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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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121/180

栃木県大田原市。公営ホテル内レストランの鮎うどん。

 いい風が吹いていた。

 日差しは少しきつめではあるが、爽やかな天気だった。

 自然公園内という開けた場所でもあり、タスッタさんは初夏の散策を楽しんでいる。

「この公園内のホテルで、変わった食べ物を出す」

 と聞いて、タスッタさんはここまで足を運んだ。

 かなり広い公園で、内部に体育館や自然学習施設なども備えている、とも聞いている。

 合宿所なども兼ねているそのホテルは、公営のその手の施設にありがちなチープさはまるでなく、かなり綺麗で内部のレストランで出す料理もおいしいという。

 洋食も和食も出すのだが、その中でもわざわざ江戸時代の料理法を研究して再現した、というのが、タスッタさんが目当てとする料理だった。


 公園内のそこここに散在するオブジェなどを眺めつつしばらく散策を楽しんだタスッタさんは、ようやく目的の建物へ到着する。

 公営であることを連想させない、なかなかおしゃれな外観の建物だった。

 なによりも緑が多い公園の中にあるというロケーションがタスッタさん好みなのだが、お役所が主体となって運営しているような堅苦しさは一切感じない。

 タスッタさんはその建物の中に入り、まずはホールでレストランがある場所を確認する。

 この建物はホテル以外にイベント教室や研修施設なども兼ねているので、屋内は予想をしていたよりも大勢の人で賑わっていた。

 壁に表示されていた案内板でレストランの位置を確認したタスッタさんは、そのまま館内二階にあるレストランへと向かう。

 中に入ってみるとレストランはかなり広く、やはり公営施設の食堂というイメージからはほど遠い空間だった。

 まず席数が多いし、内装なども洗練されている。

 平日の半端な時間帯ということもあり、お客さんの入りは半分くらいだったが、特に繁華街が近いわけでもない場所なのに、これだけ人がいるのだからむしろ盛況と見るべきだろう。

 タスッタさんの姿を認めた店員さんが、

「どこでも空いているお席へどうぞ」

 と案内をしてくれたので、タスッタさんはそのまま空いているテーブル席へ座った。

 声を掛けてくれた店員さんがそのままタスッタさんの前にお冷やとメニューを持って来て、

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 といい残して去っていく。

 注文する物はここに来る前に決めていたのだが、一応タスッタさんはメニューを開いてみる。

 手頃な価格帯のランチメニューや一品料理と並んで、五千円以上もするコース料理なども普通にメニューに記載されていた。

 料理は、和食と洋食の二種類を扱っているらしい。

 割と、バラエティに富んでいますね。

 メニューの内容を確認しながら、タスッタさんはそう思う。

 少なくとも民間の経営だったら、こういう渾然としたラインナップにはならないのではないか。

 そんなことを思いつつ、タスッタさんは近くを通りかかった店員さんに声をかけ、

「鮎うどんを」

 と、注文する。

 この一日二十食限定メニューはセットではなく、一品料理でしか扱われていなかった。

 完全に早い者勝ちであり、そのためにタスッタさんはまだ午前中だというのに公園内をはるばる歩いてここまで来たのだ。

 なんでも、

「江戸時代に当地で作られていた製法を研究し、そのまま再現した」

 料理だという。

 食材として鮎を使用したうどんは他にもあるかも知れなかったが、そういうこだわり方をした鮎うどんはほとんどここだけではないのか。


 ほどなくして、その鮎うどんがタスッタさんの前に出される。

 どっさりとネギが乗っていて、麺が平べったい。

 麺の形に違和感はありますが、それ以外は普通にうどんに見えますね。

 というのが、タスッタさんの第一印象だった。

 タスッタさんは直接どんぶりを手に持って、まずはスープを試してみる。

 口に入れた途端、ふわっと魚介系の、しかしこれまでに馴染のない風味が鼻腔を抜けていく。

 ああ、これが。

 と、タスッタさんは思った。

 干し鮎で取ったお出汁の。

 確かに一風変わってはいたが、風味その物はタスッタさんが想像していた物から大きくはみ出ていなかった。

 鰹節を初めとして、魚介系の乾物で出汁を取るのは和食の世界では普通に行われているし、タスッタさんもすでにそうした風味に馴染んでいる。

 ただ。

 これは、おいしいですね。

 とも、素直に感じた。

 物珍しさも手伝ってか、干し鮎で取った出汁は、タスッタさんの好みにあったよううだ。

 続いてどっさりと上に乗ったネギもろとも、タスッタさんはきしめんのように平べったい麺を啜る。

 うん。

 と、タスッタさんは思った。

 うどんだ。

 出汁ほどに個性があるわけではなく、形以外はなんの特徴もない、うどんの麺でしかなった。

 無論、おいしいかおいしくないかといわれれば、前者であると答えるのだろうが、その代わり、これといった特徴がない。

 やはりこのお料理の主役は。

 と、タスッタさんは思った。

 この出汁、鮎のお出汁、ですね。

 ずるずると休みなく麺を啜りながら、タスッタさんはそう思う。

 一見して普通だけど、ちょっと変わっている。

 変わっているようだけど、内実はよく知っている物とさほど変わらない。

 あんまり奇をてらうよりは、これくらいのかすかな変化の方が、かえっておいしく感じられる物なのかも知れませんね。

 とか、そんなことも思う。


 一杯の鮎うどんを平らげ、タスッタさんは気怠い満足感を得ていた。

 満腹であることと、それに、満たされた好奇心。

 これが、鮎うどんの味ですか。

 という納得を、タスッタさんは得ていた。

 何度も食べたくなるような味ではなかったが、普通においしかった。

 なにより、今日は天気がいいし、いい風も吹いている。

 ここまで来る途中、絶好の散歩日和だった。

 満足のいくお食事でした。

 タスッタさんは、心の中でそう結論する。




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