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小物貴族が性に合うようです  作者: スパ郎


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106話 どこにもやらかす人はいる

 みんなが集まった前で、今回の選抜試験について俺が気づいたことを共有していく。


 ギヨム王子にレ家のテオドール。アーケンを初めとした強者たちが勢ぞろいとあって、何事かと姿を隠していた他の生徒たちも集まり出していた。


 大物集まるところに自然と小物も集まる。これ自然の摂理成り。


 強者ばかりを相手にして来た試験期間中だった。ボロボロになった体を労わりながら、声を張る。


「みんな、もう試験は終わった。俺たち一年生の勝ちだよ」


 ところどころ出血しているので、傍へとやって来たテオドールの外套を破いて応急処置用の布地とさせて貰う。


 信じられないものを見る表情をされた。どうだい? 俺の『服ビリ』スキルは。日に日に上達しているんだ。


 地面がぬかるんでいるせいか、木の上から様子を見守っている生徒もいた。みんな身体強化が当たり前に使えるから、高い木に登るのだって苦労しない。この学園の生徒はみんな難しいことを容易にこなすから、とても凄い場所にいるんだなって毎度思っちゃう。本当に、良い結末を辿れてよかった。本当に。


「実はこの選抜試験、俺たちはディゴールの思惑通りに動かされていた。あまりにも理不尽な試験内容に、自然と仲間に亀裂が生まれるように」


 絶望的な内容を突きつけられて、心理的余裕をなくさせる。

 誰かが退学しなければならない試験であるならば、必然と自分以外にそのリスクを押し付けたがるのが自然だ。


 今年、俺たちの学年の仲が良くて助かった。けれど、それでも分裂の危機は常にあった。


「……ハチ、だから僕たちが分裂しないように君はずっと一人で嫌われ役を買って出ていたんだね。本当に……ごめん」

 勘違いしていて悪かったって感じでニックンが謝罪してくる。

 けれど、全く気にしなくていい。


 むしろ、そうでなくてはならなかった。ニックン程親しい友達でも俺の臭い芝居に気づけなかった。それはやはり選抜試験のプレッシャーが凄かったからだろう。

 あんなピリピリした雰囲気の中、俺が自分だけ助かってやる! なんてことを言えば疑うのも無理ないよね。


 俺がニックンの立場なら、その嫌なやつの好きな食堂のメニューに下剤を入れるような姑息な手段を取っていたに違いない。小物は姑息なので、多分本当にやる。


「謝る必要なんてないよ。誰かがやらなきゃならない役だった。それに、俺はポイントが高くて自然とこの役割に向いていた」

 それと小物には失うものもない。


 王位継承のあるギヨム王子。王国最大貴族のレ家のテオドール。主人公アーケンなどを退学させてみろ。とんでもない。国レベルの損失だ。歴代最高の才能が揃った今期で、いきなりとんでもなく躓く事態になっていた。


 その点、俺が退学しても、学園の食堂が少し物静かになるくらいのデメリットしかない。むしろ前月から食費が大きく下がっていないか? と官僚出身の職員たちが頭を悩ます謎メリットくらいになっていただろう。


『あれ? なんで今月から学費がこんなに安く?』

『ああ、先月厳しい試験があっただろう。あれで数名退学したんだよ』

『数名って……。食費が3割も安くなっているんだぞ』

『ふぁっ!?』


 学園の七不思議として30年後の生徒に語り継がれるところだった。


 そして、俺が食い過ぎていることをまだ官僚出身の職員たちにバレる訳にはいかない。

 今年は300人が入学したから食費が高いってことに今のところはなっているみたいだし。


「ポイントが高かったのは、真の狙いが俺の退学だったから。クラウスは狙いをぼやかす為に、俺に巻き込まれちゃったんだけどね。それにしても、なんで俺がターゲットだったのだろうか? まあ、今それはいいや」

 脳内で一瞬食費のことばかり考えてしまったが、皆が試験のことについて聞きたがっているのでちゃんと説明に戻る。


 みんなは俺が10ポイントだった真の理由が、個人的に狙われていたからという説明に驚いていた。おいおい、どうしてだよ。だれか気づいてもおかしくないと思うのだが。

 こんな小物に10ポイントが付いていたことをもっと不思議がってくれ。やはり試験のプレッシャーが小さな違和感にも気づかせなかったのだろうか? この試験はやはり人の心理をよく理解した試験だ。100年前に作られた非情であり、非常に良くできた試験。


「ハチを退学に? なぜそんなことに」

「全く心当たりがない」


 外務大臣であり、レジェンドであるディゴールを動かせるほどの人物に恨まれる覚えなんてないんだが?

 食堂のパンを食い過ぎたくらいしか、俺には罪がない。食堂の職員が俺に恨みを持っているなら甘んじて受け入れるが、彼らが外務大臣を動かせるとも思えないし……。


「また今度考えるか。疲れたよ。試験の話に戻ろうか。ハンティングゲームのルール、みんな何度も読み込んだよね?」

 少なくとも、俺は10回も読み込んだ。目を疑う内容に、信じられない気持ちがそうさせた。


 何名かが頷く。やはり俺と同じように多くの生徒が読み込んでいた。

 なら、この文言も覚えているはずだ。


『・フィールドに入った時点で参加者として記録される』


 俺がルール説明の一文を口にすると、うんうんと反応するのが半分。そんな説明あったか? と反応するのが半分。


 ギヨム王子、テオドールは当然知っている。仕掛けた側の人間なので。アーケンは鼻をほじっていて知らなさそう。興味も無さそう。ニックンとシロウは今思い出したように目を見開いていた。他の集まった一年生たちも、それに何かあるのかと強い興味を示す。


「一見、関係なさそうな説明。フィールドに入ったら参加者として記録されるってなんだよ。俺たち一年、全員強制参加じゃないのかよ」

 俺のツッコミも当然だろう。この点に違和感を覚えていたのはきっと俺だけじゃないはず。むしろその数は多かったように思う。


「これはつまりディゴール、そう、試験主催者側からのヒントだったんだよ。明らかに不要で違和感のある説明。この一文は、真の合格ルート、つまり俺たち生徒以外がハンティングゲームに参加し得る可能性を示唆していた。これに気づいたとき、俺は今回の計画を立てたんだ」


 ようやく話が見えて来て、皆が驚くと同時に、少しすっきりした表情を見せる。

 慌てて、ニックンが話に入って来た。


「ちょっと待って。ハチが嫌われるように立ち回っていたのは、自分だけが退学するためじゃなく、この真の合格ルートを狙っていたから?」

「その通りだよ。試験発表日から、ハチはこれに気づいて僕のところに相談に来たんだ」


 テオドールが代わりに説明してくれた。

 中央中庭での喧嘩。


 みんな、おかしいと思わなかったか?

 テオドール程の大物が俺みたいな小物と喧嘩なんてしないんだよ。


 喧嘩は同じレベルでしか発生しない。大物が喧嘩するのは大物相手。小物が喧嘩するのは、残った半額焼きそばパンを巡っての、小物同士の醜い戦いでしかあり得ない。


「ハチ……君はそれに気づいてから、自己犠牲……いいや、ずっと真の合格のために一人で動いていたのか」

 なんか、ニックンが泣き始めてしまった。

 そんなに申し訳なく思う必要なんてないよ。


 今年の一年生は優しい人が多くて、みんなすぐに俺に同情しちゃう。

 失うものがない俺には、少しだけ苦しい期間だったけど、まあもう一度やれと言われても出来るくらいのきつさだった。つまり、なんてことは無いってことよ。また困っても、俺に任せればいい。汚れ役は小物の役割だ。


「テオドールに協力して貰い、試験初日に俺のポイントを奪わせた。ギヨム王子が協力していたのは予想外だったけどね。横から襲われた傷、めっちゃ痛いです」

 少し意地悪なことを言うと、ごめん、ごめんと謝る仕草をされた。ふふっ。良い仕返しが出来たよ。


「でもおかげで、俺たちの決裂に真実味が増した。俺のポイントが奪われて1年生同士の争いが止まる。そして、もう一つの狙いも動き始める」

「外部の参加者を誘う……そのための演技」

「そう、その通り」


 シロウが代わりに言ってくれた。

 初日の戦いには、この二つの意味があった。


「俺が諦めない態度を見せていたから、監視していたディゴールとしてはこう考えるんじゃないかと思った。『自分の手で仕留める。取り返せない体にしてやれば、このまま退学だ』とね」

 それを狙い、ずっとディゴールの影のカラスにアピールしていた。


 けれど、それもディゴールの……。


「釣れたんだね」

「結果としては釣れた。そして、戦った」

「てことは、勝ったの!?」


 勝った、か……。

 うーん。勝ったには勝った。


 けどなぁ。多分ディゴールは本気じゃなかった。

 本気じゃないって言い方は違うな。


 あの人は全力で戦ってくれた。けれど、おそらくまだ秘めた力はある。

 それに戦いの最中にも俺にいろいろ教えてくれるし。


 改めて、俺はいつも人に恵まれていると思う。これまでの人生ずっとそうだった。

 きっとディゴールのヒントがなければ、俺はスキルを修復するなんて発想、一生は生まれなかっただろう。


 魔力の理を重視するグラン学長。紋章のスキルを重視するディゴール。二人は違う道を行っているが、そのどちらも素晴らしい。


 ディゴールが学生時にハンティングゲームで躓いていなければ、もしかしたらこの学園に対抗するような素晴らしい学園がもう一つできていたかもしれない。彼が自分の行いに後ろめたさを感じていなければ……存在しないそんな世界線に、少しだけ思いを馳せた。


「勝った……。ギリギリね。そして、ディゴールの懐から出てきたは、裏切りの計画書」


 この場に生徒が集まり出したのを見て、次々に1年生が集まってきている。途中から話を聞いている生徒は、こそこそと説明を受けていたりもした。

 その中で、数名が一瞬目を背ける。そして、その明らかな動揺を見るに、やはりあの『集団でクラウスを狩る』計画書は本物だったのだろうと思わされる。


 ディゴールの言う通りだった……。偽造ではない。本物の計画書。でも。


「気にする必要なんてないよ。何度も言うように、この試験はそうするように仕向けられているんだ。人の弱さに付け込んだ内容。……誇らしいことじゃないのは間違いない。けれど、その計画書を作った人たちはクラウスを襲わなかった。俺は今、それがただただ誇らしいよ。本当にそう思っている」


 恨んでなんていない。不信感もない。

 今回のことを申し訳なく、そして恥じているからこそ顔を背けたのだろう。


 これを忘れずいてくれたらいい。そして、人生でまたこのような追い詰められたとき、もうこんな計画を立てない人間になればいい。人を排除せず、自分と仲間を守るように考えればきっと道は見つかるはず。それをわかってくれたはずだ。


 みんな、ここまでの話に驚いていたが、ここからは俺も驚いたことである。


「そして、みんな見て。これには俺も驚いたよ」

 集まる情報。感じる違和感。徐々にこの試験はディゴールの手のひらの上で転がされている気がして、彼を倒した後に懐を探った。


 おやじ狩りみたいな行動にも見えるが、そうではない。

 その証拠に、胸元からは財布じゃなく『30ポイント』分のカードが出て来たのだから。


「この30ポイント分のカード。30単位にもなる凄いものだ。このカードの存在は、つまりディゴールが最初からこの試験に介入するつもりだったことの証拠だ。参加者になるってことは、退学者にもなり得る。ディゴールは、はじめから真の合格ルートを用意してくれていた。わざわざ彼を倒したときのご褒美にこんなものまで用意しちゃって」

「なんため?」

 当然の疑問だ。どこからか聞こえて来る純粋な質問。


 俺たちとディゴールに繋がりなんてない。

 外務大臣ディゴール。その存在こそ新聞で軽く見たことがある程度で、全く別の世界の人って感じの関係性だった。まさに雲の上の人。


 それなのに、ディゴールは俺たちに理不尽な試験を課したように見せて、真の合格ルートを用意して、真価を試していた。

 なんのためか。


「100年前、自身の成し得なかった真の合格ルート。それを俺たち黄金世代と呼ばれている代に託したんだ。つまり、ディゴールが見たかったのは、まさに今この景色。俺たち一年のポイントが誰も移動しておらず、ディゴールのポイントだけが俺たちの元にある、この光景こそが彼の見たかったもの!」


 彼は100年間、ずっとこの光景を見たがっていた。

 いいや、そうじゃないか。


 ディゴールは、本当なら100年前に、親友であるグラン・アルデミランと共に、当時の同級生たちとこの光景を見たかったはずなんだ。


 彼は戦場で活躍し、外務大臣に上り詰め、クリマージュ王国にてレジェンドとまで呼ばれる人物になった。

 新聞に載るほどの大物になったにも関わらず……俺も新聞に載りたいなぁ……心にはずっとこの試験の後悔があったんだ。


「当時の仲間を退学に追い込んだこと。自分の心の弱さで、仲間に手をかけたこと……ディゴールは100年間もずっと苦しんでいたんだ。ずっと、ずっと一人で孤独に」

「あなたが記憶の図書館で見た光景はそれだったのね」


 気づけば、女子生徒のまとめ役であるクラリスもいた。1年の大物勢ぞろいってか、気づけば300人全員いないか? 少なくとも200人を超す人数が集まり始めていた。この二日間、みんな息を潜めていたというのに、人恋しかったのかな。それとも何事かと不安になって音を頼りに集まり出したか。


 とにかく、みんなに説明できるのはいいことだ。


「その通りだ。学園にある記憶の図書館で偶然、いいや、偶然じゃないか。あの図書館は必要な記憶を見せてくれるらしい。俺はそこで、ディゴールとグラン学長の過去を垣間見た。過去から見えた、ディゴールの後悔。ハンティングゲームに付け込まれて、心の弱さを露呈して仲間を退学に追い込んだ過去を見た。俺はその時から、この試験に真の合格が用意されていることを確信した」


 わざわざ小物を退学させるために外務大臣を動かすどこかの変わったクソ野郎の思惑。ディゴールはそれに乗っかったふりをして、実は自分のために動いていた。偶然回って来たこんな機会を、彼は過去を清算するために動き回った。


 こんなふざけた試験、突破できるはずはない。自分の行いは正当なものだった。友人を守ったあの行動は正しかった。


 そう思う反面、100年後に同じ試験を俺たちに課すあたり、やはり納得できなかったのだ。

 実は違う道があったのではないか。真の合格ルートを辿れたのではないか。同じ釜の飯を食った仲間の半数も退学に追い込んだ以外の道が……あったのではないかと。


 それが見たくて、見たくて、どうしようもなく無くて、依頼人にこの後罰せられるとしても、違う道を歩めたかもしれないという可能性を見たかった。


「悲しい男だよ、ディゴールは。彼は仲間を思いやれる優しい男だった。それが故に、実に100年もの長い期間、自分を責め続けたんだから」


 ディゴール、見たかったものは見れただろう?

 だからさ、もうゆっくり休みなよ。


 今も空に影のカラスを飛ばしているけど、もう楽になりな。

 あんたは失敗したけど、こんな試験、俺も運が無ければ真の合格ルートには辿り着けなかった。

 自分を責めるのはさ、これで終わりにしないか? あんたは十分、必死に生きたじゃないか。


「簡単には、信じられないよ……」

 ニックンが俯いて、なんだかいろいろと考えに耽っていた。


 俺たちにきつい試験を課したディゴールの過去。突然憎たらしい相手が、実は結構人情味のあるやつだと知っても、なかなか飲み込みづらいよな。ちゃんとかみ砕くんだよ。じゃないと後で胃もたれするから。


「ディゴールへの気持ちは各々に任せるよ。許せない人も多いはずだ」

「その通りだ! あいつのせいで、カイネル先生が退学に!」

「うーん、それだけど」


 多分だけど、カイネル先生残るんじゃないかな?

 具体的には聞いていないけど、ディゴールからしたらカイネル先生の退学なんてどうでも良さそうだし。むしろ、ディゴールはああいう熱い教師大好きだと思う。

 二人のやり取りがその後どうなっているか知らないが、俺は楽観視している。


「俺はたぶん、大丈夫だと思う。まあ、なるようになるさ」


 カイネル先生が退学するようなことになれば、俺が再就職先を探しておいてやる。なんたって、俺には天才姉妹、カトレア姉さんとラン姉さんという最強の人脈がある。黙って俺に任せろ!


「みんな説明は以上だ。結論を言おう。俺たちは誰も退学しない! 俺にポイントをくれようとしてくれたこと、本当に嬉しかった。でも、そんなの必要な。俺たち1年300人、明日からまた同じ釜の飯を食う。そして、この学園から退学するのはディゴールただ一人。それが彼の、そしてこのハンティングゲームによる選抜試験が用意した正しい道なのだから」


 俺たちは正しい道を歩める。

 そう、明日からも。


 何も失わない。一度雨が降ったことで、俺たちの絆はより一層強まる。153期は、青春ラブコメもびっくりな酸っぱいイベントを経験して、更なる団結を得るのだ。


「……納得いかないよ。こんなの」


 ハッピーエンドかと思いきや、ニックンが俯いていた。悔しそうに拳を握りしめる。どうした、ニックン!? 腹が減ったか!?


「ハチ、君には大きな欠点がある」

「え……な、なに?」

「自分を大事にしないってことだ。僕たちはハチが好きなのに……あんまりだよ。失敗したら、ハチだけが損してたんだ。僕たちの成功みたいに言っているけど、結局ハチだけが重たい荷物を背負っているだけじゃないか!」

 さっきから泣いていたニックンだったけど、今は感情のままに大泣きしていた。


 ニックンの肩に手を乗せて、視線を合わせる。

 にっこりと微笑んで、彼に伝えた。


「でも、うまくいった。ニックンが俺のことを好きなように、俺も1年のみんなを信じたんだ。だから、上手く行った。それでいいだろ?」

 まだ言いたいことはあるはずだ。

 でも、ニックンはそれを飲み込んでくれた。


「……うん。でも、これだけは言わせて。ありがとう、ハチ」

 感謝なんて。

 俺は自分のやれることをやったまでだ。


 シロウがニックンの介護をしてくれて、胸元でワンワンと泣く彼を抱きしめている。嫉妬深い彼女さんが凄い見ているけど、大丈夫そう?


「美しい光景ですね」

 近寄って来たのは、クラリス。

 彼女が記憶の図書館を案内してくれたから、真の合格ルートを確信できた。

 この試験の、影の立役者だ。


「人の感情はやはりとても面白いです」

 化け物みたいなことを言い出したぞ。

 ヒト、ココロ、アタタカイ……タベル。


「次このようなことがあれば、彼らの気持ちも少しは察してあげるべきですね。あなたは無理し過ぎですね」

 うーん、たしかに仲間への配慮は足りていなかったかもしれない。


 でも、俺も余裕があんまりなかったというか……。でも、これだけは言える。


「俺はみんなの役に立てることが嬉しい。小物でも、せこくても、ケチでも、俺は自分が大好きで、この人生を愛している。だから、次同じようなことがあっても、やっぱり俺はこうする道を選ぶと思う」

「ふーん、おもしれー男」


 あっ、それ男バージョンもあるんだ。クラリスの口調にも少し驚いたけど。


 一件落着。

 今度こそ終わりかと思われたが、その時、青ざめた表情で1人の生徒が俺の前に進み出た。


 俺や、王子。他の大物たちや、学年のほとんどの生徒の視線を浴びているから青ざめている訳じゃなさそう。


 その表情は、もっとやばいことが起きたことを示唆していた。


「は、ハチぃ……。そのぉ……」

「ど、どうした。呼吸できているか? ちゃんと深呼吸して、ゆっくりでいいから。なっ?」

「ないんだ……」


 何が?

 え、まさか……。


「ごめん皆。気づいたらポイントが無くて……多分この試験会場に落としちゃったみたいで……!」


 あわわわわわ。

 唇が震える。俺も震えた。


 この馬鹿拾いバトルコート内。今はジャングルに姿を変えて、そこら中に植物が群生している。


 この中から、手のひらサイズのポイントカードを探し出す?

 それは、今から可能なのか?


 とんでもない事態が、最後の最後に待っていた。



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― 新着の感想 ―
クラリスに目付けられた? まあクラウスとクラリス、一文字違いだしな さもありなん
何となく読み始めたらめちゃくちゃ面白くて一気読みした! こんな面白いストーリーをつくってくれた作者にはまじで感謝しかない!早く続きが読みたい!!!
最初はタイトルに惹かれて、次に読み進めていく内に、面白さにハマり、あっという間に全話一気に読み終わりました。今は、続きが早く読みたくてたまりません!!いつまでも待ってます!影ながら応援しております。
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