第47話 ルシファー様、やっぱりブン殴る
「DNA鑑定を受けた経験がありますが……普通の人間という結果でしたよ」
ベルさんの言葉を拒むカルザヴァンにアスモデウスは更なる追い打ちをかける。
「それでも現実として翼や魔法は存在しますので、まだ科学が解き明かしていない不思議な力というのはあるのでしょうね。ですが」
そういえばじいさんの作った透明マントを思い出す。きっとあれも不思議な力って奴を応用したものなのだろう。
「私達は生き物として、人間である事に変わりはないのです。以前の戦いはそれに気づかずに苦労しましたが……怖いですね、思い込みというものは」
アスモデウスは男を笑う。その無知を傲慢さを、悪魔のように嘲笑った。
「いつでしょうね……人間が、いえ」
人間という単語を彼女は言い直した。その大きな括りの中には、もう。
「我々が貴方達に追いつくのは」
自分達も含まれているのだから。
「……違う!」
だが届かない、理解されない。
「違う違う違う違う! 我ら特別な存在として生み出されたのだ! それを、下等生物と同じだと!? ふざけるなふざけるなふざけるなあっ!」
人を見下し自分達を特別だと思いこんでいた哀れな人間が聞き入れる筈もなかった。
「いやーやっぱりこうなるよねーっ。アスモデウスったら性格悪いんだからぁ」
「貴方には負けますよ」
もっともうちの悪魔二人はその様子が見たくてこんな回りくどいことをしていたようだが。
「おいそこの二人! 口ではなく手を動かせ!」
「いちいち雑魚が多すぎる……元を断たないと!」
戦線に復帰するなり雑魚の相手に勤しんでいるヒーロー二人から文句が飛んでくる。アスモデウスとベルさんは互いに肩を竦めると、そのままモンスターの相手へと飛び込んでいった。
「みなさーん、終わったら飲み物冷えてますからねーっ!」
「そりゃ楽しみだ……ねぇっ! 行くよ皆、帰ったら祝杯だよ!」
「そりゃあいい! オレが奢るぞ野郎ども!」
「おじいちゃん、また飲みに行くの!? 最近ずっと出歩いてたじゃん!」
狭山さんの声にベルさんが喜べば、生身でも強い大河さんも戦いに身を投じる。たまらずヒカリがツッコミを入れれば、戦いの最前線が奥へ奥へと進んでいく。
そして残されたのは俺と哀れなカルザヴァンの二人だけで。
「同情するよ、一応さ。俺だってなーんにも知らされて無かったんだから。天使はいなかったかも知れないけれど、悪魔ってのはああいう連中の事を言うんだろうな」
身内二人の所業を思い出し、一人うんうんと頷いてみせる。
「一緒にするな、この汚らわしい忌み子が!」
「わぁ差別発言」
忌み子はないだろ忌み子は言い過ぎだろ。
「けれど、そういう言葉も出てくるよな」
だけど思い直す。眼の前にいるのは完璧で特別な天使なんかじゃない。
「お前だって、何かでどこかを間違えている……人間なんだから」
どこにでもいるような、ありふれた存在なのだから。
「糞が糞が糞が糞があっ! 売女の股から落ちた猿もどきの分際でえっ! それが私と、我々天使が一緒だと!? 糞がああああああああああああああああああっ!」
今度の挑発は効いたのか、カルザヴァンがこっちに向かって突撃して来る。
「けど、その発言は!」
だから、腰を深く落とし構える。それから大河さんがやっていたように、力を拳に集中させて。
「運営に」
一歩踏み出す。前へ、足を。
きっとそのやり方が。
「BANされちゃうだろうがよっ!」
人間らしいって思えたから。




