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第八話 LIVE配信⑥

■ホテルリゾートマリアンヌ2F エレベーターホール

25:38 視聴者数:15254


 レイに続きマモルまで消えてしまい、ユア達は4人になってしまった。

 このままでは不味いと、話し合う4人。配信のコメントを見る為には、マモルの持つノートパソコンだけが頼りだった。

 何故か圏外のスマートフォンでは、配信画面を見る事は出来ない。

 だがマモルは既におらず、もうここに居る4人で考えるしかない。

 そして視聴者達も、彼らにはもうアドバイスが出来ない。ただ彼らを見守る事しか出来ない。


「これからどうする? もうこれ以上減るのはゴメンだぞ」


 カズトは苦々しい表情で、これからの指針を問う。彼は肉体労働派で、頭脳労働は苦手だ。

 他の3人も、そこまで頭が良いタイプではない。現場で動く方が得意である。

 ブレーンを失った彼らは、これからどうするのだろうか。6つある映像の内、2つは真っ黒になっている。

 消えた2人は生きているのか、それとも死んでいるのか。支配人の歓待は、どの様なものなのだろう。


「…………このまま脱出の手段を探すしかない」


 ミナトはそう答えた。確かにそれしかないだろう。ジッと待っていれば解決するとは思えない。

 コメント欄では様々な考察と、彼らへの応援で溢れている。無事に帰って来てくれと、願うコメントが流れて行く。

 プロパンガスを爆発させたらどうかと、コメントで書いている者が居る。


 だがマリアンヌは解体工事が二度行われている。そんな危険物は真っ先に撤去されている筈だ。

 仮に残っていたとしても、それでガラス戸が破れるかは怪しい所だ。

 これはサメ映画ではないのだから、爆発で解決する様な話ではないだろう。


「換気ダクトとか、上手く使えないかな?」


 ユアが思いついた事を発言する。そう悪くない提案だと、視聴者達は受け止めている。

 もし入口まで繋がる様なダクトがあれば、そこを通れば脱出できる可能性はある。


「確か4階に、スタッフルームがあった筈。地図とかあるかもな」


 案内表示を見て覚えていたミナトが、4階へ行く事を提案する。


「何もしないよりは良いか。俺は構わないぜ」


「ウチも」


 カズトとマホも賛成したので、ユア達はスタッフルームを目指して移動する。

 マモルを連れて行った何者かに警戒しつつ、慎重にユア達は進んで行く。

 先頭をミナトが、殿をカズトが担当して女子2人を守りながらの移動だ。

 無事に4階へと到着したミナトは、安全を確認してから3人を呼んだ。


■ホテルリゾートマリアンヌ 4F スタッフルーム

25:53 視聴者数:15852


 深夜2時前ともなれば、流石に視聴者の伸びが落ち着いたのか急激な増加はない。

 しかし大きく減る事もなく、同時接続者数はかなり高い。同接のランキングに載っている様だ。

 心霊スポットの配信が、本物ホラーになったのだ。こうなるのも無理はない。

 このままアーカイブが残れば、とんでもない再生数を稼ぐだろう。

 だが今はそんな事より、彼らが無事生きて帰ってくれる方が遥かに大切だ。

 スタッフルームで地図を探す彼らは、あちこちの棚や机を探し回っている。


「どうだカズト、あったか?」


「いやまだだ、見つからん」


 お互いに声を掛け合いながら、彼らは探索を続ける。そうでもしないと不安なのだろう。

 既に2人も仲間が居なくなり、怪しげな存在も目にした。気丈に振る舞っているが、恐怖心は今もあるに決まっている。


「マホはどう〜?」


「それっぽいのは無いかなぁ」


 どこに何があるかも知らないのだ。彼らが都合良く簡単に地図を見つけられる筈もない。

 そのまま10分以上、地図を探し続ける彼らの映像が流れ続けている。

 またいつおかしな現象が起こるか分からない。観ているこちらも緊張感が高まる。


「あったぞ! 建物の地図だ!」


 ミナトが遂に目的の地図を見つける。排水管やダクトなど、詳細が書かれている様だ。

 カメラ越しなので細かい文字は読み辛いが、書かれている事はある程度分かる。

 ミナトは地図を見ながら、換気ダクトの流れを読み取って行く。

 こう言う時はマモルが1番適任なのだが、居ないのだから仕方ない。

 頭脳労働派ではない彼らだけで、どうにかしないといけない。

 時間を掛けて彼らは、防火扉の向こうへ繋がる換気ダクトを発見した。


「これだ! 防火扉から少し離れた壁面だ。このダクトなら、防火扉の向こうに行ける」


 遂に脱出ルートを見つけた彼らは、明るい表情を見せる。暗く淀んだ空気が、少し晴れた様子だ。

 視聴者達も新たな光明に、喜びを示している。このまま彼らが無事に脱出できれば。

 それを願う視聴者は大勢居る。もう心霊現象がどうとか支配人だとか、そんなものはどうでも良い。

 早速行動を開始しようと、ユア達はスタッフルームを出る。そして1階へ向かおうとした時、異変が起きる。

 画面にノイズが入り、しっかりとした映像が見えない。何が起きているのだろうか。

 カズトのカメラ映像に、白い何かが映っている。人間の様に見えるが、詳細は分からない。


「……け! ここは任せ……」


 音声も途切れ途切れで、良く聞こえない。電波障害でも起きているのだろうか。

 元々スマートフォンが圏外なのに、何故か配信は続いているという状態だ。何が起きても不思議ではない。

 読み取れるのは何者かが現れて、カズトが対象に回ったのだろうか? という程度だ。

 その直後にカズトのカメラが落下して、床を転がり壁か何かにぶつかって止まる。

 彼も駄目だったのかと、落胆と悲しみが視聴者に広がる。ミナト達3人の映像が元に戻り、彼らは1階へ向かっているのが分かった。


「はあ……はあ……クソッ!」


 ミナトが立ち止まり壁を叩く。仲の良かった仲間達が、今では3人まで減ってしまった。

 彼の悲しみは相当なものだろう。楽しく青春を謳歌していた彼らが、あまりにも不憫でならない。

 観ていられなくて、視聴を断念する者も少なくない。それでも視聴者数は伸びているので、相当な注目を集めているのだろう。


■ホテルリゾートマリアンヌ 1F 東廊下

26:14 視聴者数:16072


 カズトまで失った事で、3人はより慎重に移動している。出来るだけ早く行きたいが、何が起きるか分からない。

 そんな彼らの気持ちが、観ている側にも嫌と言うほどに伝わってくる。

 このまま全滅してしまうのではないか、そんな懸念をしている者も居るようだ。


「アイツは来ていないな?」


 ミナトが周囲を確認しながら、慎重に先導して行く。先頭がミナト、真ん中にユア、そして最後尾がマホである。

 恐らくは彼らが遭遇した、例の支配人と思われる存在を警戒しているらしい。

 ハッキリとは見えなかったが、マモルを掴んだ腕や先程の白い服らしき物は、制服だと思えば納得が行く。

 生前と変わらず、真っ白な制服を着て今も支配人はマリアンヌで働いている。

 もはやその事を疑う者は、ここの視聴者には居ないだろう。

 彼らを助けに行くと表明した者達も居るが、警察の説明が事実なら…………恐らくは行っても彼らを救えない。


「オッケーだ。来てくれ」


「分かった」


 慎重に歩みを進めるミナトに続き、ユアがその後を追いかける。開いたドアなどの遮蔽物を利用し、姿を隠しながら進んで行く。

 それが果たして支配人に有効なのか、それは誰にも分からない。

 ドアの影に隠れたユアが、後方に居るマホを呼ぶ。


「良いよマホ!」


「オッケー!」


 小声でやり取りをしながら、マホがユアの後に続く。ホッと一息ついた時、真っ白な腕がマホの頭を掴んだ。


「いやあああああああ!?」


「マホーーーーー!!」


 物凄い速度でマホは暗闇へと消えて行く。一瞬で見えなくなったマホ。

 彼女の画面は信じられない速度が出ており、人間が出せる移動速度ではない。

 カメラが何かにぶつかったのか、マホの頭部から落ちて階段を転がり落ちていく。

 階下に落ちたカメラは、天井を映したまま何の動きもない。ユア達はもう、2人しか残っていない。

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