?
と、タスッタさんは思う。
クリームハンバーグのサイズが、想像していたよりも少し大きめだった。
それに、見たところ、お味噌汁も具だくさんでかなり食べ甲斐がありそうだった。
この上、あと一皿来るのですか。
タスッタさんは、そんな風に思いつつ、とりあえず食べはじめる。
洋食屋さんだったが箸もカウンター上に置かれていたので、それを持ってまずはお味噌汁を啜る。
具が多いだけではなく、出汁もよく利いた、じんわりとおいしさがにじみ出すような味だった。
鰹節と、それに、アサリ……かなぁ?
確証は持てなかったが、なんとかく貝類で出汁を取っているように感じた。
いずれにせよ、見た目の素朴さから想像するよりは、遙かに手が込んでいるように思う。
クリームハンバーグを箸で割って、口の中に入れてみる。
あんまりお肉が主張をするタイプのハンバーグではなく、わざと荒く刻まれたタマネギの甘さと食感が印象に残るハンバーグだった。
家庭料理的、というか。
うん。
と、タスッタさんは心の中で頷く。
肉料理を期待しすぎると、少し失望するかも知れませんが。
これはこれで、十分においしい。
ご飯は、少し固めの炊き上がりで、しっかりとした歯ごたえがある。
今のところ、つけ合わせの野菜まで含めて、どうやらこのお店の中で手作りしているように見えた。
そこまで食べたところで、もう一皿、ポークカツ玉子とじがやってくる。
見たところ、カツ丼の上に乗っている物、そのままがお皿に乗ってやってきたような印象だった。
箸で一切れをつまんで口の中に入れてみると、揚げたての衣に半熟の玉子とひれに醤油ベースの汁とがよくしみこんでいて、これもまた普通においしい。
ご飯に合いそうな。
そう思ったタスッタさんは、カツの玉子とじをご飯の上に乗せて、いっしょにいただく。
咀嚼をしながらタスッタさんは、
「やっぱり、カツ丼」
と、そう確信した。
いや、どれもおいしいんですけどね。
と、タスッタさんは思う。
カツ丼とクリームハンバーグを一度にいただける、というのも、少し気前がよすぎるんじゃないでしょうか。
タスッタさんはいつもよりも気持ちゆっくりめに、咀嚼をする回数を増やすように意識しながら、食べ続ける。
つけ合わせの野菜はブロッコリーとニンジンをゆでたもので、これもまたじんわりと優しい味がした。
ちょっと濃いめのハンバーグとカツの玉子とじとの合間に食べる物としては、これくらい個性がない物の方がありがたい。
そして、ご飯。
うん。
と、タスッタさんは、心の中で頷く。
これだけ濃い味の合間に食べる物として、白いご飯もかなりありがたい。
なんだかんだいいながら、タスッタさんは少し時間をかけて、そのランチセットを完食した。
レジで勘定を済ませ、そこでそのランチセットが想像していたよりも安かったことにタスッタさんは気づく。
税込みで、八百五十円、ですか。
この日、タスッタさんは値段を確認せずにランチセットを頼んだわけだが、この内容ならばてっきり千円をいくらか超えているはずと思い込んでいた。
手作りで、これだけボリュームがあって、この値段設定。
チェーン店でもないらしいのに、それで経営がなりたつんでしょうか。
などと、勘定を済ませながらタスッタさんは余計な心配をしてしまう。
お店は小さいながらも、あるいは別のところで収入を得ているのかも知れないな、と、タスッタさんはそんなことを思った。
いずれにせよ、職場や家の近くにあれば、通いたくなるお店であることには違いない。
そんなことを思いつつ、タスッタさんはそのお店を後にする。




