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腹ぺこエルフさん放浪記  作者: (=`ω´=)


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奈良県磯城郡田原本町。パンケーキ専門店のリコッタパンケーキとコーヒー。

 国道二十四号線沿いにしばらく歩いていくと、ラーメン屋や車屋の敷地に挟まれた形で茶色いレンガの建物があった。

 その建物は二階建てであまり大きくはなく、その一階部分に大きな木製の扉があって、英語表記で店名が記されている。

 一応、看板もあるのだが扉と同じく英語で店名が記されているだけであり、お店が少し奥まった場所にあることと相まって、かなり目立たないお店であるといえた。

 おそらく、通りかかった人の大半はそこにそんなカフェがあることにすら気づかずに通り過ぎていってしまうのではないか。

 とか、タスッタさんは思う。

 そういうタスッタさん自身も、宿の人にこのお店の場所を聞いていなければ、そこにお店があるとは絶対に気がつかなかっただろう。

 そんなわかりにくい場所にあるカフェはパンケーキの専門店であり、食べ物はパンケーキしか扱っていないということだった。

 名ニューは数種類のパンケーキとそれにアルコールを含むドリンク類だけだという。

 ある程度の都会ならば珍しくもないのだろうが、街道沿いにある郊外型のお店としては、そうした専門店はかなり珍しいといえた。

 それでも経営が成り立っているということは。

 と、タスッタさんは考える。

 きっと、出すお料理がおいしいからに経営が傾いていないのに違いない。


 中に入ると黒一色に統一された内装で、カウンターの椅子その背もたれだけが白く浮いている。

 カフェということだけあって、かなりお洒落な雰囲気だった。

 カウンターの中の女性がタスッタさんの姿に気づくと、

「どうぞカウンターのお席にお座りください」

 と案内をしてくれる。

 カウンター席以外にテーブル席が二つだけの、こじんまりとしたお店だった。

 お客さんは二組、それぞれ女性同士のグループが二つ、テーブル席を占拠しておしゃべりに興じている。

 場所柄から考えても、お客さんの回転はあまり激しくなさそうだと、タスッタさんは思った。

 タスッタさんがカウンター席に座ると、カウンター内部に居た店員さんがメニューとお冷を出してくれる。

「ごゆっくり」

 とタスッタさんにいい残して、トレーに乗せた料理を持ってカウンターから出て、テーブル席にいった。

 他に店員さんらしい人影は見当たらず、どうやらこのお店は、彼女ひとりで切り盛りをしているらしい。

 タスッタさんはメニューを開いてその中を確認する。

 そして、「ん」と、唸った。

 予想外に、品数が多い。

 ドリンク類もだが、パンケーキの種類が多かった。

 フルーツなどを使ったデザートも多かったが、あまり甘くない、食事系のパンケーキもちゃんと、何種類か存在する。

 本当に、パンケーキの専門店なんだなと、タスッタさんは関心をした。

 静かな落ち着いた雰囲気と、このメニュー。

 実は、隠れた名店なのではないか。


 時間をかけてメニューを検分した結果、タスッタさんはリコッタパンケーキとコーヒーを注文する。

 あまり甘い物を食べたい気分ではなかったからだ。

「パンケーキは焼きあがるまで三十分ほどお時間をいただきますが」

 すると注文を受けた店員さんは、間髪をいれずそう返してくる。

「三十分ですか」

 タスッタさんは反射的に、そう口に出していた。

 それから、

「ええ、それで構いません」

 と、続ける。

 そもそも、このあとに急ぎの用事があるわけでもない。

 店員さんはそのままコーヒーをいれはじめ、三分ほどしてかなり大きなマグカップに入ったコーヒーをタスッタさんの前に出した。

 店員さんはそのままパンケーキの生地を捏ねはじめる。

 慌てた様子はないが全体にキビキビとした挙動で、見ていて気持ちが良かった。

 三十分も時間がかかるというのは、おそらくは火の通り具合などの関係で時間がかかるということなのだろう。


 その三十分の待ち時間を、タスッタさんは持参した文庫本を開いて読みながらゆったりと過ごした。

 実のところ、タスッタさんはそういう待ち時間が決して嫌いではなかったし、それにタスッタさんの故郷は日本よりも様々なことがかなりゆっくりとしている場所だったので、食事をするためにこれだけ待たされてもあまり苦にはならないのである。

 むしろ、郷里での生活を思い出して懐かしささえ、感じてしまった。

 タスッタさんの感覚でいえば、注文をしてからいくらもかからずに出てくる料理店の方がせっかちに思えるのである。

 そろそろ日本に来て丸二年になろうとするタスッタさんは、流石に日本のテンポに慣れてきてはいるのだが、こうしてときおり予想外に「待たされる」ことがあると、この待ち時間の感覚に郷愁を憶えてしまうのであった。


 ようやく焼きあがったパンケーキは、お皿の上にかなりふっくらと膨らんだものが三枚も乗せてある。

 かなりボリュームがあり、これだけでも十分に満足感があるな、と、タスッタさんは思った。

 タスッタさんはナイフとフォークを手にとってパンケーキを切り分け、その一片の表面に付け合わせのクリームらしきものを塗ってから口の中に運ぶ。

 しっとりふわふわな歯ごたえと、それに、思ったよりも甘さが控えめの生地だった。

 クリーム状の物体はサワークリームであり、甘さを控えた生地とよく合っている。

 これまでタスッタさんが食べてきたどのパンケーキにも負けていない、食感と味だった。

 タスッタさんは食べながら、

「これなら、都会のカフェにも引けを取らないんじゃないですかね」

 などと思う。

 日本の飲食店というのは、こうした目立たない場所にあるお店でこうした逸品に遭遇することがあるから面白い。

 パンケーキの味だけではなく、たっぷりと提供されたコーヒーやゆったりと誰にも邪魔されない時間も含めて、このお店の長所だと、タスッタさんは思った。

 場所代が高くつき、お客さんの回転数を気にかけねば経営もままならない都会では、こうしたお店のやり方は通用しないだろうな、とも思った。

 見事だな、と、タスッタさんはこのお店について、そう思う。

 店員さんの態度から店内の雰囲気、提供する料理までをひっくるめて、ひとつの作品であるような気がした。


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