15.【閑話】エド、ジュニア校に入学するその7
セレネはウィリアムを見上げて硬直した。
「あっ、血!」
「えっ? どこ?」
エドも急いでウィリアムを見ると、確かに頬から血を流している。
「あ、本当だ。枝か葉っぱで切ったみたいだね」
幸い軽傷らしく、キズは小さく、血ももう止まりそうだ。
「ち、治療しないと」
セレネはあわてるが、割合活発な少年であるウィリアムはこのくらいの怪我はいつものことだ。
「こんなの放っておけば治るよ」
セレネは「駄目だよ、見せて!」と彼女にしては大きな声でキッパリと反論した。
「えっ、大丈夫だよ」
のんきに言うウィリアムにセレネは詰め寄った。
「見せて」
「えっ、あ、はい」
セレネの剣幕に、ウィリアムは大人しく傷口を見せる。
セレネは息を大きく吸って吐き出す。
呼吸を落ち着けると、彼女は「ヒール」と癒やしの呪文を唱えた。
セレネの手が白く輝く。
ウィリアムのキズが治った!
「あっ、治った」
「すごい、セレネさんは回復魔法が使えるんだね」
セレネは二人の反応にビクッと体を震わせ、悲しそうな顔で謝った。
「勝手なことしてごめんなさい」
そんなことを言われた二人は驚いた。
「えっ、なんでセレネさんが謝るの?」
「枝のキズは小さくても化膿しやすいからすぐに治療してもらえて良かったよ」
セレネは大きく瞳を瞬かせ、
「本当? 私、余計なことしてない?」
と不安そうに二人に尋ねる。
エドとウィリアムは思わず顔を見合わせる。それからセレネに聞いた。
「どうしてそう思うの?」
セレネはいつもエド達の顔色をうかがいながらおどおどと話す。
特待生に選ばれるくらい優秀でそれに優しい子なのに、とても自信なさげだ。
どうしてなんだろうとエドは気になっていた。
「だって……」
セレネはポツリと話し始めた。
セレネもエド達とは別の班で特待生候補の試験を受けた。
試験の最中、やはりエド達と同じように張り付き毒ミミズを発見し、皆であわてて逃げたのだそうだ。
しかし逃げる時に同じ班の子供達が怪我をしてしまい、セレネは回復魔法を使って怪我を治した。
その時のセレネの行動が評価され、セレネは特待生に選抜されたが、他の班員は特待生にはなれなかった。
「一緒の班だった子に『僕達が怪我したから君は特待生になれたんだよ、良かったね』って言われて……」
憧れの特待生になったものの、セレネはその言葉に深く傷ついたのだった。
エドは首をかしげる。
「その子は何でそんなこと言ったのかな?」
「助けてもらいたくなかったのかな?」
エドとウィリアムには理解出来ない。
「『助けてくれてありがとう』だよね」
「うん、助けてくれてありがとう、セレネさん」
「どっ、どういたしまして!」
セレネはその時言われなかったお礼を、今言われてとても嬉しくなった。
材料はすべて揃った。いよいよ光のミサンガを作る作業だ。
ここからはセレネの指導の下、シロツメクサを編む。
「こう?」
「これで大丈夫?」
「うん、二人とも上手だよ」
シロツメクサを編み込みながら、茎と茎の隙間に日鉱石を入れていく。目をしっかり詰めて編むと石は意外と落ちない。
手首に巻けるような長さに編み、終端の茎の部分から銀ボタンを入れる。編み始めとボタンを重ねて輪にし、茎を巻き込んで留めると土台が出来上がる。
仕上げに白カラスの尾羽を付ければ光のミサンガの完成だ。
「出来た!」
「やったぁ」
「本当に外れるか試してみよう」
早速光のミサンガをはめてみる。
三人は「あっ」と息を呑んだ。
手首にはめた瞬間、光のミサンガは光を放ち、重力の鎖はまるで光に解けるように消えてしまったのだ。
エド達は無事に重力の鎖を解呪した!
これで入部テストは合格だ!
「おーい、皆ー」
その時、イサークもエド達の下にやってきた。
彼は走りながらこっちに手を振っているが、その手には重力の鎖がない。
イサークも解呪に成功したようだ。
「イサークも解呪出来たの?」
エドが聞くと、イサークは答えた。
「『も』ってことは、エド達も解けたの? ミサンガ作れたんだ」
「なあ、イサークはどういう方法で解呪したんだ?」
とウィリアムが聞いた。
イサークは「一人で解呪する」と言ってその方法も皆には秘密にしていたのだ。
「僕は炎の魔法が使えるだろう? だから重力の鎖に集中して炎の力を集めてみたんだ」
「へー。魔法ってそういう使い方が出来るんだ」
「うん、弱い炎では鎖を溶かすことは出来なかったから、集中して火力を上げてみたら出来たんだ」
「すごいね」
「おかげで僕、魔法の使い方が少し上達したかも」
イサークは鍛錬の成果が出て嬉しそうだ。
「あ、イサークくん、手首のところ火傷しているよ」
セレネがイサークの手元に火傷を見つけた。ちょっと痛そうな傷になっている。
「これ? そうなんだよ、上手くコントロール出来なくてやっちゃった。後で保健室に行かないと……」
「少しの間、動かないで。ヒール」
セレネはイサークの手首に手を当てて癒やしの呪文を唱えた。
セレネの手がまた白く輝く。
イサークの傷が治った!
「えっ、セレネさん、回復魔法使えるの? すごいや、どうもありがとう」
イサークがお礼を言うと、セレネは照れた。
「う、うん、あの、大したことないんだけど……」
「あのさ、セレネさん、もしかして、解呪の魔法を使えたりする?」
エドはセレネに尋ねた。
セレネは一瞬ビクッと体を震わせた後、
「うっ、うん」
と口ごもりながら頷いた。
「やっぱり、そうなんだ」
「エドはどうしてそんなの分かるの?」
「魔法学の先生が回復魔法を唱えた時、白く輝くとその魔法使いは白魔法に長けていて解呪の力にも優れているって言ってたの覚えてる?」
ウィリアムはそれを聞いてハッとした。
「さっきセレネさんの回復魔法、白かった」
「それってさ、セレネさんは最初から重力の鎖を外せたってこと?」
イサークが驚いている。
「じゃあ、セレネさんが僕らのリーダーじゃん」
「……」
セレネは困った様子で黙り込んだ。
エドはそんな彼女の図星を指す質問をした。
「セレネさんが黙っていたのは、リーダーになりたくなかったからでしょう?」
セレネはおそるおそる頷いた。
「うっ、うん」
「えっ、なんで?」
ウィリアムは不思議そうだが、エドにはなんとなくセレネの気持ちが分かる。
「二人はよく知らない子達のリーダーになりたいと思う?」
ちなみにエドは嫌派である。
「そっかー、俺達は友達だけど、セレネさんは俺達のことよく知らないもんね」
「うん、それなのにいきなりリーダーはちょっとなぁ」
イサークとウィリアムも納得した。
「黙っていて、ごめんなさい」
セレネは三人に謝った。
思い返すとセレネはエド達に何かとても言いたげだった。
きっと皆が重力の鎖の解き方を探しているのを見て、早く伝えないとと焦っていたのだろう。
だから三人は言った。
「気にしないで」
「そうそう」
「僕らも気付かなくてゴメン」
***
同じ頃、マークも重力の鎖を外すことに成功した。
一人解呪出来なかったスコットは皆が解呪したのを聞いて「くそう、リーダーになれなかった」とくやしがった。
「僕らは皆で物事を決めよう」
「もし意見が分かられたら、まず話し合いをしよう」
「最後は多数決ね」
エド達はリーダーは作らないことに皆で決めた。
スコットの重力の鎖はセレネが解呪した。
皆が無事に解呪出来たので、六人揃って冒険クラブの顧問、ダンネス先生に会いに行く。
先生は六人の腕から重力の鎖が外れているのを見て、ニヤリと笑った。
そして皆に向かって両手を広げ、言った。
「ようこそ、冒険クラブへ」
エド達は冒険クラブに入部した!
一旦エドの話が終わります。
次話からはカチュア達の冒険の続きになります。





