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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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109/180

東京都千代田区。スープカレー店のチキン野菜カレー。

 朝からみぞれが降るような寒い日、タスッタさんは靖国通りを歩いていた。

 さらに具体的にいうと、JR山手線の神田駅と秋葉原駅の間にある、ガード下のあたりを。

 まだ正午まで少し間があるというのに、ふと通りかかった場所に行列が出来ているのを目に止めて、タスッタさんは足を止める。

 ああ、担々麺のお店ですか。

 これだけ行列が出来るということは、それだけおいしいお店なんでしょうね。

 そうは思うものの、基本的にタスッタさん的には、よほどのことがなければ行列待ちをしてまで食べ物にありつこうとは思わないのでそのまま通り過ぎようとする。

 確かに今日みたいな寒い日には、ああいう体の中から暖まる、辛いお料理がいいんですよねえ。

 そんなことを思いながらその場から去ろうとしたそのとき、タスッタさんの視野にある文字列が飛び込んできた。

「……スープカレー?」

 靖国通り側からは少しわかりづらかったが、行列が出来ている担々麺のお店、そのすぐ隣の角地に、スープカレーのお店があった。

 入り口が靖国通り沿いではなく角を曲がったところにあったため、お店の存在そのものを見落とすところだったが。

 幸いなことに、こちらのお店の方は行列など出来ているわけではなく、すぐに入れそうだった。

 それならば、と、タスッタさんはそのまま角を曲がったところにあるお店の入り口の前に立ち、さしていた傘を畳んで中に入ろうとしたところで、お店の中にいた店員さんがガラスの引き戸を開けてくれる。

 そのままお店の中に入ったタスッタさんは、入り口のところにあるカウンターの前に立った。

 カウンターの上には写真入りのメニューが置いてあり、どうやらここで先に会計を済ませるシステムであるらしい。

 先ほどガラス戸を開けてくれた女性の店員さんが、

「なんにしますか?」

 と声をかけてきたので、タスッタさんはほんの数秒カウンターの上に置かれたメニューを眺めただけで、たまたま目に入った「チキン野菜カレー」の写真を指さし、

「これをください」

 と注文した。

 そもそも初めてのお店なので、なにを注文していいものか判断がつかなかったし、スープカレーの専門店だから具材以外はほとんど同じなのではないかと、そんなことを即座に考え、深く考えもせずに決定していた。

 料理の料金をその場で支払って、その代わりにレシートを受け取り、女性の店員さんに指示をされるまま、タスッタさんは階段を昇ってお店の二階へと向かう。

 こうしたガード下にありがちなことにかなり狭いお店で、接客をしてくれたその女性店員さん以外は、その奥で調理を担当しているらしい男性店員さんの姿しか見えなかった。


 二階にあがると、ちょうど帰るところであるらしい、スーツ姿の男性二人組のお客さんが、それぞれの手に食器を持ってタスッタさんが昇ってきた階段で降りようとするところだった。

 この時間にお昼にしているということは営業の人たちかな、とタスッタさんは推測する。

 タスッタさんとはちょうど、入れ替わりになった形だ。

 お店の二階部分も一階部分と同様かなり狭く、壁に沿ってぐるりとカウンターが設えてある。

 二人組の男性客が去った後にはタスッタさんしかお客さんが残らなかった。

 もう少し時間が経つと、すぐに満席になるんでしょうね、と、タスッタさんは推測する。

 カウンターの席数は、ざっと見で十席程度か。

 料理を注文するとき、持ち帰りかこの場で食べていくのかと確認をされたから、場所柄的に考えてもどちらかというとテイクアウトの方がメインのお店なのかも知れなかった。

 誰もいない店内をタスッタさんはさりげなく見渡す。

 壁という壁に、隙間なく色鮮やかな、いかにもそれっぽくディフォルメされたキャラクターが描かれているポスターや色紙などが貼られていた。

 タスッタさんにしてみればこうした内装も物珍しいものであったが、秋葉原が近いという土地柄であれば、こういう経営方針もありなんだろうな、と、そんなことを思う。

 色紙やポスターにイラストやサインを残しているのは、過去になんらかの形でこのお店と関わりを持った人たちなんでしょうか?

 などと、そんなことも思った。

 タスッタさんはそうした文化に偏見はなく、というか偏見を持つほど詳しくもなく、単純に物珍しさのみを感じてしばらくそうした色紙やポスターを眺めている。


 注文した料理は、いくらも待つ必要もなく出された。

 接客をしてくれた女性の店員さんが狭い階段を昇って、持ってきてくれたのだ。

 目の前に置かれたチキン野菜カレーを見て、タスッタさんは心の中で、

「わあ」

 と小さな歓声をあげた。

 具材であるお肉や野菜などが、大きい。

 ニンジンなどは丸ごと入っていたし、チキンもジャガイモも、塊がそのままごろりと入っている。

 スープカレーにはありがちな盛り付けではあったが、これは期待できるのではないか、とそんなことを思いつつ、タスッタさんはテーブル上に置いてあった小箱からスプーンを取ってその手に握った。

 まずは、肝心のスープをスプーンで掬って、そのまま賞味してみる。

 あまり辛さは感じず、そのかわり、強い旨味を感じた。

 あれ? と一瞬思ったが、少し遅れてじんわりとした辛さを舌と喉に感じる。

 辛いといっても尖ったような、刺さる辛さではなく、ほんのりと熱を帯びるような、優しい辛さだった。

 うん、これは。

 と、タスッタさんは思った。

 予想していた以上に、いい感じですね。

 そのままタスッタさんはニンジンをスプーンで切り分けて、スープと一緒に一口食べてみることにした。

 ニンジンは柔らかく煮込まれていて、スプーンの縁で押すと、力を入れるまでもなくすっと切り分けられることができた。

 ほとんど歯ごたえを感じないほどに煮込まれていたニンジンは甘く、うん、スープと相性がいい。

 続いてタスッタさんは、スプーンで掬ったスープをライスの上にかけてから、食べる。

 カレーだ。

 と、タスッタさんは思った。

 典型的な、スープカレーそのもの味だった。

 スープ単体で食べてもいいのだが、こうしてライスと一緒にして食べると、なおさらおいしさが引き立つような気がする。

 でも、スープを掬ってライスの上に、というのは、ちょっと煩雑ですかね。

 とそう思ったタスッタさんは、ライスの方をスプーンで掬ってスープ皿の中に浸し、十分にスープカレーを染みこませてから食べてみた。

 よしよし、と、タスッタさんは思う。

 どちらの方法でいいようなものだが、これはこれで。

 そうして何口か食べるうちに、タスッタさんは自分が汗をかいていることに気づいた。

 室内はそれなりに暖房が効いていたが、外ほどではないものの、それなりに肌寒さを感じていたはずなのに。

 どうやらカレーの香辛料が、タスッタさんの体を刺激して発汗させているらしかった。

 汗に気づいて手を当てて確認すると、顔だけではなく首までびっしょり汗に濡れている。

 それに気づいたタスッタさんは慌ててハンカチを取り出して、しっかりと肌の汗を拭い取った。

 そうか、と、タスッタさんは思う。

 テーブルの上にティッシュの箱がそのまま置かれているのは、この汗のせいか。

 ここのスープカレーが、直接飲めるほどマイルドに思えるのだが、その実、体の中から暖かくするような辛さを秘めていたわけだった。

 今日のように寒い日には、ちょうどいいお店ですね、と、タスッタさんは思う。


 そうしてしばらく食べ進めたタスッタさんは、スープ皿の中に鎮座している鶏肉の塊をみて、「さて、これはどう食べましょうか?」と、そんなことを思う。

 この大きなお肉は、スプーンだけで切り分けられるものか。

 疑問に思ったタスッタさんは、テーブルの上に置かれた小箱から箸を取り出して、それでお肉の塊を切り分けてみた。

 想像していた以上に柔らかく煮込まれていたらしく、少し箸を入れただけでお肉はすっと離れる。

 あれ?

 と、タスッタさんは拍子抜けする。

 これくらい煮込まれているのなら、スプーンだけでもそのまま小さく出来たんじゃないでしょうか。

 そんなことを思いながらタスッタさんは一口大になった鶏肉をスープと一緒にライスの上に乗せ、食べてみた。

 ほろほろで、でも、お肉の旨味は十分に残っていて。

 これは、最高の煮込み加減なのではないか。

 ニンジンといい、このお肉といい、どうもこのお店はかなり丁寧な調理を心がけているようだ。

 いえ、基本のスープカレーもかなりいいんですけどね、などとタスッタさんは心の中でつけ加える。


 細かく切れ目が入れられていた茄子は、やはり素揚げをされていたようだった。

 茄子と油の相性はもともといいのだが、油の甘さとカレーの辛味がお互いに引き立て合って、かなりおいしく感じる。

 なんだか、どの具を食べてもおいしいなあ、このお店。

 と、タスッタさんは思う。


 そうしてしばらく食べ進めたタスッタさんは、最後に少しだけ残ったライスの上に、やはり少しだけ残ったスープを、そのままスープ皿を傾けてかけてから、食べる。

 ライスを浸して食べたため、スープ皿の中に米粒が少し残ってしまったのと、それに最後の少しまでじっくりと味わいたいと、そう思ったからだった。

 そうしてときおり汗を拭いつつ、チキン野菜カレーを完食したタスッタさんは、なんともいえない満足感に包まれた。

 いや、とてもいい食事でした、と、タスッタさんは思う。

 東京のオフィス街というのは、面白い場所だなあ。

 あまり目立たない片隅に、こんなに狭くて、でもおいしいお店がひょっこりあったりする。

 もしもまた来る機会があったら、今度は別のメニューにも挑戦して見たかった。

 食べ終えた食器を手にして階段を降りようとしたそのとき、ちょうど新しいお客さんが昇ってくるところだった。

 タスッタさんはその女性客に道を譲ってから、狭い階段を降りる。

 その途中で女性の店員さんが、「ありがとうございます」とタスッタさんに声をかけてきた。


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