第20話 ルシファー様、RTAする
「なんとか雑魚は対処出来たな……」
かよぽんやその場に居た探索者達の協力もあり、地上に出てきたモンスター達を何とか一層に押し込めた。と言うわけで俺達は二層の入り口へと到着していたのだが。
「さて、急ぐいで十層に向かうぞルシファー」
「よしきた」
急ぐと来れば床を殴る。また穴を開けてショートカットしようとした途端。
「待て待て待て! 穴なんて開けたら下からモンスターが来るだろうが!」
「……でも普通に降りるの面倒だし」
「私はさっきやったんだが?」
あっうんそうですね……。
「わ、た、し、は、や、っ、た、ん、だ、が?」
渋々立ち上がり足首を伸ばす。急いで来いと言われたので、全力で急ぐしか無いのだが。
・ちなみに普通なら一層毎に一時間が目安だからな
・今回はバグ技なしかぁ
・はい、よーいスタート(棒読み)
くそっ、人類の危機を楽しみやがって愚民共がよぉ。
走って雑魚をなぎ倒して、三層ボスのジャイアントオーガ目掛けて飛び膝蹴り。
「よし三層ボス終わりぃ!」
・はやい
・やばい
・すごい んだけどさ
なんだ愚民共、文句あるのか? 世界記録だぞ喜べよ。
「大変だルシファー……映像が変わり映えしない」
「今それ気にするところ!?」
深刻な面持ちのヒカリさんの言葉に思わず大声が出てしまう。
「たっ確かにそうだ……だがこのタブレットを見てると否が応でも理解するんだ、視聴者が飽きて来ているんだなと」
・ごめん、ちょっと飽きて来たんだわ
・悪いなルシファー様 俺達も大分毒されてんだわ
・さっき似たような映像見せられたし
・アスモデウスさんもいないし……
「我慢しろ愚民共!」
カメラに向かって親指を下げて見せるものの、グチグチと文句を書き連ねる愚民共。
「どうする、何か派手な事して盛り上げたほうが良いのか……がっ、合体必殺技とかどうだ盛り上がらないか!?」
「こんな状況で配信見てるカス共に同情するな!」
・半分は当たってる 耳が痛い
・正論パンチやめろ
・避難所でスマホから見てます~
「ちょっと貸してくれ!」
ヒカリさんからタブレットを受け取り、何か無いかと中を漁る。
「愚民共なんてなぁ」
おっプレミア公開予定動画ってのがあったなもういいだろこれどうせ絵が動いてたら何でも良いんだろお前らはよぉ。
「適当な動画見てりゃいいんだよ!」
配信画面を操作して、大きな画面に動画を映す。タイトル、中身? 知らんわそんなもん。
・みなさまのためにぃ~(幻聴)
・親の声より聞いた声かな
・もっと親と会話しろ
『秘密結社アルカディアの歴史① ~創生の時代編~』
と、再生した瞬間にアスモデウスの声が響いた。ちゃっかり自分でナレーションしやがって。
『遠い昔、今からおよそ二万年前。この地上とは別に、楽園……エデンと呼ばれる神々の棲まう土地がありました』
「へぇーっ」
「ちょ、前見て!?」
とりあえず愚民の興味は持たせられたらしいので、さらに四層を駆け抜けていく。ところでヒカリさん俺の手伝いに来たんじゃなかった?
『エデンに棲まう神々は自らに似せた翼のない生物を、そう人類を生み出しました。しかし知恵のない人類は、神々にとって嘲笑うだけの娯楽でしかなかったのです。両の手で飛ぼうとする男を笑い、川に溺れた女を笑い。人類という存在は神々を喜ばせるためだけの道化でしかなかったのです』
よしボス部屋発見中開けるぞうわぁデカいスライムだ喰らえルシファーチョップ!
「よし四層ボス倒した!」
『それを良しとしない存在が現れました。そう、それこそが初代ルシファー様です』
・やるやん
・さすルシ
「それ頑張ってる俺に対するコメントだよな!?」
そのまま五層を走り抜ける。ちなみに雑魚はもう体当たりだけで倒すことにした。
『御方は蛇へと姿を変え、人類に知恵の実を与えました。幸いこの時はまだルシファー様の導きだとは知られませんでしたが……怒り狂った神々は人類を地上へと堕としたのです』
よしボスいたわ何だっけこいつの名前まぁ良いやルシファーローキック!
『神々は人々に試練と称し、ありとあらゆる罰を与えました。時には言葉を奪い、時には洪水を起こし。それでも神に縋り付く姿は新たな娯楽とされてしまったのです』
「ひどい事するね」
「うんそうだねそれより手伝ってくれない!?」
くそっ、倒したら強化して復活するタイプじゃねーかルシファーハイキック!
『それに心を痛めたのも、やはりルシファー様だったのです』
「五層ボス倒したぞ! 倒したぞ!」
・やっぱルシファー様よ
・すげぇなルシファー様
俺だよな、凄いの俺なんだよな!?
『彼は他の神々に説得をして回りました。もう人類への干渉はやめるべきだと、人の世界は人の手で作り上げるべきだと。神々に与えられた楽園ではなく、自らが勝ち取るべき理想郷……アルカディアこそが目指すべき世界なのだと』
・タイトル回収キター!
・だからアルカディアなのね納得したわ
・ネタにしてごめんなさい
うおおおおお六層はさっきやったから覚えてるぞおおここ右ここ左真っすぐ行ってボスだぞやたらデカい蛇じゃねーか喰らえルシファーコブラツイスト!
「六層ボス! 六層も終わったからぁ!」
「そんな理由だったんだ」
ヒカリさん? 撮影係は動画に夢中にならなくて良いんだよ!?
『賛同した神々はごく僅か……たったの七人だけでした。それでもあの御方は仰ったのです。自らが戦う姿を人に見せなければ、永遠に人は神に縋る愚者のままだと』
よし七層も覚えてるわここのボスいたわカメエエエエエエエエルシファーカカトお落とし!
『そして彼らは戦いを挑み……敗北しました』
「よし七層にも勝った!」
・紛らわしいこと喋んな
・いま動画見てるんだけど
・ちょっと黙ってて
・邪魔しないで
愚民共めこっちは爆速で世界記録更新してるってのによぉ。
『しかし神々も無事ではありませんでした。エデンを維持するだけの力を失った彼らはより上位の世界である天界へと逃げ出したのです』
よしっ、ちょっと、呼吸を、整えてっと。
『神々が天界へと逃げたおかげで、地上は神々の干渉を以前より受けなくなりました。しかし完全に手出し出来ない訳ではありません。その証拠に』
八層ね八層覚えてる覚えてるボスは何だっけえーっとあやべ今のところ右だったくそっ壁ぶっ壊すかバレないだろいけるいけるいけたわ皆動画に夢中だもんな。
『ダンジョン』
よしサイクロプスミノ……ミノス……まぁいいやルシファー……パンチっと。
『バベルの塔、ノアの洪水。それらに並ぶこのふざけた存在こそ、まだ神々が人類へ干渉している証明に他ならないのですから』
・感動した
・完全に繋がったな……
・ルシファー様万歳! アルカディア最高!
・8888888888
「よし八層も終わった、ぞ……」
『それでは次回、秘密結社アルカディアの歴史② ~激動の昭和編~ へと続きます。ご期待ください』
いやもうキツイってこれマスクつけてコート着てやる事じゃないだろどう考えても。
隣のヒカリさんは大丈夫かなと様子を伺えば、何やらタブレットの前で呆然としていた。そんな要素あったかなアスモデウスのいつもの話をまとめましたって感じだったけど。
さあて残すは九層かと足を前に出した瞬間、思い切り肩を掴まれる。
「待ってくれ、ルシファー」
「……今度は何!?」
もう動画終わったよね!?




