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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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新潟県佐渡市。土産物屋併設レストランのブリカツ丼セット。

 佐渡汽船のエントランス、つまりは船着き場と直結している土産屋さんがある。

 この島を訪れるほとんどの観光客が立ち寄ることになる場所であり、タスッタさんが予想していた通りにそれなりに混み合っていた。

 連休の時期などは、もっと人が多くなるんだろうな。

 と、タスッタさんは漠然と想像をする。

 この数日雨続きで、この日はたまたま長雨の谷間でよく晴れていたが暦の上では週末前の平日であり、観光客もそれだけ少なくなる。

 特に、家族連れの姿をほとんど見掛けず、そのかわりに中高年の団体客が多い。

 船便が着くたびに、どっと増えるような印象があった。

 もっとも、増える一方ではなく、バスなどに乗って一気に消えていく人も多いので、このエントランスと直結している土産物屋さんの中にいる人数はどうも時間によって波があるようだ。

 タスッタさんがそんな観察をするに至ったのも、この島での所用が想定よりも早く終わり、少し早めにここに着いたためだった。

 タスッタさんが帰りに瓶として切符を確保していた船はまだ当分この島には着かず、タスッタさんはこの近辺をうろうろしながらもう長い時間を潰している。

 基本的にこうした場所は、「通過をする場所」として設計されており、長い時間を過ごせるような施設がほとんどない。

 休憩所の役割を果たす場所も、まるっきりないわけではないのだが、そちらも人の出入りが激しくて気分的に落ち着かなかった。

 そこで、タスッタさんはこの建物の中をぶらついて、もうかなり長い時間を潰していることになる。

 一階が土産物屋さん、二階が団体客用のレストラン、三階が、外来者用のレストラン。

 レストラン、といってもこういう場所の飲食店であるから、ラーメンからカレーまでジャンルに拘らずに出すような、「レストラン」というよりは「食堂」と呼んだ方がしっくりと来るような、気安い雰囲気のお店になる。

 また団体客がどっと一気に減ったのを確認して、タスッタさんは少し思案をする。

 また混みはじめないうちに、三階のレストランに入ってみましょうか。

 フェリーが着けば増えるのは団体客ばかりではなく、タスッタさんのような個人客もどっと多くなる。

 この、人が引いた谷間の時間帯に、さっと食事を済ませておくのはいい考えに思えた。


 三階のレストランに入ったタスッタさんは、周囲をさりげなく見渡す。

 予想よりも広く、そして清潔な感じだった。

 谷間の時間であるためか、お客さんの入りは少ない。

 ざっと見たところ、三割ほどの席が埋まっているくらいだった。

 その多くはないお客さんたちも、大半が慌ただしく食事を済ませてさっと去って行くように見えた。

 これからの予定が詰まっているから、急いでいる人が多いのかな。

 と、タスッタさんは予想をする。

 船から降りてすぐに入れるお店だから、それだけ便利ではあるのだが、そのかわりこのお店を目当てに来るようなお客さんも少ないのだろうな。

 と、タスッタさんは想像をする。

 かくいうタスッタさんも、このお店の味にはあまり期待をしていなかった。

 佐渡の新鮮な魚介類などは、昨夜までの段階で、もっとちゃんとしたお店でたっぷりと堪能してもいる。

 さて。

 と、タスッタさんはメニューを開いてそう思った。

 ここでは、なにを頼みましょうかね。

 お刺身や海鮮丼など、魚介類をこのお店で頼むつもりはなかった。

 そうした素材が命の料理は、もっとちゃんとしたお店でたっぷりと頂いてきたからである。

 なにより。

 ここでは、少しジャンクな食べ物を頂きたいですね。

 と、タスッタさんは考える。

 そんなことを思いつつ、メーニューに視線を走らせたタスッタさんの目に、ある文字列が引っかかった。

「ブリカツ丼、ですか」

 タスッタさんは、小さく呟く。

 他では見たことがないメニューだった。

 この地元にしかない料理なのか、それとも最近になって出回るようになった料理なのだろう。

 そもそもブリを揚げてカツにする、という発想は、他ではあまり見ないように思う。

 ちょうどいいですね。

 と、タスッタさんは即断する。

 そういう、揚げ物のようなちょっとジャンクな食べ物が欲しいと思っていたところでもあった。

 タスッタさんは店員さんに声をかけて、ブリカツ丼を注文する。


 ブリカツ丼は十分もかからずにタスッタさんの前に出て来た。

 なにげにお客さんの出入りが激しいお店だから、ほとんどの料理はさっと作れるように下ごしらえが済んでいるんでしょうね。

 とか、タスッタさんは想像をする。

 トレーに乗っているのは主役であるブリカツ丼のどんぶり、それに具だくさんの味噌汁と、小さなお皿に盛ったイカ素麺らしい料理、それにデザートらしい小鉢がついている。

 どうやらブリカツ丼をここで頼むと、単品料理ではなく自動的にこういうセットになるらしかった。

 その割には、お値段が安めな気がしたが。

 まあ、お得である限り、タスッタさんとしても文句をいうつもりはなく、それどころか予想外に豪勢な内容に内心ではかなり喜んでいたりする。

 まずは。

 と、タスッタさんはお味噌汁の椀を手にして、一口啜る。

 いい出汁が利いた、すっと飲みやすい味だった。

 これは、なんでしょうかね。

 ちょっと変わった、以前にも味わった。

 頭の中でこれまでに愉しんだ出汁の味をざっと検索して、すぐにタスッタさんはある結論に達した。

 ああ。

 これはあれ、アゴの味だ。

 トビウオから取った出汁の味だと、タスッタさんは思い当たる。

 そうか。

 こちらの地方でも、アゴを使うんですね。

 と、タスッタさんは思った。

 昨日までに味わってきた食事では、なぜかこのアゴ出汁には出会うことがなかった。

 続いて、タスッタさんは主役のブリカツを箸で摘まんで、一口食べてみる。

 サクッとした食感で、中身はふわふわ。

 揚げたてであることも手伝って、魚の揚げ物では、かなりいい食感だった。

 そして中身のブリが。

 ああ。

 と、タスッタさんは心の中で感心をする。

 ブリって、揚げるとこんな味になるんですね。

 素直に、おいしいと思った。

 なんとなく、魚を揚げ物にすると風味が薄くなるような印象を抱いてきたタスッタさんだったが、ここのブリカツは、いかにもブリっぽい風味が横溢している。

 一口噛みきり、咀嚼をするたびにブリ特有の風味と味が、ふわっと口の中に広がった。

 これは、いい。

 と、タスッタさんは思う。

 衣にもほのかに味がつけられていて、うん、この香りは、アゴの出汁を入れているみたいですね。

 この衣の香りが、ブリの味を邪魔することなく、いいアクセントになっている。

 これは、いい。

 そう感じながら、タスッタさんはどんぶりからご飯を一口取って口の中に入れ、再び味噌汁の椀に手を伸ばす。

 そして椀の中身を一口啜った後、具を箸で摘まんで口の中に入れた。

 ああ、つみれ。

 これも、お魚。

 噛みしめるとじわっと魚の脂が滲み出て。

 うん、いい。

 タスッタさんはもう一口味噌汁を啜り、今度は、こぶりのお皿に箸を伸ばす。

 細長く切られたこれは、白っぽい半透明のお刺身らしく。

 箸で摘まんで啜ると、うん、やはり、イカ素麺だ。

 それも、かなり新鮮で、これだけでも主役を張れる一品。

 副菜ということで量もそれなりだったが、この少量でも十分においしく思えた。

 なにより、揚げ物の合間に食べるのには、こうした味の薄い、さっぱりしたお料理が箸休めとしてちょうどいい。

 これは、想像していたよりもずっといいお食事になりましたねえ。

 黙々と手を動かしながら、タスッタさんはそんなことを思う。

 このブリカツも、ひとつのどんぶりに五枚も入っている。

 一枚のカツがかなり薄いので、そんなに油っこくは感じないのだが、その薄い一枚の味がかなり濃厚に感じた。

 いいなあ、これ。

 そう思いながら、タスッタさんは食べ続ける。

 これぞ、揚げ物。

 これぞ、ジャンク。

 上品な料理にはない豪快なおいしさが、ここにあった。

 こういうお料理は、休むことなく箸を動かすに限りますよね。


 すぐにブリカツ丼とつみれ汁、イカ素麺を完食したタスッタさんは、最後に残っていたデザートの小鉢に手を伸ばす。

 一口、それを口に入れた途端に、口の中にふわっと広がる風味に。

 ああ、これは柿だ。

 と、タスッタさんは悟った。

 柿のシャーベット、か。

 珍しくもあり、おいしくもあり。

 ほのかに、甘い。

 ブリカツで少し重くなった口の中を濯ぐのに、ちょうどいいデザートといえた。

 うん、これも。

 いいですねえ、と、タスッタさんは思う。

 こういうお店だから、正直、食べる前はさほど期待していませんでしたが。

 実際に食べてみると、想定外にいい食事になった。

 たまにこういうことがあるので、食べ歩きは楽しい。

 一人、余韻に浸りながら、タスッタさんはそんなことをつらつら考えている。



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