北海道旭川市。ファーマーズレストランのゴーダチーズハンバーグAセット。
なんだかもう初夏のようですね。
と、動物園から出たばかりのタスッタさんはそう思った。
この日の旭川の陽気は、まだ四月だというのに、それくらいに感じる。
本州とは違って、空気に湿気が少ない気がするので、多少気温が高くても不快感は少ない。
意外に広い動物園で、予想していたよりも見て回るのに時間がかかってしまった。
時刻はすでに昼下がりをかなり越えてしまっている。
こんなところに、いいお店があるでしょうかね。
そんな風に思いつつ、タスッタさんは歩きながらさりげなく周囲を見渡す。
あった。
というか、そのお店のかなり広めの駐車場の隅に、人が多く集まっていた。
なにかな? と思いつつ近づいていくと、どうやらアイスクリームを販売しているらしい。
「ファーマーズレストラン……ということは、原料などもこの近くで生産した物を使用しているということでしょうか?」
タスッタさんそのお店の看板を見てから、内心でそんなことを考えつつ首を捻る。
絞りたてのミルクで作ったアイスクリーム。
絶対においしいに決まっている。
今は甘い物よりももっとお腹に溜まる物が欲しかった。
アイスクリームの他に、その駐車場の隅では野菜の無人販売所も設置されているようだった、タスッタさんはそこに惹かれる物を感じつつもその横を素通りし、お店の玄関へと向かう。
夕食時にはまだ少し間があり、意外に半端な時間帯であるのにも関わらず、すでに満席に近い様子だった。
入り口を抜けたところでタスッタさんを出迎えた店員さんは、タスッタさんを制止して、
「ちょっとお席があるのかどうか確認してきます」
といい残してすぐに去って行く。
ほどなくして戻り、タスッタさんをテーブル席へと案内した。
場所柄か、タスッタさんの感覚でいえばかなり広めのお店であったが、それでもほとんどの席が家族連れらしいお客さんたちで埋まっている。
一人で四人が座れるテーブル席を占有していいものか。
タスッタさんは密かな罪悪感を覚えながらも、メニューを確認する。
「いろいろありますね」
ステーキにハンバーグ、それにパスタなど。
洋食屋で扱っている料理はだいたい揃っているような印象だった。
ただ、メニューに記載されている写真で判断をするのなら、標準的な料理よりも野菜のサイズが大きいような気がする。
ニンジンなど、ほとんど一本を丸々使っているようだった。
よほど、そうした素材に自信があるんでしょうね。
と、タスッタさんは思った。
さて、どれを頼みましょうか。
タスッタさんは、改めてそう考える。
パスタやピザもよさそうですが、ここは、うん。
ハンバーグにしますか。
ここは畜産が盛んな北海道。
ましてや、素材を売りにしているこのようなお店であれば、お肉や乳製品は外れがないはずだ。
乳製品を味わいたかったらピザでもよさそうな物だったが、今のタスッタさんの気分的にはお肉の方を味わいたかった。
そして、ステーキだと少々重すぎる。
そんなことを思いつつ、メニューに目を走らせていたタスッタさんは、あることに気がついた。
「ランチセットの他に、サイドメニューのセットもあるのですか」
ランチセットにはライスかパンがつくのだが、それ以外にオプションでサラダとドリンクがつくBセット、サラダ、スープ、デザート、ドリンクがつくAセットがある、らしい。
だったら、このAセットをいただきましょうかね。
と、表で見かけたアイスクリームのことを思い出しながら、タスッタさんはそう思う。
ここならばデザートとは十中八九、乳製品を使用した何かになるはずだと、タスッタさんは予想する。
「サイドはAでいいとして」
メインのお料理は、なににしましょうか。
メニューを見返しながら、タスッタさんは検討をする。
お肉を食べたい。
乳製品も食べたい。
となると、やはりこれですかね。
頼む物を決めたタスッタさんは、その場で店員さんを呼ぶ。
タスッタさんが頼んだゴーダチーズハンバーグのAセットとさほど待たずに出てきた。
そのうちのハンバーグは鉄鍋の中に入って給される。
「お熱いのでお気をつけください」
と店員さんに注意をされながら、タスッタさんは鉄鍋の蓋を慎重に外した。
その途端、なんともいえずにおいしそうな匂いが鍋の中から出てきてタスッタさんの鼻孔を刺激する。
「わあ」
と、タスッタさんは小さく声を上げた。
鉄鍋の中でごろっとした野菜とハンバーグが、音を立てている。
いや、より正確にいうのならば、音を立てているのはハンバーグの上に乗っているチーズだ。
よほど熱々なのか、溶けて沸き立って、ぐつぐついっている。
ハンバーグの横には、ニンジン、ジャガイモ、ブロッコリーなどの野菜が湯気を立てていた。
こうした野菜類はあくまで添え物、副菜であるはずであったが、かなり大きなまま、ごろんと調理されている。
なるほど。
と、タスッタさんは思う。
この鉄鍋の中で蒸し焼きにされているから、この大きさでもしっかりと火が通るわけですか。
これは、期待できるなあ。
そんな風に思いながら、タスッタさんはまずハンバーグをナイフで切り分けて、口の中に入れる。
熱い。
最近の流行である、不自然なほど肉汁が染み出してくるような調理法ではなく、しっかりと肉の質感を歯ごたえとして味わえる調理法だった。
はふはふといいながら口の中で少し冷めるのを待ち、しばらく咀嚼して、タスッタさんはその肉塊を嚥下する。
ああ、お肉だ。
と、タスッタさんは、そう思った。
熱々の挽肉と、それにゴーダチーズ。
やや癖の強いゴーダチーズが、いいアクセントになっている。
お肉とチーズ、どちらともがおいしい。
新鮮だから、なんでしょうね。
と、タスッタさんは心中でそう、納得をする。
そして余韻が醒める前に、今度は野菜を大雑把に切り分けて、口の中に入れる。
まずは、ニンジン。
十分に加熱され、すっかり柔らかくなっているそれは、噛んでみるとなんともいえず甘かった。
ニンジンって、こんなに甘い野菜でしたっけ。
そう自問しながら、タスッタさんはまたハンバーグを口の中に運び、しばし味わう。
それから、ジャガイモ、ブロッコリーとハンバーグとを、交互にいただく。
なんだか、どれもおいしい。
と、タスッタさんは感心する。
素材と、それに素材のよさを最大限に引き出そうとする、このお店の調理法のせいでしょうね。
おそらくは、他の場所で同じ材料を集めて同じ料理を作っても、ここの物ほどにはおいしくはならないはずだ。
地の利をとことん生かしているなあ。
と、タスッタさんは感心する。
素材の産地が近いことだけではなく、ここは動物園からすぐ近く。
ロケーション的にいっても、お客さんが集まりやすい場所であった。
なにはともあれ。
と、タスッタさんは、思う。
ここのお料理は、とてもおいしい。
食後に出されたコーヒーを飲みながら、タスッタさんは満足感に浸っていた。
いい、お食事でした。
と、タスッタさんは、そう思う。
この土地のならではの素材を活かした、いい料理だった。
そして、タスッタさんはまた一口コーヒーを飲んでから、スプーンを手にする。
まだ最後の、デザートのアイスクリームが残っている。
量的にはほんのちょっぴり、といった感じだったが、ともかくもここのアイスクリームがどのようなものなのか、タスッタさんは興味津々だった。
そしてスプーンで掬ったアイスクリームを口の中に入れ、タスッタさんはしばらく無言のまま悶絶する。




