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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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131/180

千葉県船橋市。自宅で食べる素麺とアイスクリーム。

 その日、タスッタさんは船橋市にある単身者用賃貸マンションの一室でぐったりとしていた。

 今年の夏は暑さが厳しく、野外を歩く機会が多いタスッタさんは、八月に入る前に夏バテのような感じになっている。

 その人はたまたま外出をする予定が入っていなかったので、これまでの暑さによって削られていた体力を回復するための日とした。

 つまり、一日クーラーの効いた室内で、自堕落に過ごすことにしたのである。

「ふう」

 ベッドに横になりながら、タスッタさんは息をつく。

 時間は、と、枕元に置いてあったスマホの画面を確認して、

「もう、お昼の時間ですね」

 と、呟いた。

 胸の上にページを開いて置いていた文庫本を脇に置き直して、タスッタさんは緩慢な動作で起きあがる。

 立ちあがり、大きくのびをした後、

「今、なにがありましたっけ?」

 と独り言をいいながら冷蔵庫の扉を開いた。

 外出をしがちでありこのマンションに滞在する日数の方が少ないタスッタさんは、あまり食糧の買い置きというものをしない。

 するとしても、レトルトとか缶詰、それに乾麺など、長期保存が効くような食材であることが多かった。

 なにか食べたい物があれば、帰宅の途中で買うようにしている。

 その方が、無駄がないのだ。

 この日も、冷蔵庫の中は見事なまでになにもなかった。

 なにもない、というと、語弊があるか。

 冷凍庫にはこの前の帰宅した時にコンビニで購入した抹茶味の、少し高級なアイスクリームのカップがある。

 それと。

「素麺、ですか」

 これも、少し値が張るものだった。

 出先で自分への土産と購入したもので、たしかこのメーカーの中では最高級品として位置づけられている製品ではなかったか。

「高級な、素麺」

 果たしてどんな味だったかな、とか思いつつ、タスッタさんはまた呟く。

 以前にも自分でゆでて食べたはずであったが、その時の記憶は薄れていてはっきりと思い出せなかった。

 まあ、あるものは食べちゃいましょう。

 すぐに決断し、タスッタさんは少し大きめ鍋を出してたっぷりと水を張り、お湯をわかしはじめる。

 そして水出しの麦茶がはいったプラスチックのパックを取り出し、テーブルの上に置いた。

 この小さなテーブルはベッドと同じく、タスッタさんの数少ない家財といえる。

 外出しがちなタスッタさんは、このマンションにはほとんど寝に帰るようなものであり、よほど必要に迫られなければ家具という物を購入しなかった。

 お湯が沸いたところで素麺の乾麺を、麺がばらけるように広げて入れて、菜箸でゆっくりと掻き回す。

 沸騰したお湯に入った乾麺は鍋の中でぐんにゃりとなり、後はそれがくっつかないように菜箸で攪拌するだけ。

 お料理とも呼べないほど、簡単なお料理ですね。

 強いていえば葱やミョウガなどを刻んだりすればいいのかも知れなかったが、この日は億劫でタスッタさんとしてはわざわざ外出をしたくはなかった。

 何度か菜箸で麺を掬ってゆで加減を確認し、頃合いよしと判断して、ざるの上に鍋の中身をあける。

 一瞬、ワンルームの片隅に湯気が満ちるが、すぐに換気扇によって熱い湯気は外に追い出された。

 水道水をざるの上にかけて麺を十分に冷やし、その上で容器に盛った。

 冷水の中に素麺を入れて食卓に出す人も多いそうだが、タスッタさんの場合、所詮食べるのは自分一人ということもあって、水気をよく切った状態で食器の上に直接麺を盛ることにしている。

 それをテーブルの上に置き、普段は調味料として利用することが多い買い置きのめんつゆを茶碗に入れてやはり水道水で希釈をして、箸といっしょにテーブルに出す。

「さて」

 と、テーブルについたタスッタさんは呟いた。

 あまりにも簡素な料理であり、素朴な昼食だった。

 しかし普段、外で凝った料理を求めることが多いタスッタさんとしては、自宅で食べる物としてはこれくらいシンプルな方がいいと思っている。

「いただきます」

 タスッタさんは白く光る麺を箸で取り、水で薄めためんつゆに軽く浸し、その上で音を立てて啜った。

 あれ?

 なんだか食感が。

 と、タスッタさんは思う。

 普段食べ慣れている素麺と比べ、啜った感じからして、まるで違う。

 噛んだ時の、歯を押し戻すような強い腰も。

 うん。

 これは、流石は高級品。

 安い物とは、食感がまるで別物ですね。

 と、タスッタさんは感心をした。

 もちろん、味も。

「おいしい」

 最初の一口目を嚥下した後、タスッタさんは素直な感想を口にする。

 素麺とは、本来はこんなにおいしい物であったのか。

 これならば、いくらでも食べられるような気がしますね。

 しかし残念なことに、タスッタさんが備蓄していた素麺の、最後の一把を今、タスッタさんは食べていた。

 再度これを食べたければ、また同じ商品を買ってくるしか方法がない。

 多分、次に家を出るときまで、おぼえてはいないだろうな。

 と、タスッタさんは思う。

 なにしろ、食べたい物は多く、タスッタさんは移り気でもある。

 それに、自宅用に食料を買う機会もさほど多くはない。


 自分で調理をした素麺を完食した後、タスッタさんは洗い物を手早く片付ける。

 所詮一人分だけだから、手を着けてしまえば手間も時間はさほどかからない。

 それから再度冷蔵庫の前に立ち、今度は冷凍庫からアイスクリームを取り出した。

 これでこの部屋の中にあるまともな食料は完全になくなってしまうのだが、夜の分はまた外に、そう、日が落ちて多少は涼しくなってから、買いに行けばいい。

 それよりも、今はこのアイスクリームの方が重要だった。

 タスッタさんが好きなメーカーのもので、いわゆるクラフトアイスよりも単価が高く、カロリーも高く、しかしカップは小さい。

 そんな、アイスだった。

 値段というよりはそのカロリーが原因で、タスッタさんも常食にするのを遠慮している。

「こういうのは、たまに食べるからいいんですよね」

 と、タスッタさんは思う。

 この日はお休み。

 一日、部屋の中でだらだらと過ごす。

 そう決めた日だから、食べてもいいのである。

 そんなことを考えつつ、タスッタさんはアイスクリームの蓋をあけ、周辺部分の室温により溶けかかった部分をスプーンで少し掬い、口の中に入れる。

 油脂の甘味と抹茶の清涼感が、口の中に広がった。

 このアイスクリームは、やはり微妙に溶けかかった、しかし冷たさを十分に残している部分が一番おいしい。

 とか、そんなことも思う。

 凍った部分を無理にスプーンで削ぎ取って口に入れても、あまりおいしく感じないのだった。

 シンプルで、そして微妙に贅沢なお昼ですねえ。

 ゆっくりと時間をかけてアイスクリームを楽しみながら、タスッタさんはそんなことを思う。

 途中、よく冷えた麦茶で喉を潤すことも忘れなかった。

 こうしていると、なんというか、夏、という感じがします。



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