愛媛県松山市。カフェのガトーショコラとコーヒーのセット。
ある昼下がり、タスッタさんは例によってよさそうなお店にふらりと入っていた。
特にお腹が空いているわけでもなかったのだが空いた時間はそれなりあり、そんな時、ゆっくりと座れて寛ぐことが可能な場所を求め、たまたま通りかかったこのお店に入ってみた。
茶色い箱形の洒落た外観のお店で、街道沿いに見掛けた時に気になり、
「今日は時間もありますし」
とか思って、ふらりと入ってしまったのだ。
今日も暑いし、今年は暑かったですからねえ。
涼しい店内に入って一息ついたタスッタさんは、そんなことを思う。
ここで休憩をしてもいいでしょう。
実際、その日も暑かった。
この夏は、雨が降っているか酷暑か、その両極端であったような気がする。
ここ数日、わずかに気温がさがったような気もするが、それでもようやく例年並みの真夏日であった。
タスッタさんの姿を認めた店員さんが、半個室のようなボックス席に案内をしてくれる。
どうやらこのお店にはカウンター席はなく、そうしたボックス席しかないようだった。
壁で区切られているので完全に見通せたわけではなかったが、お客さんの入りがそんなに悪いようにも見えず、お一人様の自分がそうした座席を占有することに、タスッタさんは少し後ろめたさを感じる。
本当に満席になったら、相席とかも頼まれると思うのですけれどね。
とも、タスッタさんは思った。
八人くらい座れるテーブル席を一人で占有しながら、タスッタさんはメニューをめくる。
メニューは写真入りで、モーニングとランチのセットがあるが、どちらも、時間に関係がなく注文できるようだった。
内装も、外観と同じくお洒落な感じでまとめられており、その割には地元らしいお年寄りとかも普通にお客として入っている。
気軽さと格好良さがほどよく混合された、落ち着いた空間だった。
うん。
と、タスッタさんは思う。
雰囲気のいい、お店だ。
さて、なにを注文しますかね。
それから再びメニューに視線を落とし、改めて検討をしはじめた。
半端な時間帯であるし、食事系とか重めのメニューはとりあえず外しましょうか。
では、デザートとかスイーツ系になりますか。
このお店は、ケーキなども充実していますね。
ケーキかあ。
最近、久しく食べてないですね。
などと、タスッタさんは検討を重ねる。
ケーキと飲み物のセットにするのは、いいとして。
さて、どのケーキにしますか。
このお店のケーキは写真で見る限りすべて正方形に近い形状にカットされていて、大きさまでは写真だけでは判断が出来なかったが、とにかくどれもがおいしそうに見えた。
ここのところ、冷たい物ばかりを飲んでいたから、しばらくぶりにホットのコーヒーも飲んでみたいですね。
とも、思う。
確認をしてみると、ここのコーヒーは通常のブレンドと、それに店名を入れた濃いめのコーヒーとの二種類を用意しているようだった。
濃いめのコーヒーも興味はありますが、ここは普通のブレンドで。
あとは。
タスッタさんは、改めてケーキの写真を眺める。
コーヒーに合わせると、やはりチョコ味になりますかね。
しばらく考えてからタスッタさんはそう結論し、店員さんを呼んでガトーショコラとコーヒーのセットを注文する。
ガトーショコラとコーヒーのセットは、そんなに待たずにタスッタさんの前に出て来た。
この店でやるのはコーヒーをいれることくらいだから、そんなに時間がかからないのも当然といえば当然なのだが。
タスッタさんはまずコーヒーを一口いただく。
いれたてのせいか熱く、とてもいい香りがした。
ここ数日まともなコーヒーから遠ざかっていたタスッタさんは、苦味の中にほのかな甘味が混じる本格的なコーヒーを口に含む、落ち着いた気分になる。
どことなくフルーティな、複雑な香り。
うん。
と、タスッタさんは心の中で頷いた。
コーヒーは、こうでなくてはいけません。
タスッタさんは次にフォークを手に取り、側面についてセロハンを剥がしてからガトーショコラを一口大に切り分けて口の中に運んだ。
予想以上に甘味が強いが、同時に、強いチョコの風味も感じる。
まさしくこれは、ガトーショコラですね。
特に特徴があるわけでもなく、なんの変哲もないガトーショコラといえた。
おそらく、お店の外で買い付けた物をそのまま出しているのだろう。
だが、この手の物は下手にアレンジをするよりは、そのままの、類型的な状態で出した方がずっといい。
ガトーショコラを嚥下した直後に、またコーヒーを飲む。
やはり、チョコの風味とコーヒーは、合いますねえ。
タスッタさんは、口の中に残る味と、鼻腔を抜ける香りとを愉しんだ。
ああ、落ち着く。
タスッタさんはその場に座ったまま、小さく伸びをする。
お店の中も、これ以上に混雑する様子が見られないし、ここで少し長めの休憩をしていこう。
そう思わせるほどの、リラックスをした空間だった。




