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第24話 ルシファー様、社長になってた

「見えるかアスモデウスよ、このタワマン最上階からの景色が……」


 港区にあるタワーマンションの最上階で、俺は東京という街を一望していた。


「ええ、良い眺めです」


 何せ今の俺は、社長。これぐらいの役得は当然じゃあないだろうか。


「してアスモデウスよ……今日の昼食は?」

「はっ、カツカレーチャーシューメンの大ライスと餃子のセットでございます」


 昼食を促せば、あのドラマとかで見る銀のドームがカパッとあいて、昔テレビで見た気がする夢のような食べ物が顔を出す。


「やはりカレー味には白米がないと、な」


 そして食べる。これ箸とスプーンどっちで食うのが正解なんだ? まぁいいや。


「してアスモデウスよ……今日のお小遣いは?」

「はっ、こちら六千兆円でございます」


 彼女が頭を下げれば、六千兆円札を俺に手渡してくれた。札の偉人はもちろんじいさん。いや人選ミスじゃないかこれ。


「おいおい~こんなじゃヒカリさんとの夕食代にもならないはした金だよぉ~」


 しかしたった六千兆円札一枚で何をしろというのかなアスモデウスよ。こんなんじゃシェフの一族郎党ごと雇い上げて晩飯作らせたら終わりじゃあないか。


・んなわけねーだろバーカ

・算数しろ算数

・調子乗ってて草 逆スパチャはよ

・レターパックで現金送ってくれ


「はっはっは、愚民共のさえずりも心地いいなぁ」


 コメント欄の愚民の遠吠えが心地いい……あれ、配信してたっけ俺。まぁいいや、何せ。


「今の俺は……社長だからな!」


・社長就任おめでとうございます!

・すいませんボーナス振り込まれてないんですけど

・現金プレゼント企画まだですか?

・ツバサくん、ツバサくん

・レターパックで現金送れは詐欺


 はいはい次な配信はレターパックで現金送る企画やりますよっと。


「はっはっは、今日の晩飯はステーキとしゃぶしゃぶと焼肉だぞぉ」


・ツバサくん!


 牧場ごと牛を買って、製鉄所ごと鉄板を買って。


「それでPCも買い替えて車とバイクの免許も取って、それから」


 いやー迷っちゃうなぁお金の使い道にでもいいやどうせ日本という国をいや世界そのものを金の力で平伏させれば良いだけだ。


 だって俺は……社長だからな!




・ツバサくん、講義終わったよ!?





 




「んがっ」


 ガタッという音と衝撃、それから賑やかな学生達の声。顔を上げてようやく、自分の居場所が港区のタワマンではなく大学の講堂だと気づく。


「……えっ、あっヒカリさん? そっかこの講義取ってたんだ」


 漏れていた涙を親指の腹で拭いながら、夢の世界から引き戻してくれた彼女に挨拶する。


 が、その表情はどこか不満そうで。


「その……さ。ヒカリ『さん』って辞めてほしいなって言ったら、私の事めんどくさい女だなって思うかな」

「理由、聞いても良い?」


 回りくどい頼みに、まだうまく回らない頭と口で質問する。何か今の態度で良くないところでもあったのだろうか思えば彼女には迷惑かけてばかりだ直せるところがあるなら直さ。


「最近ルシファーって奴にそう呼ばれ」

「ヒカリ、おはよう」


 満面の笑みで挨拶をする。眠気はもう消え失せていた。


「あっ、うっ、うんおはようツバサくん……」


 少し驚いた彼女は咳払いで調子を取り戻すと、指先を遊ばせながら言葉を続ける。


「そ、それでもし良かったらさ、一緒に学食でもどうかなって……思ったんだけどさ、予定ある?」

「えっそれって」


 それはその、大学生の男子ならちょっと勘違いしそうになる奴じゃないだろうか?


「あっ! 下心があるとかじゃなくて! その、一緒に食べてほしい理由は」

「見て見て、ルシファーの配信に出てたシャイニーってあの子なんでしょ?」

「うっわあの年でヒーローごっこやらされるとか可愛そうだよね……」


 聞こえてくる他の生徒達の会話に、淡い期待は消え失せて。


「よし、学食行こっか!」


 自分で蒔いた迷惑の種を刈り取る準備をし始めた。




 例のウエノダンジョンの配信が金曜で、土日挟んで今日は月曜。して二日間という時間は人の噂を行き渡らせるには十分過ぎて。


「あっ、あっあのシャイニーさん! いつも配信見てます!」

「私は配信なんてしてないけどね……」


 食堂に向かう道すがら、知らない男子に話しかけられ。


「おっシャイニーじゃないか! うちのじいちゃんがウォーリアのファンだからサイン貰えたりしないかな!?」

「そういうのやってませんから……」


 券売機の前に並べば、名前もわからん教授に声をかけられ。


「あのねヒカリちゃんそりゃあおばちゃんも若い頃は悪い男と遊んだ事だって一度や二度じゃないわよけれどねあのルシファーってのはぜーったいやめといた方がいいと思うのわかるよわかるわよそりゃあねぇ悪い男の方が魅力的なのは女の本能って奴がそうさせるものねけどね年を取ると思うのよ何であの時はあんなバカが格好良くみえたのかなってだから一時の迷いになんて流されないで強く気持ちをもって欲しいってのがおばちゃ」

「すいません唐揚げ定食一つ……」


 食堂のおばちゃん話長っ。




「なんていうか、その……凄いね」

「これでも朝よりはぜんっぜんマシだけどね。ツバサくんのおかげかな」


 おばちゃんの手によって昔話みたいな特盛にされた白米の山を箸で崩しつつ、彼女が呆れ混じりの声色で教えてくれる。


「そ、そうかな」

「ていうかごめんね、全然ツバサくんに関係ない話で」

「あーいや、俺もその、知ってるよ……ルシファーってのが酷いってさ」


 俺もネットニュースで見たよ、みたいな体で誤魔化す。ごめんなさい原因は俺です。


「そう、そうなの! 本当許せないよね、何の権利があって私の個人情報ばらまいてるんだーって」


 本当にその通りでございます。


「あっ飲み物! 何か買ってこようか冷たい奴!」


 ので、話題を変えようと無理矢理な提案をする。小遣いも増えた俺にはもはや金の力で解決するという選択肢を取れるようになっていた。


「……ツバサくんってさ」

「はっはいっ!」


 しまった話題の変え方怪しかったか……?


「優しい、よね」


 セーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーフ。


「何が良い?」

「じゃあ……甘いやつ、炭酸以外の!」

「よしっ十本ぐらい買ってこないとな」

「もう、そんなに飲めないよ?」


 小さく笑う彼女に背を向け、入口前にある自販機へとダッシュする。


・カス

・ゴミ

・クズ

・◯ね


 脳裏にはありもしない辛辣なコメント達が書き込まれるが、どうかこれだけは言わせて欲しい。




 大変申し訳ございませんでした。




 よしカフェオレとスポドリ買って好きな方選んでもらうか。


「……だからさぁヒカリちゃん、ウチのダン配サークルほんっとうにオススメだからさ、是非入ってくれないかなーって」


 やっべまた絡まれてる急がないと。








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