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33.楽しいお話


「……こんにちは、あなたとは初めましてよね。今はいくつ?」

「……十四歳」


 壁の近くにずっと立っていた女の子に声をかける。私のことを一番冷ややかに見ていた子だ。少女は気まずそうにそっぽを向いた。


(ロザリー様の手前、ひどい態度はとれないけれど、私のことはなんだか思うことがある、って感じよね)


 ちょっと怪しいのでは――そう思って彼女にいくつか簡単な質問をする。どこの生まれなの、とか、どういう経緯でここに来たの、とか。

 彼女は無愛想ながらも淡々と答えてくれた。


「……あ、あたし、あんまり人と話すの得意じゃなくて、聖女様みたいな人と……どう話していいのかわかんないから、ほら、他の子たちはもっと話したそうだし、そっち行ったら」


 なんであたしに声をかけたのよ、感満載で少女は言う。

 しかめ面で本当に嫌そうだったので、ここは引き下がることにする。


 他にも何人か、彼女と似たように私から距離を置こうとしている子に声をかけたけれど、やっぱりこれだけじゃ『聖女』かもしれないという確信は得られなかった。


(うーん。それこそやっぱり、事故を装ってちょっと怪我してもらうとかでもしない限り、『聖女』を特定するなんてできないのかしら。でも、そんなこと……できないわよね)


 過去にあったという『魔女狩り』の話を思い出す。

 今、私とジュードがしようとしていることはそれに似ている気がする。本当にいるかもわからない存在を炙り出すために躍起になっている。これで特定するために人に危害を加え始めたら、まさしくそれになる。

 それはダメだ、人として。


(ジュードは……)


 チラリと様子を見ようと金髪頭を探してみると、彼はずっとカメリアという少女と話し込んでいるようだった。


「……そうか、カメリアは刺繍をするんだね。前に兄が季節の花の刺繍されたハンカチを持っていた。もしかして、君が作ったものかな」

「えっ、クラークス様、持っててくれたの!? うん、ヒマワリの刺繍のハンカチを贈ったよ!」

「そうか。兄にしては珍しい趣味だと思ったけど、君が作ってくれたものだったんだね。大事に持っていたよ」

「えへへ……嬉しいな。毎日練習してるんだけど、あたし、なかなかうまくならなくて、昨日も間違えていっぱい指を刺しちゃった」

「大丈夫? 針は痛いだろう」

「うん、すぐ治るから。クラークス様はあたしがどんなに下手くそでも絶対に褒めてくれるの、でも、おせじなんだろうなって思ってたからほんとに持っててくれたなんて、えへへ」


 二人がのんびりと和やかに会話を楽しんでいた。

 ジュードは兄弟ということもあって、外見の雰囲気や、王子様モードのときは話し方も少し似ているせいか、人見知りというカメリアもなんだか饒舌そうだ。


(カメリアは『聖女』じゃないはずだけど……他の子たちの様子は見ないでいいのかしら)


 正直、私よりもジュードの方が洞察力も判断力も優れているからジュードにこそ注意深く他の子たちも見てほしいのだけど――。


(……でも、あの子、あんなに楽しそうにお話ししている。ロザリー様が言うには引取先に困っているほど人見知りがあるという話だし……)


 そういえば、カメリアがジュードのそばにやってきたばかりのときにはすぐ傍らに控えていたロザリー様は、いつの間にか二人から遠く離れていた。


 ふと、ロザリー様がいるほうに視線をやるとバチッと目が合う。そして、なんとも言えない微笑みを返された。

 それからロザリー様は少し心配そうに眉をしかめながらも、ジュードとカメリアの二人にもう一度目線を戻した。


(……ロザリー様。カメリアがロザリー様やクラークス以外の人物と楽しそうに話しているのを見守りたい、ってお気持ちなのかしら)


 ……急いで『聖女』を見つけないといけない、という目標はあるけれど、一人の女の子が楽しそうにお話しするのを無理に切り上げさせるのは野暮だもの。

 私もさっきロザリー様がしたのと同じような表情をしながら、彼ら二人から目を離した。


 ◆


 それから、ロザリー様が使用人たちを集めてくださったプチパーティはお開きとなった。


 片付けはそのまま使用人である彼らがしてくれるようで、ロザリー様はいくつか指示を出すので会場に残り、私とジュードだけ先に客室に案内された。


「――アイツだ」


 部屋に二人きりになった瞬間。ジュードが呟く。


「カメリア。アイツが『聖女』だ」


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