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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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112/180

岐阜県海津市。川魚料理店のなまずランチ。

 門前町、という言葉自体は知っていたが、その言葉が意味する正味のところを、タスッタさんはここ千代保稲荷の周辺を訪れてはじめて実感できたような気がした。

 観光客を目当てにして土産物屋や飲食店などもそれなりに多いのだが、それ以外にも古ぼけた、どこに需要があるのかよくわからないようなお店が何軒も軒を連ねている。

 漬物や乾燥椎茸、焼麩のお店などはまだしも地元の特産品として納得もいくのだが、紳士用革ベルトの専門店などどうして商売として成立しているのか。

 タスッタさんとしても疑問に思ったが、実際にそうしたお店を目の当たりにしてみると、それなりにお客さんが入っている。

 つまりは繁盛しているということで、なんだかんだいってタスッタさんには理解不能な理由により、ここではそうした需要が存在するのだろうな、と、強引にでも納得をするしかなかった。

 とにかく、雑多というか猥雑というか、タスッタさんが想定する、つまりは今の日本ではあまり見かけないような店の並びであり、雰囲気を持った一角なのである。

 そして、タスッタさんとしては、そうしたどこか懐かしい印象をおぼえる雰囲気が、決して嫌いではない。

 清潔だけと画一的な雰囲気のあるチェーン店などにはない、独特の味がある雰囲気があるからだった。

 さて、どこのお店に入りましょうか。

 例によってタスッタさんは周囲を見渡して、そんなことを思う。

 こういう町であるから、甘味処などもそれなりに充実しているが、タスッタさんの気分的に、今はお団子などを食べたい意欲はさほど高くなかった。

 そうした甘味系よりは、今はちゃんとしたお食事を頂きたい気分かな。

 人通りはそれなりにあるのだが、小雨のぱらつくこの日、千代保稲荷の近辺はどことなく寂しげな風情を漂わせている。

 そして、しっかりとした食事をするとなると、この近辺では自然と候補となるお店が絞られてしまうのだった。


「川魚専門店、ですか」

 とりあえず、タスッタさんはそのお店に入ることにした。

 川魚専門のお店も、珍しいといえば珍しいのだが、決して存在しないわけではなく、タスッタさんもこれまでに何度か目にしている。

 実際に入るのは、多分これがはじめてのことになるはずだったが。

 入り口のとをくぐって中に入ると、すでに満席に近い状態だった。

 タスッタさんの姿を認めた店員さんがすぐに声をかけてくれて、カウンター席へと案内してくれる。

 店内のお客さんたちは場所柄かそれとも平日の昼間という時間帯のせいか、ほとんどが高齢者の人たちのように見えた。

 タスッタさんがざっと見た限りでは、どうもウナギを食べている人が多いように思う。

「うな重、ですか」

 あれはあれで大変においしい料理だ、と、タスッタさんもそう思う。

 ただ、乱獲がたたって絶滅の危機に瀕しているということだから、食べる機会はなるべく減らしたいという気持ちが強かった。

 こういう半ば観光地である場所では、どうしてもハレの食事がしたいという気持ちはよく理解できるのだが、タスッタさん自身はここでウナギを注文することは避けたいと思った。

「そうしますと」

 タスッタさんはメニューを開いて改めて吟味していく。

 そもそも、川魚の専門店というものに入った記憶がないので、どういう料理があるのかよくわかっていない。

 鯉の洗いというのは、お刺身とは違うんでしょうか。

 メニューの文字を目で追いながら、タスッタさんは漠然とそんなことを考えている。

 そうした疑問について、タスッタさんは基本的に、考えてもわからない場合にはその場で答えを知っていそうな人に質問をするようにしているのだが、店員さんに声をかける目に、ある文字列がタスッタさんの気を引いた。

「なまず」

 なまずのお料理、ですか。

 と、タスッタさんは心の中で思う。

 食用になる魚だということは知っていたが、少なくとも日本の大半の地方ではあまり積極的に食べられてはいない魚でもあった。

 それでは。

 と、タスッタさんはそのばで決意をする。

 なまずとは果たしてどんな味がするのか、実際に食べて確かめてみましょう。


 タスッタさんが実際に注文をしたのは、「なまずランチ」といってナマズの蒲焼にナマズの天ぷら、白ご飯に汁物、お新香がセットになった定食だった。

 このうちの蒲焼きは、蒲焼きといっても実際には「姿焼き」といった方がしっくりとくる。

 つまりは、なまずの生前の姿をかなり残した状態で醤油ベースのたれを絡め、じっくりと焼いた一品だった。

 これでも一応身を開いてはいるのだが、ウナギの蒲焼きのように生前の姿がわからない状態ではなく、どことなく生々しさを感じてしまい、タスッタさんは内心で軽く引いた。

 しかし、よくよく考えてみるとアジの開きなども生前の姿をそのまま連想できる形で調理をされているわけで、このなまずの蒲焼きだけを忌避するのもなんだかおかしいかな、と、そんな風に思い直し、タスッタさんは醤油色にてらてらと表面が光っているなまずの蒲焼きにまずは箸をつけてみる。

 あれ?

 と、一口蒲焼きを口の中に入れてみて、タスッタさんは思った。

 なんだろう。

 タレの味が濃すぎて、どうも肝心のなまずの味がよくわからない。

 淡水魚だからか、もともと淡泊な味わいなのだろう、と、そう想像はするのだが、かえってそれが仇になって肝心のなまず感がどうもよくわからなかった。

 これは。

 と、タスッタさんは改めて居住まいを正す。

 天ぷらの方で、味を確認してみたいところですね。

 そのなまずの天ぷらの方は、お店によると塩だけをつけて食べることが推奨されているようだった。

 天ぷらに塩、というのは素材の味を確認するのに一番の食べ方であるとは、タスッタさんにしても同意できる。

 今度こそは、なまずの味をしっかりと味わおう。

 そんな風に、内心で身構えながら、タスッタさんは天ぷらに塩をつけて食べてみた。

 ふわっとした白身魚、ですね。

 揚げたてだったので熱の方にばかり気を取られて、味は、淡泊というかほとんど感じなかった。

 おいしいといえば、おいしいのかも知れない。

 少なくとも、まずくはないな。

 と、タスッタさんは自身に言い聞かせるように、そんな風に思う。

 でもこれが、何度も繰り返して食べたい味かというと。

 うん。

 これは、かなり微妙なところだった。

 蒲焼きのように、濃い味付けで食べる人の気を引くような食べ方が、この食材には一番いいのかも知れない。

 と、そんな風にも思う。

 なんというか、そのままでは料理の主役にはなりきれない、存在感のない味だった。

 この天ぷらも、塩だけではなくエスニックなスパイス味にしたら、もっと食が進む感じになるような気がするのですが。


 決してまずいわけではなかったので、その後もタスッタさんは黙々と食事を続けて完食をした。

 確かな満腹感は残ったが満足感からはほど遠く、機械的に食べ終えた感じだった。

 完全に外れというわけではなく、でも、あたりというわけでもなく。

 なんだか締まらない食事だったが、たまにはこういうこともありますよね。

 と、タスッタさんはそんな風に思う。



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