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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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132/180

東京都中央区。レストランのオムライス定食。

 目当ての映画がはじまるまでの時間潰しも兼ねて、特になにも期待をせずに入ったお店だった。

 東京の日本橋近辺は、完全にオフィス街となっている神田と独特の発展を遂げた銀座との間にあり、最近になって再開発も進んだこともあって、なんだか奇妙な街になっているように、タスッタさんには思えた。

 うだるような暑さの中、物好きにもしばらく周囲を散策していたから、ことさらに奇妙な印象を受けたのかも知れなかったが。

 真新しいオフィスビルやショッピングモールが林立する中、合間にひょっこりと古い建物が残っていたりする。

 その日、タスッタさんが気まぐれに入ったのは、そのうちの後者である、どちらかというと風格を感じさせる古い建物のレストランだった。

 お店に入ったのは午後二時過ぎになるだろうか。

 あまり広くはないお店の中には、一人客と四人組の二組のお客さんしかいなかった。

 場所柄もあり、それに半端な時間帯でもあるのだろうな。

 タスッタさんは、そんな風に感じる。

 料理を食べ終えた四人組のお客さんが立ち上がり、奥に声をかけるとようやく、かなりお年を召した女性の店員さんがよたよたと頼りない足取りで、出て来た。

 その店員さんに、

「一人ですが、入れますか?」

 とタスッタさんが声をかけると、

「ああ、どうぞ」

 と気安い口調で返される。

 タスッタさんは開いている席に適当に座ってしばらく卓上におかれたメニューを見ていたが、四人組の会計を済ませた店員さんがその席に寄ってきて、

「あちらの方が涼しいですよ。

 冷房の風が当たって」

 と、別の席へと促される。

 なんだかのんびりとしたお店だなあ、と、タスッタさんは思う。

 そういうことならば、タスッタさんが座る前に声をかけてくれればよかったのに。

 丁寧なんだかぞんざいなんだかよくわからない対応を受けながらタスッタさんは、その店員さんにメニューにあったAランチを注文した。

 するとその店員さんに、

「Aランチは、もう終わってしまいまして」

 と、返される。

「ええと、それでは」

 タスッタさんは慌ててメニューを見返して、

「では、このオムライス定食をお願いします」

 と、適当に選んだ料理を注文する。

 幸いなことにオムライスは品切れになっていなかったのか、すんなりと注文が通った。

 店員さんが例によってゆっくりとした足取りで奥の厨房へと戻るのを見ながら、タスッタさんはバッグからハンドタオルを取り出して、額に浮かんでいた汗を拭う。

 この暑い中、しばらく歩いていたのでかなり汗をかいていた。

 しばらくしてから、先ほどの店員さんがビール用のかなり大きなグラスに入ったお冷やを持ってきたので、それもありがたくいただく。

 こういうとき、よく冷えた水は心の底からありがたかった。

 そうしながら、タスッタさんはさりげなく店内の様子を眺めた。

 掃除が行き届いた、細長いお店だった。

 入り口近くに階段があったから、二階席もあるらしい。

 レジ付近の壁面には大きめの棚が設えてあって、そこにはお酒のボトルが並んでいる。

 お店の奥手の壁には壁面テレビが掛けてあって、ワイドショーらしき番組を流していた。

 その手の番組に興味がないタスッタさんは、特にテレビを注視することはなかったが。

 かなり庶民的な、夜には居酒屋のような雰囲気になるお店なのだろうなと、タスッタさんは推測をする。

 しばらく漫然と過ごしてから十分ほどが経過し、ようやくタスッタさんが注文した物が出てきた。

 うん。

 オムライス、ですね。

 配膳されたトレーの上を見て、タスッタさんは内心で頷く。

 茶色いデミグラスソースがたっぷりとかかっていて、別の小皿にはサラダ、それに、コンソメのスープもついていた。

 タスッタさんはスプーンを手にして、まずはスープを一口啜ってみる。

 色から想像した通り、コンソメのスープだった。

 しかし、なんとなく、普段味わっているコンソメよりは、味が微妙に複雑で深みがあるような気がする。

 ひょっとして。

 と、タスッタさんは思う。

 これ、このお店で一から作っているコンソメなのでは。

 いや、そんな手間のかかることをするお店は、そんなに多くはないはずだし。

 そう思いつつ、タスッタさんは今度は定食の本体であるオムライスにスプーンを入れて食べてみた。

 あれ?

 と、口の中に入れた瞬間、タスッタさんは軽く驚く。

 このデミグラスソース、とても、味が濃い。

 それも、しつこく口の中に味が残るような「濃さ」ではなく、さっぱりと後味が残らない、その場限りに感じる濃厚さだった。

 これは。

 と、タスッタさんは確信をする。

 レトルトではなく、このお店で作っているソースのようですね。

 最近のレトルトは下手な手作りなどよりもよほどおいしかったりするのだが、このデミグラスに関していえば、そこいらのレトルトを完全に凌駕している。

 地味に、凄いな。

 と、タスッタさんは驚いていた。

 ソースの味が濃すぎて、オムライスの卵やチキンライスの存在感が薄くなっているきらいはあるが。

 それでも、料理として考えると、十分に、いや、かなりおいしい。

 途中、テク状に出ていた箸を取って、サラダを摘まんだりしながら、タスッタさんはオムライスを食べ進める。

 卵は、最近のオムライスにありがちなふわふわ系ではなく、しっかりと焼いて薄くのばした昔風の仕様。

 その卵の中にあるチキンライスは、色が薄いから味も薄いかというとそうでもない。

 いや、味も、薄味ではあるのだが、大きめに切ったタマネギとマッシュルームの食感がいいアクセントになって、単体で食べてもかなりおいしい……と、思う。

 デミグラスの味の濃さが全面に出ているため、いっしょに食べると、どうしても印象が薄くなってしまうのであるが。

 いずれにせよ。

 どの料理も、しっかりと仕事をしているなあ。

 と、タスッタさんは、そう感じる。

 それも、料理をする側の自己満足的に手間をかけているだけではなく、ちゃんと料理においしさとして反映されている。

 そんな一手間が、加わっている気がした。

 丁寧な仕事だ。

 と、食べながら、タスッタさんはこのお店の存在に感謝をしたくなった。

 決して派手な、人目を引くようなお店でも料理でもなかったが、それでも営々としてこうして料理に向き合ったお店が存在できているということは、単純にいいことだとも、思う。


 しばらくして、しっかりと食事を楽しんだタスッタさんは、お店から通りひとつ挟んだだけのショッピングモールに向かう。

 その中の映画館に用事があるためだった。

 チケットは買ってあるし、あとは映画を観て帰るだけですね。

 かなり満足をした状態で、タスッタさんはそんなことを思う。


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