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蒼空のシリウス 十話

最終話まで平日の夜9時に毎日更新します。

(注)カクヨムでも掲載されています。


 最終確認を終えて約二時間後。

 弱い雨が降り続け、黒い雲が空を覆っている夕刻。

 第七駐屯地周辺には独特な緊張感が漂い始めていた。

 既に全てのデルガルにはアルカナ軍のライダーが乗り込んでおり、基地を囲むように複数の三機構成の小隊が配置されている。

 神住が乗るシリウスは第七駐屯地基地の左側の位置で一つの小隊と共に待機していた。


「フェイカーの襲撃が来る可能性が最も高いのがこちらの方角なんですよね?」


 長距離ライフルを携えたデルガルに乗るラナがコクピットで小さく問い掛ける。


「はい。そのはずです」


 無線で繋がっているジーン同士、ラナの問いには同じ小隊の仲間が答えていた。


『既に姿を隠して接近してきている可能性があることを忘れないでください』


 全体に向けてそう告げたのは駐屯地基地から戦場の様子を把握しているであろうラウル。

 ジーン全機に行き渡るように共通の回線で届けられた言葉は否応なくこの場にいる全てのライダーの緊張感を高めることに繋がっていた。

 基地の周囲に配置されたデルガルを一見すると微動だにしていない。しかし実際はその頭部にある単眼のカメラアイが忙しなく周囲の異変を察知しようと動き回っているのだった。


『熱感知センサーに反応あり! 基地の左舷の方向です! 各員サーモカメラに切り替えて、付近のデルガルは直ちにフェイカーの迎撃に向かってください!』


 ラウルではない駐屯地基地にいる別のオペレーターの男性の声が全てのデルガルに届けられた。

 途端、言われた方角にいるデルガルが一斉に銃口を自機の正面に向けた。しかし銃弾が放たれることはない。どうやら未だにフェイカーの姿を視認することができていないようだ。

 そこにはシリウスと共にラナの小隊が配備されており、小隊長の立場にいる彼女は率先して他のデルガルよりも前に出ていた。

 素早くコクピットのモニターに映し出されている映像をサーモカメラに切り替えることで一面にビビッドな光景が広がる。待機港区画にある無数の戦艦や建造物。そこにいる人の姿や起動していないジーンの姿がシルエット状に浮かび上がるが、フェイカーらしき機影は捕捉することができなかった。

 困惑と焦りを周囲に悟られないように努めながらラナは無線を通して声を掛ける。


「御影神住さん、出番です。予定通りにフェイカーの姿を炙り出してください!」

「……」


 シリウスに乗る神住に向けられたラナの言葉だったが、どういうわけか神住はそれに反応しなかった。それどころかじっと正面を見据えたままライフルを構えることすらしなかった。


「御影神住さん? どうして何もしないんですか?! フェイカーが襲撃をしかけて来たんですよ!?」

「分かっている。だけど、まだ駄目だ」

「何故ですか?」


 シリウスのコクピットに声を荒らげるラナの姿が映し出される。

 双方向の無線通信で繋がっているということはラナにも神住の顔が見えているということ。つまり沈黙を貫いている神住の様子がラナだけではなく、他のアルカナ軍の面々にも見えている可能性があるということだ。

 表情一つ変えず、シリウスを動かそうともしない神住にラナは不信感を募らせていく。

 無言の時間が続いたのは僅かに数十秒。しかしそれだけでもラナは堪えきれなくなったというように表情を変えた。


「もういいです!」


 意を決したように正面を見つめる。覚悟を決めたラナが苛立ちを隠そうともしないで無線で本部に訊ねてみることにした。


「ラウル中尉、私がフェイカーの迎撃に向かいます。よろしいですね?」

『だが…』

「彼は動くつもりが無いみたいですので、このままでは私達はフェイカーに先手を取られてしまいます」

『わかった。攻撃を許可――』

「待ってください」


 ラウルが攻撃指示を出す直前に神住がそれを止めた。


「一つ確かめたい事があります」

『確かめたいこととは?』

「何故さっきは熱感知に反応があったと思いますか?」


 機器の誤作動でも無かった限り、サーモカメラに切り替えたとてフェイカーの姿を確認出来ていない現状だと神住にはそれは自分たちを誘い出す罠に思えて仕方なかった。

 だから動かない。いや、正確には動けなかったのだ。

 本当にフェイカーはこの近くにいるのか。それすらもあやふやなままだからだ。

 戦場では動かないことよりも動くことの方が簡単な瞬間もある。相手が接近しているという事実を目の当たりにしながらもじっと待ち構えるのにはそれなりの胆力が要求される。ラナには、あるいはその部下の一部にはそれが足りない者もがいるのだろう。

 先程のラナの進言はそれを考慮した上での発現のように神住には聞こえていた。

 けれど今回、この場に限れば神住の問い掛けによってそれは止められた。一度冷静になって思考を巡らせる時間が与えられたのだ。


「他の地点ではフェイカーの姿が観測されているのですか?」

『いいえ。まだ何も発見出来ていません』

「だとしたら、先程の発見は俺達を誘き出すための罠の可能性があります。だから――」


 神住が全てを言い終えるよりも前に一発の銃声が鳴り響いた。

 コクピットの中で咄嗟に振り返る神住。シリウスは神住の動きをトレースして僅かに体の向きを変えていた。

 銃声に驚愕しているのはラウルやラナたちアルカナ軍の人たちも同様。駐屯地基地のモニターに常時映し出されている全てのデルガルのコクピット内の様子。その中の一つに呼吸を荒らげて涙目になっている年若いライダーの姿があった。


『マット一等兵、動きを止めなさい!』

「あ、ああ、す、すいませっ……」


 ラウルの声はこの若いライダーを責めるものではなかった。どちらかと言えば自らの失態を責めているかのような声だ。

 小隊を構成するとき、その方針は指揮官によって異なる。より攻撃力を高めようと考える者がいれば、各員の生存率を向上させることに重きを置く者もいる。ことラウルに限って言えば彼が重きを置いているのは小隊のバランスだった。ライダーの技量、デルガルの装備、ありとあらゆる要因を考慮して得手不得手がでないようにと組まれている。

 ラウルの考えではマット一等兵という若手のライダーが組み込まれる小隊にはそれなりに熟練したライダーがいることが望ましい。今回、ラウルがその目的で選出したのがラナ・アービングという人物だった。

 しかし今回はその配慮が裏目に出てしまった。例え経験が浅くとも問題は起こらないはずだと考えていたのがミスに繋がってしまった。

 だが、ラウルはそれを声には出さずに必死に起きてしまったことへの対応を考え続けていた。


『ここからはいつフェイカーからの攻撃があってもおかしくはありません。各員警戒を強めてください』


 冷静に伝えられたその言葉を聞いてデルガルのライダーたちの緊張感は否応なく高まっていった。

 相手の姿が確認できていない現状でデルガルが出来ることは殆ど無い。せいぜいフェイカーの攻撃に備えて武器を構えることくらいだ。

 マットが乗るデルガルが持つ長距離ライフルから放たれた弾丸は遙か彼方、あらぬ方向へと飛び去ってしまっている。せめてそれが命中していれば話は違ったのだろうが、残念なことにマットの射撃は戦闘開始を告げる号砲の役割しか果たすことはなかった。


「うわあっ!!!」


 突然一機のデルガルがその機能を停止した。

 機体に空いた穴が物語る。それは先程のマットの射撃が外れたことを嘲笑うかのように、正確に一発の弾丸がデルガルのウィークポイントを撃ち抜いたことによって作られた穴だ。

 先に一機のデルガルが沈められたことに対する動揺は想定していたほどは広がっていない。全てのライダーが自ら冷静になるように努めて、倒されたデルガルの近くにいる別のデルガルが一斉に弾丸が発射されたと思わしき方向にそれぞれが持つ銃火器による一斉放射を行った。

 舞い散る硝煙と排出される無数の薬莢。

 残念なことにそれらはフェイカーを捉えることなく、反対にデルガルは一機、また一機と正確な狙撃によって沈められてしまっていた。


『くっ、このままでは。基地正面と右舷方向に配備されているデルガル小隊は素早く左舷方法に集合して援護してください。損傷が少ない隊員は攻撃よりも負傷したライダーの救出を優先してください』


 フェイカーの襲撃は左舷方面からであると割り切ってラウルは基地周辺に散らしていた小隊を集合させることにしたようだ。


(シリウス)はどこに?』


 モニターで戦況を確認しているラウルは神住の姿を探した。

 攻撃を受けている地点にいるのはデルガルだけではない。神住が操るシリウスもまた同地点に配備されている。

 駐屯地基地にあるモニターが映し出したシリウスは左手に備わるシールドでフェイカーの狙撃から身を隠しながら、じっと堪えてその瞬間を待ち続けていた。


「大体の位置は掴んだ」


 誰にも聞かれないような小声でそう呟いた神住は右手のライフルを構えて、銃身に取り付けらたアタッチメントを狙撃をしているフェイカーがいると推測した方へと向けた。

 ロケットランチャーの弾ほど大きくはないが、デルガルが使っている一般的な銃火器に転用するには大きすぎる弾丸が装填されているライフルのアタッチメントをフェイカーがいると考える方角の上空に向けて放つ。

 日が暮れ始めた夕方に打ち上げられた花火のように空にめがけて一直線に飛んで行き、空中で弾けた弾丸から降り注ぐキラキラと煌めく極細の無数の何か。

 雨に混じって降り注ぐ小さな欠片は神住がフェイカーの光学迷彩を打ち破るために作り上げた電波を阻害する特殊な機能を持つ金属片である。一応目に見える変化もあったほうが良いと考えて金属片が触れたもの全てに簡単には落とせないインクが付着する機能も付けていた。そのために、降り注ぐ金属片が当たった範囲は全て自然本来の色から異なる、明度の高い紫色へと変化していった。

 それにより浮き彫りになるフェイカーの機影。

 事前に見た映像の通り、元々デルガルに酷似しているその外見は斑な紫色に染まったことでよりアルカナ軍のデルガルとは異なる印象がもたらされた。


『あれは、密かに流通している型落ちのライフルのようですね』


 モニターに映るフェイカーを見つめながらラウルが忌々しげに呟く。

 フェイカーが持っている武器がパイルバンカーから過去にアルカナ軍が採用していた長距離ライフルに似た物へと変わっていたのだ。

 アルカナ軍が使っている武器の多くは特別な機能を持つ特注品というわけではなく、全ての機体が装備しても問題がない量産品である。しかしそれらは基本的にアルカナ軍と武器メーカーが独占契約を結び作成し、管理していることで一般に流出することは滅多にない。

 管理を容易にすること、外部に自分たちと同等の装備を使われる危険性を減らすことがその目的とされており、事実その全てが管理できていることが理想だが、どうしても少数の漏れは出てしまう。そういった流出品の一つがフェイカーが装備している長距離ライフルなのだろう。

 トライブのジーンが使っている銃火器もアルカナ軍が使用していたものである場合がある。しかし、それは大抵次世代の武器が採用されて使われなくなったものを再開発したメーカーがそれぞれ独自にトライブに向けて販売しているものであり、手に入れたあとにそれぞれのトライブによって独自の改良が施されているものが大半だった。

 斑な紫色が機体に付着したフェイカーの姿をその目に捉えて、ラウルが叫ぶ。


『今です。全機、再び姿を隠される前に攻撃を行ってください!』


 雨に濡れ、泥を被っても効果を失うことがなかったフェイカーの光学迷彩がこの瞬間には破られている。千載一遇の好機であることを知っているからこそ、ラウルは素早く指示を送ったのだ。

 いつ光学迷彩が復活するかわからない。そんなラウルの心配は杞憂に終わる。

 再び光学迷彩を発動させて姿を消そうとしたその瞬間にフェイカーの全身にノイズのようなものが走ったのだ。インクや金属片が付いていない指先や頭部の先から背景と同化していくが、紫色のインクが付着した箇所に差し掛かった瞬間、それまで変化していた部分も全ての迷彩が解除される。


「フェイカーの光学迷彩が全身に鏡面のような薄い膜を発生させているのだと、あるいはホログラム投影の技術を流用して機体表面に別の映像を投影しているのだと仮定したとしても、機体に付着したその金属片にはそういった変化を阻害する効果を持たせてある」


 口元に笑みを浮かべながら神住が独り言ちる。

 シリウスが無線通信を繋いでいるのはニケーとアルカナ軍のデルガルとラウルたちがいる駐屯地基地だけ。フェイカーには届かないと知りつつも説明口調でそう告げたのはラナたちに金属片の効果を正しく理解してもらうためだ。


「雨で洗い落とそうとしてもそう簡単にはいかない。剥がすには装甲ごと削り落とさなきゃな」


 姿を消すことができないことに戸惑っているように見えるフェイカーに向けてシリウスは役目を終えたアタッチメントを排出したライフルで狙いを定める。


「ほら、駄目押しだ」


 神住がコクピットで引き金を引く。

 撃ち出されるのは実弾ではなく青色の光弾。

 シリウスの全身を血のように駆け巡っている光粒子を圧縮した光弾は多少の雨くらいでは影響を受けることなく違わず狙い意通りの場所を撃ち抜く。

 ノイズの走るフェイカーの外部装甲(アウターアーマー)の表面を今度は激しい火花が迸った。

 照射するのではなく単発の射撃だったが故に完全にフェイカーの外部装甲(アウターアーマー)を貫くことはできなかったが、それでもその一部は焼けるように焦げて砕けていた。


「すごい……」


 たった一回の射撃で戦況を優勢に導いてみせたシリウスを目の当たりにしてラナは思わずというように声を漏らしていた。

 アルカナ軍が使っている実弾を撃ち出す銃火器とは一閃を画す性能を持つシリウスが使っているライフル。もしそれをこの瞬間に自分も使えていたのなら、同じような成果を作り出すことはできただろうか。そんなことを考えずにはいられないほどの衝撃がその一度の射撃にはあった。

 フェイカーの表面に火花が迸るのは一瞬の出来事。

 付着している金属片すら焦がす高温に晒され紫色に染まっていたフェイカーの胸部の外部装甲(アウターメイル)の一部が砕けて剥がれ落ちた。


「やはり素体骨格(コアフレーム)はデルガルとは違うみたいだな」


 胸部の外部装甲(アウターアーマー)の一部が剥がれ落ちてその内側に見えたフェイカーの素体骨格(コアフレーム)はデルガルが使っている素体骨格(コアフレーム)として採用されているものとは形状が異なっていた。

 デルガルのそれは自身の厚い装甲の重さにも耐えて活動出来るように耐久力に長けた素材を使用した、比較的どっしりとした印象のあるものが使われている。それに対してフェイカーのものは外見の印象とは異なりかなり細い。どちらかと言えば高速戦闘を得意とする類のジーンに使われている素体骨格(コアフレーム)が使われているようだ。

 素体骨格(コアフレーム)の形状やサイズを鑑みるにフェイカーが纏っているデルガルを模した装甲はやはりサイズのあっていない服を着ているようなもの。ただし、当初神住が予想していた通りに内部装甲(インナーアーマー)外部装甲(アウターアーマー)の間にある空間に何らかの装置が嵌め込まれているのだとしたら、それは隠蔽に適した装甲を選んだともいえる。

 映像にあるフェイカーから神住は光学迷彩を可能にしている装置の場所をある程度予測していた。かなり小型化されているとしてもそれは頭や腕、足のような頻繁に動かすことになる場所に取り付けることはないだろう。あるとすれば胴体。胸か腹、あるいは背中。


「やはり胸部。それもコクピットの前に隠していたか」


 一番安全性が高い場所の近くというのは理に適っている。そもそも犯人を逮捕することが目的ならば、死なせてしまう危険が伴うコクピットは狙わない。そんな意識を逆手に取った場所だった。

 アルカナ軍の人たちには悪かったと思うが、神住はそもそも自分の前に現われたフェイカーが本物かどうかを見極めることから始めなければならなかった。

 光学迷彩を解くために用意した弾頭は今撃った一発以外にも二発、合計三発分は準備してある。しかし、想定以上に巨大な弾丸になってしまったが故にライフルにアタッチメントとして取り付けられるのは一発が限度だった。


「俺の読みと違っていたのは装甲同士の隙間じゃなくて、素体骨格(コアフレーム)内部装甲(インナーアーマー)の隙間にあったくらいか」


 自分の予想がそれほど外れていないことを自慢っぽく独り言ちる。

 仮に初撃を外してしまうとフェイカーにこちらの狙いがばれてしまう可能性が高い。次弾装填の為にシリウスはニケーに設置してある武装の予備を収めたコンテナに向かう必要が出てくるが、そんなことをしていたのでは姿を隠すことができるフェイカーのほうが有利なまま戦闘を進めなければならない。それを避けるためにも初撃を外すことだけは避けなければならなかったのだ。

 だからこそ神住は無情にも思えるが最初はデルガルが戦う様子を見ていることしかできなかった。その上でフェイカーが装備している光学迷彩の装置がどこにあるか正確に見極めなければならない。

 姿を隠すことができるといってもそれは常時姿を消すことが可能であるというわけではない。

 少なくともフェイカーが攻撃を行う瞬間には姿を現わすことは事前の映像からも判明していたために、その一瞬を狙ったというわけだ。


 フェイカーが銃火器を使っていたことは想定外だったが、狙撃のためにこちらと距離が保たれているのは神住にとって都合が良かった。

 光学迷彩が剥がされながらもデルガルを狙撃しているフェイカーの動きを観察していると射撃の反動を相殺するためのバランサーが背部に取り付けられていることが分かった。

 胸部にある光学迷彩の装置を正面から撃つとライダーにも危険が及ぶ。だとすれば残る胸部と腹部の中間を狙うことで確実に装置を破壊することができるはず。

 ジーンのコクピットが設置されている場所は他に比べて丈夫な素材で作られている。砲弾が直撃すれば危険だが、着弾による爆風や衝撃程度ならばよほど打ち所が悪くない限りはライダーの生命に危険は及ばない。


 なればこそ神住は狙いを定めて再び引き金を引く。

 砕けた外部装甲(アウターアーマー)を更に破壊しながら光弾はぎりぎりの距離までコクピットの近くを削り取っていった。

 あと一発で確実に撃ち抜ける。

 外部装甲(アウターアーマー)が剥がされ内部装甲(インナーアーマー)すら砕け、素体骨格(コアフレーム)が剥き出しになったフェイカーの胸部と腹部の間に狙いを定める。

 威力調整と命中率に長けたシリウスが装備しているライフルならば狙いを違えることはない。

 光が弾ける小さな爆発がフェイカーの前面で巻き起こった。


「これで姿を消すことはできなくなったはずだ」


 胸部と腹部の装甲が剥がれよろめくフェイカーはまたしても姿を消そうと光学迷彩の装置を起動したようだ。しかし変化は起こらない。それまで装甲にノイズのようなものが走っていたという現象さえもさっぱりと消失してしまっていた。

 こうなると多勢に無勢。

 ホログラム投影の機能があっても自らの姿を消すことができないのであれば、その最も効果的な使い方は出来なくなっているも同然だ。


『良くやり遂げてくれました。全機一斉にフェイカーを攻撃してください!』


 全てのデルガルに向けてラウルの声が届けられた。

 逃げられる前にしっかりと倒しておくべきだと考えているのは神住だけではないらしい。

 ラウルの指示を受けて損傷を受けていないラナたちのデルガルが一斉にその銃口をフェイカーへと向けていた。


「待て、それは……(まず)いだろっ!?」


 次の瞬間に放たれる無数の弾丸。その全てがたった一機のフェイカーへと収束していった。

 一斉放射はあからさまな過剰な攻撃。これを受けたのではフェイカーは蜂の巣になってしまう。それではライダーの確保どころか、機体を調べることすら難しくなる。

 焦り身を乗り出した神住の視線の向こうで数多の弾丸を受けたフェイカーがその場で崩れ落ちた。

 否、崩れ落ちたかのように見えた。


「何だ?」と駐屯地基地にいる誰かが言った。


 その呟きに続いて別の誰かが「フェイカーはどうなったのか?」と近くにいる同僚に問い掛けていた。

 駐屯地基地のモニターでは立ち込める土煙によって遮られてフェイカーがどうなったのか判別が付かない。映像が鮮明になるのを待っているラウルの耳に聞こえてきたのは何かが破壊されるような音とアルカナ軍兵士たちの悲鳴。

 常時モニタリングされているデルガルのコクピットの映像が途切れる。それは即ちそのデルガルが破壊されたのと同義だった。


「何が起こっているのですか!?」


 駐屯地基地で叫ぶラウルに答える人はいない。それもそのはず、ラウルと同じように駐屯地基地でモニターを見ている人には現場の状況など正確な所は分からず、現場は報告どころでは無くなっているのだから。

 途切れた映像を戦場を俯瞰する映像に切り替えていく最中、ようやくザッとノイズ混じりの音声が届けられた。


『フェ……が、突如……に…………こちらの被害が………大…………』


 聞こえてくる音声は途切れ途切れではあるがそのことが十分に危機感を煽っていた。

 プッと突然に音声が切れる。

 モニターを見ている人たちに広がる絶望。

 シリウスの攻撃で光学迷彩の装置を破壊、あるいは無効化することに成功して後は圧倒的なアルカナ軍の物量で押し潰せばいい。そう考えていたラウルは未だに見えてこない現場で何が起こっているのか、それを考えるだけで底知れぬ恐怖が押し寄せてくるかのように感じていた。


 フェイカーの挙動が変わったきっかけは間違い無くデルガルの一斉放射を受けたことだろう。

 半分以上の機能を停止したデルガルのコクピットでラナは額を流れる血を拭うことなく、辛うじて生き残っているコクピットのモニターでそれを目の当たりにして考えていた。

 自分たちの攻撃が失敗だったのか。

 するべきではなかったのか。

 そんなことを考えた所で時間は過去に戻らない。

 いつしかこの場にいたデルガルは一機残らず戦闘不能に追い込まれていた。

 生き残っているのは御影神住が乗っているシリウスだけ。

 自分たちの不甲斐なさに唇を噛み締めながらもせめて戦場から目を背けることだけはしないでいようと痛む全身に鞭を打ってラナはデルガルのコクピットハッチを手動でこじ開けて、外界へと身を乗り出した。


「あれが…アルカナ軍ではない……トライブの、シリウスの…ライダーの……力…」


 モニターではなく肉眼で目にする巨人同士の激突。

 全身の装甲が剥がれ素体骨格(コアフレーム)が剥き出しの状態に近くなっているフェイカーと、土色の煙の中にいながらもくすまない白と青の装甲が気高さを醸し出しているシリウス。

 印象の異なる二機のジーンがいくつものデルガルの残骸に囲まれた戦場をまるで舞踏会の舞台ように、そこで優雅にダンスをするかのように、凄まじい戦闘を繰り広げていた。


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この10ポイントが本当に大きい。

大切です。

製作のモチベーションになります。

なにより作者が喜びます。

繰り返しになりますが、ポイント評価を宜しくお願いします。

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