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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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122/180

兵庫県姫路市。居酒屋の姫路おでんと日本酒。

 カウンターとテーブルがあるだけのあまり広くないお店はすでに満席に近かった。

 タスッタさんはかろうじて空いていたカウンター席に案内され、座るや否や店員さんにお薦めの酒を確認し、まずはそれをいただくことにする。

 山陽姫路駅近くの路地を少し入ったところにあるお店で、このお店のことは昨夜泊まった宿の人に聞いて来た。

 かなり評判がいいお店であるらしく、まだ日が沈みきらない宵の口から大勢のお客さんが入って賑わっている。

 居酒屋とかは、適度に騒がしいくらいの方が落ち着きますよね。

 すぐに出て来た冷酒を一口試してみてから、タスッタさんはそっと吐息をついてなにを注文するのか、本格的に考えはじめた。

 メインはおでんだが、その他にも酒肴を揃えているお店だと、タスッタさんは聞いている。

 だけどタスッタさんとしては、このお店ならではのおでんをメインにいただくことに決めていた。

「白菜巻き、タコを」

 タスッタさんは店員さんに最初の注文を通す。

 二人いる店員さんはどちらも女性で、年回りを考えると親子なのだろうか?

 とにかく二人とも物腰がはきはきとしていて、元気に客や注文をさばいていた。

 白菜巻きとタコはすぐに、それこそ一分もしないうちにタスッタさんの前に出てくる。

 タスッタさんが予期していなかったことに、醤油差しに似た容器とすりおろした生姜らしき物までが、料理といっしょに出てきたが。

 これは、おでんにかけるものなんでしょうか?

 その容器とおろし生姜を見て、タスッタさんは少し考えてしまった。

 さりげなく周囲を見渡してみると、みんな普通におでんの具材にその容器の汁と生姜をかけて食べていた。

 煮込み料理であるおでんにさらに味をつけるとか、よくわかりませんが。

 タスッタさんは、そんな風に思う。

 それがこのお店の流儀というのならば、試してみましょうかね。

 タスッタさんは白菜巻きとタコに生姜を乗せ、その上に容器の液体を垂らして食べてみる。

 タコは、普通に絶品だった。

 身がとても柔らかく、普段タスッタさんが食べていたタコとは、味も風味もまるで違う。

 近くにいい漁場があるせいかも知れませんね。

 タスッタさんはそう思った。

 素材の良さと、それに火の通り具合が絶妙だった。

 気になっていた容器の中の液体は、どうやらおでんの汁をベースにさらに生醤油で味を調えたつけ汁のようだった。

 すでにおでんとして煮込まれている具材の上につけ汁をかけることにどれほどの意味があるのか。

 試してみる前はそんな疑問を抱いていたタスッタさんだったが、実際に食べてみるとそのつけ汁とおろし生姜は、実によく合う。

 白菜巻きは、厚切りのベーコンを白菜で巻いて煮た物で、これもまた大変においしかった。

 最初はなにもかけずに、次に生姜とつけ汁をかけていただいたのだが、どちらも甲乙つけがたいほどにおいしい。

 噛むたびに白菜の甘味とそれにおでんの汁とが口の中に広がり、とても贅沢な気分になる。

 なによりタコともども、よく冷えた日本酒に合っていた。

 ここの汁、味がちょうどいいですね。

 タスッタさんは、そんな風に評価をする。

 関西風の、あまり色が濃くない、澄んだおでん汁なのだが、上品な見た目の割に、味は実に濃厚だった。

 甘さと辛さ、そのバランスがちょうどよく、飽きない。

 これは、お酒が進みますね。

 そう思いつつ、タスッタさんは二杯目のお酒を注文する。

 一杯目とは別の銘柄を頼んだ。

 そしておでんの方も。

「赤こんにゃくと大根を」

 さらに二品、追加注文した。

 赤いこんにゃくは、少なくとも関東や東北では見たことがない。

 物珍しさはあったが、食べてみると食感は普通のこんにゃく、味の方はなんだか甘辛い味がついていた。

 甘味も辛味もそんなに強くはないのだが。

「これは、癖になる味ですね」

 タスッタさんは、最初はつけ汁をかけずに食べてみたのだが、単体でも十分においしかった。

 なんだかずっと食べ続けていたくなるような、そんな引きの強い味だ。

 汁がいい具合に染みていて、それにつけ汁をかけるとまた目先が変わる。

 ああ、これはダメだ。

 と、タスッタさんは、思う。

 どうしようもなく、お酒が進んでしまう。

 大根も、どうしようもないくらいにおでんの汁を吸い込んでいて、これはもう食べる前からおいしいことが予想できた。

 そして、実食して、その予想が裏切られていないことを確信した。

 これ、ダメですね。

 と、タスッタさんは、思う。

 なんというか、おいしすぎる。

 おでんの大根におろし生姜をのせて食べたのはこの時が初めてだったが、これが想像していた以上においしかった。

 このお店はダメですね。

 と、タスッタさんはそう思う。

 なにを頼んでも、外れにはならないような気がします。

 外は初夏の、まだ暑さは本格的ではないというものの、湿気は十分に含んだ気候であった。

 お店に入った頃はまだ明るかったが、今ではほとんど日が沈みかけている。

 そんな時分に、暖かいおでんときゅっと冷えた日本酒をいただいているのは、かなり贅沢なことなのではないか。

「今度は、生麩と餅巾着を」

 生麩は、やはり関西以外ではおでんだねにはされていないような気がする。

 とはいえ、タスッタさんも全国のおでんを詳細に調査したわけではないので、確証があるわけではなかったが。

 この生麩と餅巾着は、タスッタさんが予想をしていた通り、おでんの汁をたっぷりと吸い込んでいて、とてもおいしかった。

 ここのおでん汁は、すっときれがありますね。

 と、タスッタさんは、思う。

 食べているときは濃い旨味を感じるのだが、食べ終えた後に、後味を残さない。

 だから、すぐに次の品に移れる。

 いや、いいお店ですねえ。

 そろそろほろ酔い加減になってきたタスッタさんは、そんな風に思う。

 さて次は、なにを頼みましょうか。


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