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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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139/180

東京都台東区。中華酒楼の朝餐、揚げパンと豆乳セット。

 そのお店は御徒町から降りてすぐ、山手線のガード下でひっそりと営業していた。

 いや。

 飲み屋が多い場所柄でもあり、夜ともなればそれなりに賑やかなのだろうが、朝の光の中では開いているのかどうかすら、すぐには判断が出来ない。

 一応、開いているんですよね。

 と、タスッタさんはお店の前でそう思う。

 看板は出ているから、やってはいるんでしょうけど。

 そんなことを思いながらも引き戸を開き、お店の中に入ってみた。

 あまり広くはないお店の中は、基本的に内装にお金をかけていないらしく、コンクリートが剥き出しで、カウンター近くの床の上には老酒かなにかのかなり大きな瓶がいくつも並んでいる。

 店員さんは三人、中年夫婦とそのうちのどちらかの父親らしい年格好の老人がいるだけだった。

 タスッタさんは広東語らしい有線放送のラジオ番組が流れる中、狭い通路を抜けてお店の奥へと入っていく。

 簡素なテーブル席がいくつか置かれただけの店内には一組だけ中年カップルの先客がいるだけであり、他にお客さんの姿はなかった。

 タスッタさんは空いているテーブル席の一つに腰掛けて、テーブルの上に置かれていた紙の上に視線を走らせる。

 朝餐セットと、書かれた組み合わせがいくつかあり、それとは別に単品料理がいくつか書かれている。

 どうやらこの時間帯は、この料理しか注文できないようだった。

 さりげなく内装などをチェックしていたタスッタさんは、

「料理店というよりも、どちらかというと飲みが主体のお店らしいですしね」

 と、内心でそう頷く。

 今の時間でこそこれほど空いているわけだが、日が暮れる頃にはかなり繁盛をしているのではないか。

 むしろ、こういうお店で朝の営業をしていることの方が、どちらかといえば不思議に思えた。

 それほど、収益がよいとも思えないのに。

 タスッタさんがメニューを吟味している間に、先客であった中年カップルが勘定を済ませて去って行く。

 これで、店内に残っているお客はタスッタさん一人になる。

 メニューを見ているタスッタさんも、そんなに長い時間に渡って注文をするべき料理を迷っていたわけではなく、単にタスッタさんと入れ替わりになっただけだった。

 タスッタさんは、すぐ前のテーブルで前のお客さんの精算を済ませ、お冷やを持ってきてくれた一番年嵩の店員さんに、

「揚げパンと豆乳セットをお願いします」

 と注文をする。


 注文した料理は、五分ほど後に出て来た。

 思ったよりも時間がかかったのは、どうやら注文してからパンを揚げはじめたからのようだ。

 その揚げパンは、タスッタさんが漠然と想像していたよりも量が多く、それに大きめの鉢に入った豆乳と漬物がついたセットだった。

 どれ。

 と、タスッタさんはレンゲを手に取り、まずは豆乳を一口啜ってみる。

 少し温めに暖められた、豆乳だった。

 なんの変哲もない豆乳の味だったが、これまでその豆乳を暖めて飲んだことがないタスッタさんにしてみると、なんとなく新鮮にも思える。

 次に揚げパンをひとつ摘まんで指先でちぎり、豆乳に浸して食べてみる。

 揚げパンの皮が想像していたよりも固く、そして中身は柔らかくてもちもちした食感になっている。

 ちょうどいい揚げ加減ですね。

 豆乳に浸した揚げパンを食べながら、タスッタさんはそんな風に感じた。

 暖かく、そして、思っていた以上にしつこくない。

 油がいいせいか、それとも揚げたてだからか。

 タスッタさんはときおり漬物を箸で摘まみながら、黙々と揚げパンを豆乳に浸して食べ続ける。

 漬物はピリ辛味のアクセントが効いた、中国風の物だった。

 中華でもこのお店のは、多分南の方の系統だとは思うのだが、具体的にどの地方の料理であるのかを断定できるほどの知識をタスッタさんは持っていない。

 見た目の量が多いのでもっとお腹に溜まるかな、と思ったが、意外に食が進んだ。

 フランスパンに似た食感でありながら、微妙に違う味わいの揚げパン自体がおいしいし、それに豆乳との相性もいい。

 しばらく食べ進めたところで、

「豆乳がぬるめに暖められていたのは、パンを浸して食べることを前提にしているからなのでは?」

 ということに思い当たる。

 あんまり豆乳が熱々でも、かえって食べにくくなるのだった。

 シンプルかつ素朴な内容ですけど、朝はかえってこれくらいの方がいいですよね。

 と、食べながら、タスッタさんはそんなことを思う。

 朝からあまり凝った料理を出されても、食べきれない。


 黙々と食べ続け、さほど時間もかけずに完食をしたタスッタさんは、勘定を済ませてお店の外に出る。

 お店の外にはこれから出勤する人などが行き交い、それなりに人通りが多かった。

 なんといっても山手線の内側であり、事務所や商店などが入っているビルが建ち並ぶ場所でもある。

 特にこの時間帯は、道行く人たちは足早でみんな忙しそうに見えた。

 さて、と。

 タスッタさんは、そう思い、歩き出す。

 今日も一日、頑張りますか。



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