長野県松本市。和風カフェの苺ミルクかき氷とアイスティ。
まだ梅雨も明けていないのに、ここ数日三十度を超える日々が続いている。
などと思っていたら、今日の昼前後に関東は梅雨明けしていました、などというニュースがネットに流れていた。
どうやら今年の夏は、「いつの間にか」やって来ていたらしい。
そんな、六月も終わりに近づいたその日、タスッタさんは松本を訪れていた。
所用もつつがなく済ませ、午後の時間を費やして松本城周辺を散策したりして過ごし、タスッタさんはある神社へと流れ着く。
かなり大きな、風格のある神社で、観光地であるせいか参拝客もそれなりにいる。
タスッタさんもそうした参拝客に混じってお参りを済ませ、時間に余裕があったので、なんとなく境内を見て回った。
時刻を確認するとすでに夕方といっていい時間ではあったが、日はまだまだ高く、気温も容赦なく高い。
すでに真夏の風情ですね。
と、タスッタさんは、そんな風に感じる。
こんな時は、冷房の効いた屋内に籠もるかそれとも緑が多い場所で過ごすのが一番だと思った。
見ると、社務所付近はお守りなどを買い求める人たちでかなり賑わっている。
それとなくそうした人々の会話を聞いて見ると、どうやらこの神社は、各種のお守りでそれなりに有名な場所であるらしい。
タスッタさん自身はお守りを購入するつもりはなかった。
なにかとナビ慣れているタスッタさんは、ここのような神社でお守りを購入するという習慣がない。
立ち寄った先々でそんなことをしていけば、捨てるに捨てられないお守りが増えていく一方だからである。
そんな風に周囲を何気なく観察していたタスッタさんは、社務所の奥で視線を止めた。
「あれ。
あんなところに」
どうやら、カフェであるらしい。
神社などに甘味処を出していることは多いのだが、ここお店は、店構えや看板を見る限りは、どちらかというとカフェに近いようだ。
とはいえ、メニュー的には限りなく和風で、甘味処に近いように思えたが。
もうこんな時間だというのに、相変わらず暑いし。
「試しに、入って冷たいものでも頼んでみますか」
特に深く考えもせず、タスッタさんはそのお店に入る。
時間的に少し遅かったせいか、それともお店の場所がわかり難いせいか、お客さんの姿はほとんど見えなかった。
タスッタさんの姿に気づいた店員さんが、
「どこでもどうぞ」
といってくれたので、タスッタさんは店先に出ていたテーブル席に座った。
店内の風通しがよすぎて、あまり冷房が効いていなかったせいでもある。
店員さんは、すぐにお冷やとメニューを持ってきてくれた。
神社内のお店だからといって店員さんが袴姿であるということもなく、ごく普通の格好をしている。
ざっとメニューを見たタスッタさんは、
「やはり、冷たい物が欲しいですね」
と、改めて思った。
「ええと、アイスティと」
「はい。
アイスティと」
飲み物だけでは、少し寂しい。
でも、時間が時間だから、あまり重い物は食べたくない。
ここは、食べ物は甘い物が中心であり、軽食系の物はあまり扱っていないようだ。
さて、どうしましょうか。
タスッタさんは、少し悩む。
あんまり、がっつりと甘い物を頂いても、お腹が。
あと少しで夕食の時間となる。
タスッタさんとしては、ここでお腹いっぱいにしたくはなかった。
「なにか軽め食べ物で、お薦めはありますか?」
そこでタスッタさんは、素直に店員さんに訊ねてみることにする。
「あとそれから、出来れば冷たい物で」
「今の時期ですと、かき氷がいいと思います」
店員さんはメニューをめくって、そういった。
「うちの氷はふわふわで、軽いですよ。
見た目よりは」
うむ、かき氷か。
と、タスッタさんは納得をした。
いいチョイスかも知れない。
かき氷で、なおかつ、あまり甘すぎない物を、と。
タスッタさんは数秒メニューを睨んで、
「苺ミルクのかき氷をください」
と注文をする。
苺ミルクのかき氷とアイスティは同時に出て来た。
「え?」
出て来た苺ミルクのお皿を見て、タスッタさんはそう呟いて絶句してしまう。
想定外に、量が多い。
ような、気がする。
お皿の上にこんもりと、それこそ子ども頭くらいの大きさになるのではないかというくらいに盛られていた。
「これが、軽いのですか?」
思わず、タスッタさんは店員さんに確認をしてしまった。
「見かけ以上に、ずっと」
店員さんは、そう請け合ってくれる。
「実際に食べていただければ、実感できるかと思います」
「そうですか」
曖昧に頷いたタスッタさんは、まずストローの包装を破いてグラスの中に突っ込み、アイスティで喉を潤した。
ガムシロップもなにも入れていなかったが、予想した以上においしい。
渋みが少なく、しかししっかりと紅茶の風味が摘出されていた。
このアイスティを出すようなお店でしたら。
タスッタさんはスプーンを取って、さくりと苺ミルクの山に突っ込んだ。
あ。
と、タスッタさんはその手応えに驚く。
想定以上に、抵抗がない。
軽い、というか、密度が薄い。
これは、確かに軽いかも知れませんね。
と、タスッタさんは思う。
一口、口の中に入れると、体温でさっと氷が溶けてなくなり、その後に苺と練乳の味と甘味が残る。
この苺シロップも、市販の物ではなさそうですね。
その味を堪能しながら、タスッタさんは思う。
苺と練乳の甘味はかなり強かったが、無味で冷たい氷がその強い甘味をうまい具合に相殺している。
これは、かなりおいしいかき氷なのではないでしょうか。
タスッタさんはこれまでに食べて来たかき氷のことをざっと思い返して、そう判断する。
軽くて、冷たくて、甘い。
甘味は強いが、全体的にはバランスが取れていて、その甘味が後を引かない。
ミルクと苺、それに練乳。
さらに、大量の、さらっと溶けるかき氷。
これは、こういうかき氷は、お店でしか味わえませんね。
タスッタさんは、そう思う。
おそらくかき氷を作るのも、きちんとした業務用の物を使用しているのだろう。
そうでなければ、ここまで繊細なかき氷は作ることが出来ないはずなのだ。
あまり食べ急いでも頭が痛くなるので、タスッタさんはときおり合間にアイスティを飲みながら、時間をかけてかき氷を完食した。
食べながらタスッタさんは、
「このままいつまでも食べ終わらなければいいのに」
とさえ、思った。
おそらくはかき氷自体の魅力だけではなく、ここ数日続いた暑さとか、この野外のテーブル席とかのロケーションなども関係して、ここまでおいしく感じるのだろうが。
冷静にそう考えながら、タスッタさんはなんともいえない満足感を覚えながらスプーンを置く。
流石に、額に浮かんでいた汗は引いていた。
いい、出会いでした。
タスッタさんは、しみじみと、そう結論する。




