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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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千葉県幕張市。ショッピングモールテナント和食店の汐さばあぶり焼き定食。

 その日、タスッタさんは幕張にある大型ショッピングモールに来ていた。

 別に買い物目当てというわけではなく、去年鑑賞しそこねていたある映画がこのショッピングモール内の映画館で再上映されるというので、それを鑑賞しに来たのだ。

 タスッタさんが旅に出ていないときの宿泊場所である船橋市からこの幕張のショッピングモールまでは近く、移動が便利だったという事情もあった。

 基本的にタスッタさんは映画やテレビドラマなど、虚構の世界にはあまり興味がない気質であるのだが、この映画については昨年から再三その評判が聞こえていたし、外国でいくつか賞も取ったらしい。

 隣人の和田さんもなにかの拍子に話題に出していたし、それならかなり特別な作品なのだろうと興味を抱いてふと時間が空いたこの日に出かけてみたのだ。

 結果、二時間あまりの上映時間中、タスッタさんはその映画に釘付けとなった。

「なにか、えらいものを観てしまった気がします」

 ショッピングモールに付属した映画館から出たあとも、タスッタさんまだ若干動揺をしている。

 悲劇であり、喜劇的な部分もあり、幻想的なシーンもあり。

 しかし本質は、一人の若い女性の日常を淡々と描写した映画だった。

 完全なフィクションだとわかっているはずなのに、上映中、その女性が一喜一憂する様子にタスッタさんはすっかり感情移入をしてしていた。

 そして、鑑賞を終えてタスッタさんの日常に帰って来た今の、この虚脱感たるや。

 なんだか、鑑賞をするのにとてつもないエネルギーが必要な映画だった気がします。

 そんなことを思いながら、タスッタさんは吹き抜け構造のショッピングモール内をぼんやりと眺める。

 かなり大型の商業施設であるせいか、平日の昼間だというのにかなり人出が多く、賑やかな様子だった。

 平日でこれなら、お休みの日とかはすごい人出になるんでしょうね。

 とか、タスッタさんはぼんやりと思う。

 時刻的には、昼下がりとしてはかなり遅く、夕方というにはかなり早い半端な時間帯だった。

 どうしましょうか。

 と、タスッタさんは考える。

 すぐに帰宅したい気分ではなかった。

 まだ頭の中でぐるぐると渦巻いているあの映画に対する思いを、どこか静かなところで整理してから帰りたい。

 そう思ったタスッタさんは、

「とりあえず、なにかお腹に入れましょう」

 と結論をした。

 気持ちを整理するのにもエネルギーは居る。

 それに、今日はまだ朝食しか食べていないので、お腹も減っていた。


「目移りがしますねえ」

 通路の邪魔にならない位置に設置されていた案内板の前で、誰にともなくタスッタさんは呟く。

 こういう施設の内部であるから、飲食店には事欠かない。

 そのほとんどがチェーン店らしいことは気にかかったが、こういう場所はだいたいそういうものだろう。

 それに、タスッタさん的には、チェーン店はチェーン店でその長所や存在価値をきちんと認めていた。

 こういう場所では、おそらくは、思いがけずに本当においしいお店には出会えないものと、そう割り切ってもいた。

 目指すは、そこそこの値段で、その値段相応の満足度を得られるお店。

 時間帯からいっても、満席で入れないというお店の方がむしろ希なはずであり。

 しかし、タスッタさん的に戸惑っているのは、

「意外に、高そうなお店が多いんですね」

 という点だった。

 ステーキとか寿司とか和風割烹とか。

 そういう、一食あたりの単価が数千円かそれ以上もするお店に、少なくともタスッタさんはこのショッピングモール内では入るつもりはなかった。

 別に料理に不安があるというわけではなく、それだけの値段がするのならば、料理そのものだけではなく、お店の雰囲気なども含めて楽しみたいと思ったからだ。

 このショッピングモール内では、客層からいっても雰囲気からいっても、そんな落ち着いた食事ができるとも思えない。

 平日の昼間ということもあってこのショッピングモール内に家族連れはあまりいないようだったが、タスッタさんとしてはそれでもなんだか落ち着かないような気がした。

 あまり高級志向ではなく、しかし、ファストフードというほどには敷居も高くはないお店は、と。

 タスッタさんの視線が案内板の上を走査する。

「うん。

 このお店、ですかね」

 タスッタさんは、ショッピングモールの二階にある、ある和食店に入ることに決めた。


 お店の中に入ると、あまりやる気のなさそうな若い男性の店員から、

「あちらの隅の方にお願いします」

 と案内された。

 あまり愛想がない。

 というかあの人は、おそらくはバイトかなにかなんでしょうね。

 と、タスッタさんは想像する。

 時間帯のせいもあってかなり広めの店内はがらがらで、数えるほどしかお客さんが入っていない。

 これだけ空いているのであれば、どこに座ってもさして変わらないでしょうに。

 そう思いつつも、タスッタさんは先ほど店員が示した席に座り、そこの卓上にあったメニューを手に取る。

 メニューは想像していたよりも品数が少なく、そしてこのお店はどうやら「かまど炊きのご飯」が売りのお店であるようだった。

「ご飯と惣菜はおかわり自由、ですか」

 タスッタさんは、小さく呟く。

 あんな映画を観た直後なので胸がいっぱいでもあり、正直食欲はあまりなかったのだが、それでも本当においしいご飯であればおかわりはしてしまうかも知れない。

 だけどまあ、あくまで実際に食べてみてから判断しましょう、と、タスッタさんはそう思い直す。

 どうやらこのお店としては二種盛りの定食がお薦めのようだったが、タスッタさんは前述のようにあまり食欲がなかったので、もっと軽く食べられそうな物を選んだ。

 汐さばのあぶり焼き定食。

 これならば、大きく失敗することはないでしょうと、そう思える選択だった。

 店員さんに注文をするとき、惣菜というか副菜も三種類選ぶことになっているらしく、タスッタさんは浅漬け、ナスの炒め煮、いんげんの胡麻和えを選ぶ。

 これもまた、失敗しなさそうな物をあえて選んだ形だった。


 さて、こちらのかまど炊きのご飯は、どんなもんなんでしょうかね。

 タスッタさんがそう思いながら待っていると、さほど待つこともなく料理が出てくる。

 うん、普通の焼き魚定食だ。

 タスッタさんはそう思う。

 飛び抜けておいしい物が出てくることは最初から期待していなかったので、タスッタさんとしてはその普通で満足だった。

 タスッタさんはまず味噌汁の椀に手を伸ばし、その中身を賞味する。

 可もなく不可もなく、かな。

 と、心の中でそう思った。

 おいしくないわけではないけど、なぜか少し冷めているような気がした。

 ですが、こういう場所で過剰な期待をしても。

 そう思い直し、タスッタさんは、今度はご飯茶碗に手を伸ばす。

 そして、かまど炊きだというそのご飯を箸ですくって一口、口の中に入れる。

 そして、その途端、タスッタさんは失望した。

「……これ、少し表面が乾燥していません?」

 本来はかなりおいしい炊き上がりであったのかも知れない。

 が、それも、炊き上がってからしばらく放置すると、目に見えて風味が落ちていく。

 ご飯というのは、そもそもそういうものなのだ。

 炊き上がってから二時間以上経ったご飯は廃棄するように指導している飲食店もあるそうだし、逆にいえば、家庭用の炊飯器を使って普通に炊いただけでも、炊きたてならば十分にうまい。

 でもこのお店のはその逆で、かなりこだわりの方法で炊いておきながら、せっかくのおいしいご飯を、そのおいしさを、故意に無駄にしている。

 これは、ちょっと。

 と、タスッタさんはかなり白けた気分になった。

 かまど炊きとかを売りにする以前の問題なのではないか。

 その後に食べた汐さばあぶり焼きも、浅漬け、ナスの炒め煮、いんげんの胡麻和えなどの惣菜もごく普通においしいと思えたが、ご飯の扱いのぞんざいさがどうも気にかかって、素直に食事を楽しめない。

 タスッタさんはなんだかとても残念な気分になっていた。

 当然、なにもおかわりをしないまま、タスッタさんはそのお店を後にする。


 戦時中はあんなに食べる物がなかったというのに。

 帰路、タスッタさんは先ほど鑑賞した映画の内容も含めて、複雑な気分になった。

 なんで食べ物をあんなにぞんざいに扱って、平気でいられるのでしょうか。

 タスッタさんにしてみれば、おいしい食べ物をあえておいしくない方法で食べるのは、どうしても許しがたい気分になったのだ。

 いつもは、そこまで深刻に考えることもないのだが。

 あのお店も、立地から考えればそれなりに繁盛はしているのでしょうが、もう少し商品であるお料理に真剣に向き合ってもいいのではないか。

 タスッタさんはそんなことを、いつまでもぐるぐると考え続けていた。



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