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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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126/180

三重県津市。洋食屋のおすすめランチとハーフサイズブラックカレーのセット。

 梅雨の合間にどんよりと曇った、しかし空気はねっとりと不快な湿気を含んでいたその日、タスッタさんは午前中の用事が押して午後二時近くにまでお昼を食べることが出来なかった。

  津市にあるお城公園という、その名の通りかつてお城があった跡地をそのまま公園に解放している場所の近くで、タスッタさんは少し困る。

  それなりに賑やかな場所なので飲食店に困ることはないが、半端な時間であるためチェーン店以外のお店では、そろそろお昼の営業が終わってしまう。

 空腹を感じていたこともあり、タスッタさんとしては、味が安定していてその分、食べる前に予想がついてしまうチェーン店は避けたいところだった。

 安定していることと、それに手頃な値段設定であることがそうしたチェーン店の良さであり、タスッタさんとしてもそれ自体を否定するつもりはなかったが、せっかくあちこちを歩いているのだからその土地にしかない、予想がつかない料理の方を選びたかったのだ。

 それはいいとして、どうしましょうかね。

 まず公園のお堀沿いに、それから公園の中をつっきって歩きながら、タスッタさんはそんな風に思う。

 この近くで都合がよく、よさそうなお店が見つかるといいのですけど。

 このお城の周辺は市役所や地方裁判所などがある、この周辺の官庁街ともいうべき土地であるらしい。

 そのせいか平日の昼間だというのに人通りが多い気がする。

 なんとなく公園を出て人の流れに乗って歩いていたタスッタさんは、その周辺を数分歩き回った後、あるお店に目をつけた。

「レストラン、なんですよね?」

 その重厚、通り越していかめしい印象すらある建物を前にして、タスッタさんは首を傾げる。

 看板は出ているし、どうやら営業中でもあるらしいから、普通にレストランなのだと思うのだが。

 かなり古い様式の洋館で、中に入るための心理的な敷居は高く感じた。

 なんとなく、出す料理も高い値段設定であるような気がする。

「入ってみますか」

 まずは、実地に確認をしてみないことには。

 そう思ったタスッタさんは、そのお店の中に入った。


 若い女性の店員さんから人数を問われ、一人だと答えた直後に、

「ここは、ランチのセットなどはありますか?」

 と確認をする。

 格式が高そうなお店だから、コース料理しかないといわれたらそのまま店を出るつもりだった。

 幸いなことに手頃な値段設定のランチはあるそうで、しかしあと三十分もしないうちにお昼の営業が終わるので、早めにオーダーを、といわれた。

 まさか食事中のお客を追い出すこともないだろうが、お店にしてみれば微妙な時間なのかも知れない。

 そんな時間帯のせいか、

 ことを確認してから、タスッタさんは空いていたテーブル席へと案内される。

 そこでメニューを確認したタスッタさんは、

「コース料理だとこれくらいの値段になるのですね」

 と、口には出さずに内心で呟く。

 それなりに妥当な値段だとは思うが、夜ならばともかく昼食としてこの価格を出すのは、少し躊躇われた。

 店員さんがいっていたランチセットもすぐに見つかり、千円かなりを超えているから昼食として見るとはやり立派な値段ではあるのだが、内容的に見ればこれも妥当な値段だろう、と、そう思う。

 地元の老舗、という感じなのかな。

 と、タスッタさんはそう思う。

 格式と歴史があり、しかしそれに寄りかかっているだけのお店かどうかは、実際に出てくる料理を食べてみないことには判断が出来ない。

 店員さんを呼んで注文をしようと思ったタスッタさんは、ふと目の隅に入ってきた文字列に気を取られた。

「ブラックカレー、ですか?」

 なんだ、それは。

 と、タスッタさんは思う。

 その逆に、白いカレーは以前、食べたことがあった。

 メニューの写真を見ると、確かにルゥが黒い。

「ランチセットにいくらかプラスすると、ライスをハーフサイズのブラックカレーに変更できる……ですか」

 その変更分の料金を含めると一食あたり税込みで二千円を優に超える金額になってしまう。

 単品のブラックカレーを頼むことも出来たが、こちらは千円プラス消費税だった。

 さて、どうしましょうか。

 と、タスッタさんは少し悩む。

 そしていくらもしないうちに、

「せっかくだから、ランチとハーフサイズのセットにしますか」

 と結論する。

 この時のタスッタさんは、お腹が空いていたのだ。


 ランチとはいえ簡易なコース扱いなのか、まず最初にスープが出て来た。

 薄い飴色の透明な液体、お馴染みのオニオンスープだった。

 味も、うん、普通か。

 少なくとも、特筆するような要素はなかったように思う。

 おいしいことはおいしいんですが。

 タスッタさんは、そんな風に感じる。

 どこででも味わえる、定番のスープだ。

 次に、チキンソテーとジャガイモのクリーム煮、それと、キャベツとアサリの蒸し煮の二品が出て来た。

 タスッタさんはまず、ナイフとフォークを手にしてチキンソテーをいただく。

 表面がカリッと焼けて香ばしく、噛むとじわっと肉汁が口の中に広がる。

 いい焼き加減ですね、と、タスッタさんは感心した。

 甘味の強い、しかし癖のないソースも、肉の味によく合っているように思った。

 キャベツとアサリの蒸し煮は澄んだ味わいで、この蒸し煮自体の自己主張は少ないのだが、飲んだ後にしみじみと体の中に浸透していくような感覚がある。

 上品だけど、滋味に富んだ味わいだと思った。

 老舗らしい、基本のしっかりとしたお店のようですね。

 料理を味わいながら、タスッタさんはそんな風に思う。

 料理も品がよすぎると、全体の印象が薄くなりがちなのだが、主張をしすぎても下品になる。

 その点このお店は、個性がなくなるぎりぎりのラインで品のよさを保っている、ような気がした。

 本格的な、日本の洋食屋さんではあるんですよね。

 と、タスッタさんは思う。

 総じて不満はないのだが、その代わり、全般に印象が薄いといいましょうか。

 そんなことを思いつつ二皿の料理を食べ終えると、店員さんがすぐにブラックカレーを持ってきた。

 このハーフサイズのブラックカレーはもちろんのこと、他の料理も一品あたりの量は控えめ、正直にいえばちんまりとしている。

 品数を多くして様々な料理を味わうためのセットであるから、それはそれで正しい姿なのだが、そうした控えめな感じが特徴のなさに直結しているのではないか、とか、タスッタさんは思う。

 そんなことを思いつつ、タスッタさんはブラックカレーをいただく。

 ブラックカレーは、その名の通りにルゥの色が真っ黒で、ルゥとライスとが別の皿で出てくるタイプのカレーだった。

 色はともかく、その他の見た目の印象では、とろみが強い洋風カレーに見える。

 味の方は、どんな感じなのでしょうね。

 想像をたくましくしながら、タスッタさんはライスの上にルゥをかけ、一口食べてみた。

 ん?

 と、タスッタさんは戸惑う。

 カレーはカレーですけど、辛みが薄く、それどころか、香りもあまり感じないような。

 黒いルゥこそ目立った物の、味の方はその外見ほどには特徴がなく、それどころか、他の料理と同じように「薄い」。

 いや、決して、おいしくないわけではないんですけど。

 タスッタさんは抱いた感想を慌てて打ち消す。

 ただ、正直にいっていまえば、

「どこかで食べたような、特徴のないカレーだな」

 と、そう思った。

 多分、二、三日間を開けたら、どんな味だったのかはっきりとは思い出せなくなるだろう。

 それくらい、無個性で、捕らえどころがないカレーだった。


 それから、なぜか三種類も出て来たデザートを食べながら、タスッタさんは考える。

 たぶんこのお店は、歴史とか伝統があって、同じ味を長い期間に渡って伝えて来たお店なんでしょうね。

 でも、その時間でこのお店の外でも、カレーなり他の料理なりは進歩していくわけで。

 結果、当時は新鮮だったり進歩的だったりした味が、凡庸で埋もれがちな、特徴のない味になってしまったのではないか。

 もちろんこれは、あくまでタスッタさん個人の推測に過ぎないのだが。

 長く続いたお店は、こういう風になることもあるんだなと、デザートを頂きながらタスッタさんは関心をしていた。

 多分、店内で作ってはいないのだろう三種類のデザート、ヨーグルトソルベとプリンとチーズケーキの三種盛りは、これまたオーソドックスな味で、特徴がなかった。

 おいしいことは、十分においしいんですけどね。

 と、タスッタさんはそんな風に思う。

 でも、個性に欠けるおいしさだったら、チェーン店でもファミレスでも提供をされているわけで。

 どこか釈然としない気持ちを持て余しながら、タスッタさんはデザートの三種盛りを食べ続ける。



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